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6-7 特別演習コース『伝説の聖女と錬金術師の遺産調査』

 セリアのせいでカオスな空間と化してしまった来客室だが、リューネがフラフラしながらも多少は受け答えできる状態になったところで本題に……


「さっきの変な流れの中でポロッと言ってましたが、エンシェントパレスに『聖女伝説』なんてあるんですか?」


 女性陣はまだ完全に落ち着きを取り戻していないので、カイトがエビュアと向き合って話し合う。

 エビュアも本来の目的を思い出して、少し興奮気味に、


「せや。謎に包まれとるエンシェントパレスやけど、アレは王国の創設期からあるもんで、どうもそれが伝説の聖女と錬金術師によって建造されたらしいってことまでは調べがついとるんや」


「そうなんですか……俺はそういうのは疎いんですが……そういえばセリアさんはトラギア王国古代史の授業受けてたよね?」


「はい!テストにも出ましたよ。まさか……私の尊敬するアグル・ルンガール-の遺産なんですか!?」


 それまで興味無さそうにしていたセリアが目を輝かせたが、エビュアの答えはセリアをガッカリさせるものだった。


「ん?聖女様はえらい通好みな趣味しとるのお……そっちじゃなくて、有名な『波動の聖女キオヴァス・シスカ』様と『真理の番人アルエット・ベルトナー』っちゅう錬金術師の隠居先だという文献が王宮にあるんや」


 その答えにセリアは露骨に興味を失せた顔をするが、リューネとフェリスが代わりに反応した。


「その二人って初代国王と大陸の魔物を鎮圧した伝説のパーティーのメンバー……エンシェントパレスの関係してるなんて全然知らなかった」


「その二人の名前はボクでも知ってるよ。教科書に載ってる有名人だもん。でも、何でその二人の住処がダンジョン化したんだろ?」


 これがエビュアの望んでいたリアクションであり、セリアを置いてけぼりにして話が進む。


「そこが謎やねん。まあ、ゴーレムがうろついとるだけで基本的に無害やけど、王国創設の功労者がダンジョンを作ったっちゅーのも風聞が悪いから、あまり大々的には発表できんくて、建物内部の調査も王宮関係者に限定しとるんや」


 だいぶ話の全体像が見えてきたのだが、カイトにはまだ肝心な部分がわからなかった。


「エンシェントパレスについての裏話は参考になったんですけど、調査というと具体的に何を調べるんですか?そのへんの目的がハッキリしないと有意義な結果にならないかと……」


「調査の目的……それはズバリ、ゴーレムの製造についてや!」


「ゴーレム……エンシェントゴーレムですか?」


「せやせや!カイトはん達はエンシェントパレスに行ったことがあるらしいから詳しく言わなくとも分かるやろうけど、エンシェントゴーレムはいくら破壊しても時間が経てばまた湧いてきおる……無人の遺跡型ダンジョンで特定のゴーレムだけが発生するメカニズムの解明が目的で、ウチは建物内にある伝説の聖女と錬金術師の遺産によるものと踏んどるんや!」


 これで今回のダンジョン調査の目的等がハッキリしたのが判明したが、それによってカイトは別の事を懸念し始めた。


「調査目的は分かりました。でも、一つだけ聞いて置きたい事が……」


「何や?一つと言わず、なんでも答えたるで」


 エビュアは上機嫌でニコニコしていたが、カイトの顔は真剣そのものだった。


「そのゴーレムのメカニズムを解析して何を……単刀直入に言うと、軍事目的に使用するんですか?」


 カイトの声があまりにも固いので、それまでの緩んだ空気が吹き飛んでしまったが、エビュアは全く動じることは無かった。


「はは!そないに怖い顔せんといて!ウチはそないなもんに興味あらへん!それにあんなトロいゴーレムじゃあ拠点防衛に使うくらいが関の山やろうし、王様はそういう事を考えるタイプちゃうで!それにそんな事しようもんなら、平和続きでただでさえ暇な騎士団から仕事を奪うなってクレームが来るのがオチや!」


 エビュアに嘘をついている様子は無いし、言ってることが腑に落ちたカイトは、少し気が抜けたような笑みを浮かべていた。


「そうですね。エビュアさんがあまりにも熱心なので、少し勘ぐってしまいました」


「ははは!錬金術師の端くれとして、あれだけのゴーレムを自動で生成して管理する技術に興味湧くんは当然やし、何よりも尊敬する聖女様の遺産となれば気合のノリも変わって当たり前や!」


 トラギア王国は信仰の自由が保障されており、国民の大半は無宗教なので、これだけ信心深い人間に会ったことのなかったカイトはキョトンとした顔で、


「随分聖女が好きなんですね……もしかして、メドラ聖国の出身ですか?」


 トラギア王国の北にある聖女の地位が高い一神教の国である『メドラ聖国』の出身だとカイトが推測するのは自然なことだったが、宗教や出自の話は地雷になりやすいのは異世界でも同様であり、エビュアはムキになって否定する。


「ちゃうちゃう!ウチはあないな胡散臭い国と関係あらへん!ウチの育った町はドワーフを奴隷から開放した聖女様の言い伝えがあるから、町の人間全員が聖女様を敬っとるんや!あんなビジネス宗教の連中と一緒にせんといて!」


「そ、そうですか……これは失礼しました。王命ということで少し身構えていましたが……」


「だから最初に言うたやろ。難しい話やないって……しかもエンシェントパレスの建物内はゴーレムもおらんくて、外よりも安全でこれまでの調査で怪我人が出たことも無いんや……まあ、その代わり大した収穫も無いんやけどな……ちゅうわけで、調査協力頼むわ!カイトはん達の実力やと今更ゴーレム退治しても、何もおもろないやろ?」


 エビュアの言う通り、ただのゴーレム退治よりも有意義そうだし、危険も少なそうなのは事実であり、何より王命だから断るという選択肢は事実上無かった。

 それでもカイトは念のため、自分のパーティーメンバーの様子を伺うと、


「私はもちろんOKですよ、カイト君。現代の聖女として、伝説の聖女の遺産を調査するのは当然です。まあ……キオヴァスよりアグルの遺産の方が燃えたんですけどね……」


「私も勿論大丈夫よ。正直、演習先がエンシェントパレスって聞いてガッカリしたところだったけど、建物内の調査なんて滅多に無い機会だもの。リリーナへの説明は私がしっかりするから安心して」


「にしし♪ボクもリューネちゃんと同じ意見だよ。今更ゴーレムなんて狩っても大した経験値にもならないもん」


「私も教師として皆さんのサポートをしますのでご安心を……」


 リューネのグループの方は乗り気なのを確認できたカイトは自分のグループの事を考えたが、ドレイクならば王命と聞けば喜ぶだろうし、パチョレックも意外にノリがいいので反対はしないだろうと予想できたので、正式に引き受けることにした。


「わかりました。それでは俺のグループとリューネのグループは建物内の調査に協力します。ただし、ここにいないメンバーはエンシェントゴーレムと戦ったことがないので、そのメンバーは他の生徒と同様にゴーレムと戦って倒してから調査するという条件をつけていただいてよろしいでしょうか?」


「それくらいならかまへん!こっちは無理矢理ねじ込んでもらった立場やからな!せやけど、それもバッチリ採点させてもらうから覚悟しとき!」


 こうしてカイト達だけ模擬パーティー実習の内容がグレードアップ――そうは言っても安全なエリアを調査するだけ……そんな軽い気持ちだったのだが、エンシェントパレス内部の真の姿をまだ誰も知らなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 錬金術師の遺産はなろうだと美少女ホムンクルスやメイドゴーレムが定番だけど
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