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6-11 調査前夜のエンシェントパレスおさらいミーティング

「お~い、ご飯できたよ~。皆集まって~」


 初日で目標のゴーレム討伐を終えたカイトとリューネのグループは隣接してキャンプを設営して、料理当番のカイトの呼びかけで夕食スタート――他のグループはエンシェントゴーレムに傷一つ付けられなかったので、王都に引き返して装備を整えたりアイテムを補充しにいったりしているので、エンシェントパレスの近くにキャンプしているのはカイト達だけだった。

 

「うっま!これ、ごっつ美味いやんけ!カイトはん、おかわりや!」


 エビュアがガツガツと早食いして、おかわりを要求すると、カイトが皿を受け取って、


「そんなに急がなくても沢山ありますから……はい」


「ホンマか?これなら宮廷召喚士なんて役職より、宮廷料理人になったほうがええんちゃうか?勿体ないで」


 そんな夫のスカウトにセリアは自慢気な笑みを浮かべて、自称弟子のリリーナも誇らしそうに、


「流石はカイト先生ですわ。宮廷よりも我が家の料理長に……そして私の『わからせ家庭教師』になってくださいませ」


 そんな引込合戦にリューネがスープをグイっと飲み干してから待ったをかける。


「ちょっと!カイトはベルリオーズ家の跡継ぎなの!気安く貸し出しなんて私が許さないんだからね!」


 リラックスするはずの時間なのに、また一悶着ありそうな気配がしてきたので、カイトが空気を変えようと躍起になって、


「ま、まあまあ……皆落ち着いて……それよりエビュアさん。明日の調査のためにも、もう一度エンシェントパレスの説明をお願いします」


「お、そうやな。カイトはん達には三日前に説明したけど、今日が初顔合わせのメンツもおるから、ちょうどええ……それじゃあ、もう一度説明するで」


 こうして夕食兼ミーティングタイムに……手紙で概要を知っていた合宿組も、直接エビュアから話を聞くことで理解を深めることができたが、そうすると新たな疑問が浮かんでくる。


「少し質問してよろしいでしょうか?」


「ん?何や?侯爵令嬢?」


「エンシェントパレスは王都の近くだというのに、どうして謎のまま放っておいたのかしら?王都のそばなのですから、もっと本格的に調査するなり、得体の知れないまま放置するより破壊してしまった方がよろしいのでは?」


「まあ、正論といえば正論やな。調査は定期的に行われとるんやが、目ぼしい収穫も無いし、ダンジョンに目立った変化もなく基本的に無害やから、そんなに気合を入れて調べとらんのは事実……でも、胡散臭いからって破壊するって選択肢は王都の防衛的にも無しや」


「防衛的に?こんな場所が?」


「なんや……優秀な生徒ばっかや聞いとったけど、所詮は貴族のお嬢様かいな……ほな、理由がわかる奴はおるか?」


 リリーナは悔しそうに顔を歪めていると、リューネが勝ち誇った顔で手をあげて、


「はい。単純な話よ。遺跡型の人工ダンジョンとはいえ、ダンジョンはダンジョン。つまりは龍脈のポイントなわけだから、迂闊に壊すと周囲にどんな影響がでるか分からないわ。もしかしたらモンスターが活性化したり、新しいダンジョンが発生するかも……」


「お、流石は生徒代表……でも、それじゃあ満点はあげられんのお……他には?」


 微妙な褒められ方をしたリューネはリリーナと同じような顔をして悔しがっていると、意外な人物が手をあげた。


「ふっ、それでは僭越ながらこの美しい僕が……軍事的な観点から王都の地形を見ると、東は『白狼の森』などの森林帯、南は海、西には大きな川、しかし北は開けていて大軍を展開しやすく、特にこのエンシェントパレスのある地点は王都攻略基地を作るには絶好の場所……そうなると、ここにAランクモンスターが徘徊するダンジョンがあった方が防御側から見ると好都合なのさ」


 ドレイクがまともな事を言うので、ほとんどの人間がポカンと口を開けて驚く――普段の行いなどを考えると、そういう反応になるのも無理はないが、ドレイクは得意教科と苦手教科がハッキリしていて、軍事系の授業はトップクラスの成績だった。


「そういうことや。その二つの観点から、エンシェントパレスは王都にとって地味に要衝の場所……せやから、今まで手荒な調査ができずに現状維持を……正確には半ば放置状態やったわけや。でも、それも終いや!なんてったってカイトはんっちゅう強力な味方がいるんやからな!」


 エビュアは目をキラキラさせながらカイトを見つめていたが、カイトは頭をポリポリ掻きながら困ったような苦笑いを浮かべていた。


「ん、んん~……そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、あんまり期待されても……」


「謙遜せんでええって!雷獣連峰の活躍も凄かったが、冒険者時代もダンジョン知識がずば抜けてるってのは、調査書で知っとるで!」


「それは普通の……いわゆる自然発生型のダンジョンは詳しいんですけど、こういう人工ダンジョンは正直サッパリでして……」


 カイトのダンジョンの知識はあくまでも異世界転移前のゲーム知識で、洞窟や山などのダンジョンに大きな変化はなかったが、国や町などは全く変わっており、人工ダンジョンについても同様……そのためエンシェントパレスについては素人同然。

 それでもエビュアは相変わらず楽観的で、


「はははは!まあ、そう緊張せんでええ!明日、実際に建物内に入ってのお楽しみ!それに中にはゴーレムもおらんし、このメンバーなら危険も無いやろうし、新発見が無くてもお咎め無しなんやから、気楽にいこうや!ほな、今日はサッサと寝て、朝一出発するで!」


 こうして模擬パーティー実習初日は無事に終わり、見張りを交代しながら二日目の朝を迎え――


「よっしゃ、出発や!ウチについてくるんやで!」


 朝からテンションMAXのエビュアが先頭になって再びエンシェントパレスへ……しかし、今日は今までのように中庭でゴーレムを狩るのではなく、そこを突っ切って巨大な宮殿にまで突き進む。

 初日に他のグループの多くはエンシェントゴーレムに手も足も出ず撤収したため、早朝からエンシェントパレス内にいるのはカイト達だけだったので、フェリスは得意げな笑みを浮かべていた。


「にしし♪ゴーレム倒せたのボク達だけみたいだね。つまりボク達がトップ……何か御褒美とかあるのかな?」


 エンシェントゴーレムをコシチェイで蹴散らしながら無邪気に喜んでいるフェリスにパレットが少し申し訳なさそうに、


「いえ、模擬パーティー演習は優劣をつけるものではなく、その生徒の志望する仕事の適正を測ることや自分に足りないものを自覚させる事を目的としているので、そういったものは用意されておりません」


「え~、つまんない……でもでも、この調査で成果を出せば王様からご褒美が……ねえ、エビュアちゃん」


「おう、ウチが王様に直談判したる。だから張り切って頑張るんやで……って、そんな話しとる間に入口に着いたな」


 ゴーレムを事もなげに退けて、一行は建物中央部の立派な玄関に到着――これから入る宮殿を、カイト達が無言で観察していると、


「今まで近づいたことはありませんでしたけど、思ったよりも綺麗ですね。とても王国創設時に建てられた建造物とは思えません」


 このメンバーの中で、ある意味エンシェントパレスを最もよく知るセリアがそんな感想を漏らすほどに、建物はしっかりしていて、外壁だけでなくガラスなどにも破損部分が見当たらなかった。


「流石に聖女様はお目が高いのお……これまでの調査で建物全体に聖属性の結界魔法がかけられとって、保全機能だけやなく自動修復機能まであるというのが判明しとるんや。それが伝説の聖女と錬金術師によって建造されたっていう裏付けになっとる」


 それを聞いたカイトは実際に建物を触って確認しながら、


「道理で冒険者に荒らされていないわけですね。この結界強度だと並の冒険者では突破は……そもそもゴーレムに阻まれて終わりか……」


「そういうこっちゃ。ここの入り口から、王家に伝わる鍵を使わないと入られへん……まあ、苦労して結界を破壊して無理矢理中に入ったところで、それに見合うようなもんはあらへんのやけどな……」


「そういえばエビュアさんは初めてじゃないんですね」


「ウチはこれで3度目や……前回も前々回も手ぶらで帰ってきて……まあ、変化や異常が無い事を定期点検しに行ってるようなところもあるんやけど、今回こそ絶対に聖女様と錬金術師の遺産を……その手掛かりだけでも……ほな気合い入れてくで!」


 こうしてエンシェントパレス調査が本格的に始まった。

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