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6-4 宮廷錬金術師の依頼と聖女の危機

「ああ、もう!召喚獣無しのカイトに手も足も出ないなんて!悔しい!」


 セリアの回復魔法で意識を取り戻したリューネは人目もはばからず喚き散らしていたが、同じく目を覚ましたフェリスはリューネとは対照的だった。


「えへへ♪皆の前でカイちゃんに縛られちゃった♡これでボクはカイちゃんのものだって見せつけられたね♡」


 筋金入りのドMに調教されたフェリスは嬉しそうにカイトの腰に抱きついて喜び、周りの生徒にラブラブっぷりを見せつける。そんなフェリスを羨ましそうにセリアが見つめているカオスな状況だったが、カイトは落ち着いていた。


「いや~、かなりギリギリだったよ。パレット先生の結界魔法のサポートがあったり、フェリスがコシチェイを召喚したら、召喚獣抜きで戦うのは無理かな」


 そんなカイトの言葉にピピンも相槌を打って、


「そうだな。私も途中から見ていたが、連携も悪くなかった。なによりリューネ……ビッケスから話は聞いていたが、雷獣連峰で一皮むけたようだな。カイトには通じなかったが、習得したばかりの闇魔法をあれだけ使えるとは……流石は私とマリアの娘だ」


 尊敬する父から褒められたリューネはすっかり上機嫌になって、


「え、えへへ……まだまだパパとママの足元に及ばないけど、もっともっと魔法と剣術を磨いて私もS級冒険者に……まだまだ強くなるよ」


「うむ、期待してるよ。そして期待しているのは私だけでなく……お前達の腕を見込んで、模擬パーティー実習で頼み事があるんだ。詳しい話はここではできないから付いてきてくれ」


 こうしてピピンに連れられていったカイト達……勘のいいカイトはピピンの様子から色々と察して、歩いている途中にストレートに一言。


「……また王命?」


「……やっぱり分かるか?」


「ピピンとは長い付き合いだし、セリアさんも勘付いてるみたいだよ?」


 ピピンは思わず振り返ると、セリアはコクリと首を縦に振り、フェリスもニコニコして頷いている。気がついていなかったのはリューネだけだったようなので、ピピンも観念したような声で、


「一応言っておくが、今回はカイト達が雷獣連峰で騒ぎを起こしたせいだからな。私は全く悪k……いや、模擬パーティー実習の事を王に話したせいだから、責任がないわけではないか……」


「その辺の経緯は別に気にしてないけど、王命と模擬パーティー実習がどう結びつくのかがサッパリ読めないんだよなあ……どうせ厄介事なんだろうけどさ」


「いや、そんなに大それた話では……お、着いたぞ。詳しい話はここで……」


 ピピンはそう言って、学園の来客室の扉を開くと、そこにはフェンリルのチャッピーと女性が三人――マリアとパレットと見たことのないモノクルをつけた小柄な女性。

 カイト達が部屋に入ると謎の女性のモノクルが怪しく光って、


「おっ、ええやん!この若さで、この魔力……噂通りの逸材揃いやんけ!」


 ピピンの話から推測すれば王命を帯びた宮廷関係者のはずの女性だが、自己紹介もせずに興奮しながら関西弁交じりでカイト達をジロジロと観察し始める。ボサボサの髪とヨレヨレの白衣という外見も合わさって怪しさ満点で、カイトは思わず後ずさりながらピピンに助けを求めた。


「ちょっとピピン……どういう状況?っていうか、この人誰?」


「あ、ああ……エビュア殿……とりあえず自己紹介を……」


 ピピンに諭されたエビュアという女性は、はっとしたような顔をしてから、ペコペコしながら、


「こりゃあすまんすまん。近頃は工房に籠りっぱなしで人に会うのも久々だったから堪忍な。ウチは宮廷錬金術師のエビュアルムンド・ガガギヴォゲンドム・スコポーリントナー……長すぎて自分でも言い間違えるからエビュアと呼んでーな」


「はあ……で、宮廷錬金術師の方がいったい模擬パーティー実習とどう関係するんですか?」


「はあ?そっからかいな?まあ、全然難しい話やあらへん。ウチも一緒にエンシェントパレスに行くっちゅーだけや」


 話は思ったよりもシンプルだったが、カイトが一番驚いたのは、エビュアが同行することではなく、その行き先だった。


「え?模擬パーティー実習の場所ってエンシェントパレスなの?」


 カイトはピピン、マリア、パレットの三人に問いただすと、三人はコクリと頷く。

 その代表としてパレットが口を開いて、


「はい。模擬パーティー実習の場所は毎年違う場所で行われておりまして、今回のモンスター討伐演習コースがエンシェントパレスで行うことはカイトさんが入学する前から内々で決まっておりました」


「そうなんだ……まあ確かに、エンシェントパレスは王都からも近いし、エンシェントゴーレムも固いだけで強さの割に危険は少ないから学生の演習にはもってこいだけど……」


 カイトはそう言いながら、セリアとリューネとフェリスをチラッと見ると、案の定肩透かしを食ったような表情に……どんな危険な場所なのかと気張っていたのに、行き慣れた場所だとわかっては、気が抜けてしまうのも仕方がない。

 そんな娘達の気持ちが手に取るようにわかったピピンがボソボソと喋り始めて、


「お前達がエンシェントパレスでレベリングしているのは知っているし、今さらエンシェントゴーレムなんかでは練習にもならないことも……むしろカイトのグループとリューネ達のグループだけでエンシェントゴーレムを狩りつくしてしまうのではないかと心配している事を王と世間話していたら、ちょうどカイトの雷獣連峰での活躍の話が舞い込んで来てな……そうしたら……」


 そこまでピピンが申し訳なさそうに説明していると、テンションMAXのエビュアが勝手に説明役を交代。


「そうや!あの危険な雷獣連峰に登って聖剣の製造法復活のヒントを持ち帰るなんて!これは偉業やで!鍛冶師でもないウチでも興奮が止まらん!きっとウチの中のドワーフの血がそうさせるんやろな!」


「その体格と濁点ばっかのミドルネーム……やっぱりドワーフだったんですね」


 カイトはエビュアの小柄な体格と硬そうな髪質をマジマジ見ていると、エビュアが背のわりに大きな胸を突き出して自慢げに自己紹介を再開。


「せや!ウチのオトンがドワーフやから人間とドワーフのハーフなんや!せやからドワーフ訛がなかなか抜けへんねん!」


「なるほど……大体話は分かりました。つまり、俺のグループとリューネのグループはエンシェントパレスでゴーレム狩りをするのではなく、エビュアさんと探索に協力するってことですね」


「噂通り話のわかる奴やな。ズバリその通りや!エンシェントパレスの建物内は王宮関係者以外立ち入り禁止で、これまでも何度か調査したけど目ぼしい収穫は無かったんや……せやけど、噂の敏腕わからせ召喚士と一緒ならきっと何かオモロイもん見つかると踏んで、ウチが王様に頼み込んだっちゅうわけや」


「頼み込んだって言っても、どうせあの王じゃ二つ返事で『いいよ』って言ったんでしょ?」


「せやな!」


 満面の笑みで返答するエビュアとは対照的に、カイトは眉間を抑えながらため息をついた。


「はあ……結局、王命だから拒否権は無いって事じゃん。まあ、俺は構わないんだけど、ここにいないメンバーの事を抜きで返事するのは……」


 そんなカイトの危惧を予め予測していたピピンが根回しをしていた。


「そこは安心してくれ。ドレイク君とパチョレック君はもちろんリリーナ嬢にも事情を知らせてあるし、しっかり模擬パーティー実習としても評価する手筈になってる」


「それならまあ……正直あまり期待されても困りますが、頑張らせていただきます」


 そのカイトの返事にエビュアは満面の笑みを浮かべた。


「おっしゃ!よろしく頼むでカイトはん!一緒に頑張ろうや!」


「え、ええ……でも俺のグループは男性だけなので、エビュアさんにはリューネのグループに……俺のグループにはピピンが来てくれるのが理想なんですけど……」


「はあ?ウチはカイトはんのグループに決まっとるやろ。ビシバシ採点したるから、覚悟しとき」


 これを聞いたカイトは目をパチクリさせながらピピンとマリアに視線を送ると、


「こればっかりは他のグループとの兼ね合いがあって、私は一番未熟なグループを任される事が既に決まっていて……」


「そうなのよ~。私はテイマーの男の子達のグループを引率しなくちゃいけなくて……ちなみにリューネちゃん達のグループの担当はパレットちゃんよ」


 それらの人選は理にかなっているので、カイトは何も言えなくなっていると、エビュアがカイトの腕に胸を押し付けるように抱きついて、


「なんやなんや。柄にもなく照れとるんか?意外と可愛いやっちゃの~。ウチは未婚やから先っちょくらいなら入れてもかまへんで」


 そんなエビュアの下品な誘い文句に一番反応したのは、以外にもリューネだった。


「ちょっと!宮廷錬金術師だかなんだか知らないけど、王命の仕事なんだから真面目にやってよ!私のおt……夫に変な誘惑するのは止めてちょうだい!」


「ん?なんや、カイトはんの女か……って事は……ピピンはんの娘かいな?」


「そうよ!それがなんなの?」


 ムスッとした顔で睨んでくるリューネに対して、エビュアはケラケラと腹を抱えて笑いながら、


「あは、あははははは!ドスケベ女のくせに真面目ぶりおって……ああ、お腹痛くてたまらんわ」


 初対面の人間に淫乱女扱いされたリューネは当然憤慨する。


「いきなり何て事いうのよ!だいたいあんたが私の何を……」


「ウチはよ~く知っとるで。姪の頼みや言うて、冒険者ギルドを仲介してギルド長のロベルトはん名義でエログッズ注文しとるやないか。アンタは知らんかもしれないけど、今までの媚薬とかを手配してたのはウチやからな」


 それを聞いたリューネは恥ずかしがるどころか「え?」と首を傾げてキョトンとしていた。そんなリューネのナチュラルなリアクションにエビュアもつられて「あれ?」と真顔に……来客室は何とも言えない空気で静まり返った。

 そんな中、滝のようにダラダラと汗を流す人間が一人……


(のおおおおお!まさか!そんなああ!私のエログッズってこの宮廷錬金術師から!?ロベルトおじさんの信頼できる筋ってここだったんですか!?ひゃあああ!皆に!カイト君に!私のエログッズ購入履歴がバレちゃううう!)


 心の中で絶叫していたセリアの顔は真っ赤になっており、自然と皆の視線が集まっていた。

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