6-8 実習メンバーとの再会と聖女主催前夜祭の誘い
急な王命によって演習地を事前に知っていたカイト達だったが、それが他の生徒に知られると余計にやっかみを買う可能性があったので、素知らぬ顔をしながら模擬パーティー実習の前日に学園の掲示板へ……
「うおっ!予想通りだけど、人でごった返してるな……」
それぞれのコースの演習先と内容が発表されるとあって、多くの生徒が詰めかけていたため、カイト達は少し離れたところで待機していた。そもそもカイト達の本当の目的は掲示板を見る事ではなく、模擬パーティー実習メンバーとの合流だった。
「約2週間ぶりか……なんだかそれ以上に長く感じるなあ」
カイトが雲を眺めながら呟いていると、リューネも同じ空を見上げながら、
「本当ね。その時間のおかげで私は成長できたけど、リリーナとパチョレックもドレイクの領地のドラゴン養成所で強化合宿してたみたいだから、会うのが楽しみね……って……うわぁ……」
リューネが呆れたよう声を出したのは、学園の上空にギラギラした装飾のドラゴンが飛んできたから――周りの生徒は騒ぎ出したが、それに乗っている人間に心当たりがあるリューネはカイトと顔を見合わせる。
「まったく……こんな所に降りてこられたら迷惑だから、広いグラウンドに移動しましょう」
「そうだね……ドレイクはイチイチやることが派手だなあ」
そんなボヤキをこぼしながら人の少ない場所に移動すると、それを待っていたかのようにドラゴンが着陸――それに乗っていたドレイクとリリーナとパチョレックの三人が降りてくる。
「おお、友よ!雷獣連峰で鬼神の如き活躍だったそうじゃないか!身に纏うオーラがますます洗練したようだね!しかし、僕も強さと美しさに磨きがかかって……あ、ロシナンテ!ハウス!」
いつもの芝居がかったセリフで再会の挨拶をしながら飛龍のロシナンテを自宅に飛んで帰らせるドレイクの隣では、それに負けないくらいの活力に漲ったリリーナが、
「皆様ごきげんよう!私達はハードな修行を乗り越えてレベルアップいたしました!今ならリューネさんともいい勝負ができそうですわ!」
「言ってくれるじゃない。私だって新しい力を習得したんだから」
「それは楽しみですわ!いよいよ模擬パーティー実習が楽しみになってまいりましたわね!」
この婚約者コンビは言うだけあってコンディションはバッチリのようだったが、パチョレックは人目をひいた登場をしてしまったせいか青い顔でオドオドしている。
そんな友人を気遣って、カイトがそっと歩み寄り、
「パッチョ久しぶり。ドレイク達との合宿はどうだった?」
「う、うん……凄く充実してたよ。ドレイク君の家の人とドラゴンの訓練を兼ねたモンスター退治をしたりしてレベルも上がったし、豪華な料理もいただいて……でも夜がちょっと……」
「夜?ドラゴンの寝息で眠れなかったとか?」
「そ、そうじゃなくて……その……ドレイク君とリリーナさんのSMプレイを間近で鑑賞させられて……僕は遠慮したんだけど……観客がいた方が燃えるとかで……」
「お、おお……なんだか知らないが大変だったんだな……とりあえずお疲れ……」
想定外の苦労話に困惑の色を隠せないカイトだったが、気を取り直して本題に入る。
「その……三人はもう聞いてるみたいだけど、俺のせいで模擬パーティー実習の内容が変わってしまって申し訳ない。でも、調査の前に他の生徒と同じようエンシェントゴーレムと戦えるように交渉しておいたから……」
カイトは申し訳なさそうにしていたが、案の定ドレイク達は気にしていない……それどころかノリノリだった。
「友よ!謝ることなんてないさ!むしろ、王命の調査に携われることに……ああ!歓喜で武者震いが!」
「私も同じ気持ちですからご安心を!パーマストン侯爵家の令嬢として……そしてカイト先生の弟子に恥じぬ活躍をしてみせますわ!」
「僕も……こんな機会滅多にないから頑張るよ」
三人の言葉を聞いてカイトがホッとしていると、その様子を見守っていたリューネの周りに人が集まっていた。
「リューネさん!おめでとうございます!」
いきなり祝福されたリューネは、ポカンとした表情で自分を取り囲む女子達の顔を見ると、いずれも誇らしげなので事態がサッパリ飲み込めない。
「え?なんのこと?」
「まだ掲示板を見てないのですか?明日の模擬パーティー実習出陣式の生徒代表に選ばれてますよ。先日、ピピン先生に呼び出されたのも、てっきりその事だと思ったのですが……」
演習地の事を事前に知らされた事や王命に関しては伏せる方針なので、リューネは適当に話を合わせることにした。
「あ、ああ……そのことね。私にとってそんな大した事じゃないわよ」
中二病が疼いて少しクールに決めたリューネに女子達は大興奮。
「まあ、流石リューネさんですわ!前期で最も優秀な生徒が選ばれる栄誉ですのに、その落ち着きぶり……」
「女子が最上級生を押しのけて選ばれるなんて初だそうですよ!」
「文武両道……品行方正……眉目秀麗……ああ……明日のお言葉楽しみです!」
そんなファンガール達の異様な熱気にまだコントロールしきれていないダークプリズムアイが反応したのを感じ取ったリューネは、右目を抑えながら、
「ダメ!皆、それ以上私に近づいちゃダメよ!」
「ど、どうされたんですか?」
「私の……新しい闇の力が……くっ!静まりなさい!私の魔眼!」
別にカッコつける演技をしたつもりのないリューネだったが、女子達の乙女心にはクリティカルヒットしたらしく、「キャー!」という黄色い歓声があがった。
その光景にリリーナはレースのハンカチを嚙みしめながら、対抗心を燃やし、
「ぎいい!流石はリューネさん……あんなエレガントな仕草を……伊達に私のライバルではありませんわね」
その隣ではドレイクが感銘を受けてリューネのセリフとポーズをメモっていた。
とても明日からモンスター討伐演習に行くとは思えない緩い空気にカイトが苦笑いを浮かべながら、セリアにスケジュールの確認をしていた。
「明日の朝に学園でその出陣式をやってから出発ってことだよね?」
「そうです。その後は各コースによって異なりますが、私達のモンスター討伐演習コースは各自でエンシェントパレスに向かい、三日以内にエンシェントゴーレムを倒す事になってます」
「そっか……俺達なら初日で楽々クリア出来ちゃうだろうけど……」
「ええ、一般的な学生では初日は返り討ちにあって再チャレンジしてようやく一体倒せるかどうか……いえ、ほとんどのグループは傷もつけられないでしょうね」
「そう聞くと他の学生とのレベル差がエグイな……そりゃあピピンも俺達の対応に困るのも無理はないか……まあ、あとは……」
行き先が王都から近いエンシェントパレスでエンシェントゴーレムについても熟知しているので、特別に準備するものなく、今日は家でゆっくり体を休ませるだけ……カイトがそう言おうとしたら、セリアがカイトの唇を人差し指で抑えながら、
「ふふふ、三日間もカイト君とのスキンシップはお預けってことですよね?そんなの耐えられないので、今夜は皆で前夜祭をしましょう♡」
その前夜祭の意味を瞬時に理解したカイトは小さく頷いた。