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6-2 召喚魔法抜き召喚士vs.ベルリオーズ三姉妹

 婚約者ができてから順風満帆なカイトだったが、悩みが全くないわけではなかった。婚約者が急に四人もできて対応の仕方がわからないとかいう贅沢なものは別として、昔からの悩み……それは人に舐められやすいこと――お調子者だが基本的に物腰が柔らかく無意味な争いを好まない性格は生来のものであり、異世界に来る前の平和な日本人的な気質に加えて、お人好し丸出しな風貌のおかげで、威厳とは無縁であった。

 それでも冒険者時代は圧倒的な実力で周りに一目置かれていたわけだが、学園だとイマイチその効果が薄い。そこでカイトなりに一計を案じた。


「それじゃあ、今から模擬戦をするわけだけど……召喚獣無しで戦っていい?」


 野次馬が増えだした闘技場の真ん中で、婚約者達に突然の舐めプ宣言――圧倒的な実力差があることを自覚している三人だったが、それでもプライドが傷ついたようで、特にリューネは露骨だった。


「ふ~ん……私達相手に召喚獣なんて必要無いってことかしら?」


「いや、正直かなりキツイと思うけど、そうしないと俺の修行にならないし……絶好のアピールの場だと思ってね」


「アピール?何の?」


「召喚士ってさ……そもそもハズレ扱いされてるし、召喚獣がいなかったら何もできない軟弱者ってイメージがあると思うんだよね。せっかくだから、それを払拭したいんだ」


 それを聞いたリューネは一理あると思ったし、体術だけでカイトがどれくらい強いのか知りたいので、その提案に乗っかることにした。


「わかったわ。それじゃあ、いくわよ!」


「おう!始めよう」


 割と軽いノリで模擬戦がスタートすると、リューネをリーダーとして実戦を意識した無駄の無いスピーディーな指示を飛ばす。


「それじゃあ、前衛は私で、フェリスは憑依召喚で空に飛んで援護、セリアは後衛としていつでも回復できるようにして」


「「了解!」」


 普段から連携訓練をしているわけではない三人だが、共に生活しているだけあって、スムーズに戦闘布陣を整える。

 出鼻をくじこうと画策していたカイトだったが、三人の息の合った動きに困ったような顔をしつつも嬉しそうな声で、


「流石リューネ。オーソドックスかつ臨機応変に対応できる布陣を……さて、どうしたもんか」


「ふふん!褒めたって手加減してあげないわよ!絶対に召喚獣を使わせてみせるんだから!それじゃあ、フェリスはバタフライエッジで私の魔法と連携攻撃するわよ!」


「わかった!アゲハ頼むね!」


 フェリスはリューネの指示通りアゲハを憑依召喚したブーメランで空から攻撃すると、リューネがそれをサポートする形でファイアボールを放つ――並の人間であれば瞬く間に被弾しているところだが、カイトは余裕をもって回避――ギャラリー達はその光景に唖然としていた。


『リューネさんが強いのは知ってたけど、フェリスさんも……』


『ああ、レアな飛翔能力を……ただのマスコット枠じゃなかったんだ』


『その攻撃を完全回避するなんて……変態召喚士も思ったよりやるな』


 生徒はリューネとフェリスの派手な攻撃にばかり目がいっていたが、実は一番厄介なのはセリアで、予め用意していたパチンコ玉くらいの鉄球をビーナスハンドで強化した指で弾いて密かに攻撃に参加していた。その威力は弱いモンスターなら即死するほどのパワーがあり、狙いも正確――遠距離攻撃手段の乏しいセリアなりの工夫にカイトは驚いたが、それでも回避に専念することで全ての攻撃をかわしていた

 こうなると先に疲弊し始めたのは攻撃側――このままではカイトに攻撃が当たる前に、自分たちの体力が尽きてしまうことを薄々ながら感じ始めたリューネは、模擬戦が開始してから3分も経たないうちに奥の手を披露することにした。


「くっ!このままじゃあ埒が明かないわね……こうなったら出し惜しみは無し!闇魔法で一気に決めるわ!」


 そんなリューネにフェリスは土産話で聞いたダークプリズムアイの力を見れることにテンションが上がって、


「おっ、遂に新技だね。やっちゃえリューネちゃん!」


「ええ!これが『ダークネビュラ』よ!」


 リューネはカッと右目を見開いてダークプリズムアイを発動させて、闇の魔力をカイトに……視認した対象を暗黒物質で包む不可避の魔法のはずだったが、カイトはそれさえも避けてみせた。


「ふ~、危ねえ危ねえ……やっぱりあの魔眼は厄介だな」


 そんな軽口を叩きながら自慢の新魔法を避けるカイトにリューネはムキになってダークネビュラを連発。


「そ、そんな……この!この!このお!」


「お姉ちゃん冷静に!それじゃあ、余計に当たらないよ!」


 セリアは熱くなりやすい姉に、すかさずアドバイスを送って諫めた。

 それでもリューネの興奮状態は続いてダークネビュラにこだわり続けてしまい、慣れない闇魔法によってSPを激しく消耗してしまう。


「はあ……はあ……どうして当たんないのよ!?」


 リューネが苛立って地団駄を踏んでダークネビュラが止まると、カイトは一息ついてから、


「ダークネビュラは確かに命中率と威力に優れてるけど、本質は座標指定型の魔法だから、相手の移動先を読まないと……あとは魔法の発動をもっとスムーズに……とりあえず、まだまだ練習不足だよ」


 カイトのワンポイントアドバイスが入ったところで、三人組は遠距離攻撃を諦めたが、カイトに迂闊に接近戦を挑むのは愚策なのは明白――そんな膠着状態になって動き出したのはカイトだった。


「それじゃあ、そろそろこっちから……あ、召喚魔法は使わないけど、それ以外はガンガン使わせてもらうからね。特にアイテムボックスの中身はフル活用させてもらうよ」


 カイトがそんな不吉な予告をすると、分銅付きの縄を取り出した。


「カイトが武器?しかも縄……プレイ以外で使ったこと見た事ないわね」


「お姉ちゃん……カイト君とそんなに縄を使ったプレイを……グギギ……羨ましい」


「ご、誤解よ!そんな事より集中しなさい!」


 そんなやり取りを無視してカイトは分銅付きの縄をグルグルと回転させる――どんどん加速する縄の先の分銅はもはや人間の動体視力では捉えられないスピード――こうなってはリューネがダークプリズムアイでカイトの動きを読もうにも、それ自体に意思の無い武器の動きを予測するのは困難だった。


「皆!気を引き締めない!あの武器の性質上連続攻撃は難しいから、最初の一撃を確実に避けることを心がk」


 リューネが指示を出し終わる前に、不意に縄がリューネに……正確にはリューネの剣に真っ直ぐ伸びてきたが、集中力を切らしていなかったリューネは落ち着いてサイドステップで回避。しかし、これがカイトの狙いだった。


「やっぱりね……じゃあ、予定通りにフェリスから」


 カイトの本当の標的は空を飛んでいて一番厄介なフェリスであり、空振りしたかに見えた縄を操作してフェリスの足に絡ませる――最初からフェリスを狙っては避けられると踏んで、リューネを狙うようにフェイトを仕掛けたのが功を奏し、縄は完全にフェリスの足に巻き付いていた。


「し、しまっ……きゃああ!」


 困惑していたフェリスは、カイトに引き寄せられて地面に落下――カイトが加減していたこともあって、受け身を取ることができたがゲームオーバーだった。


「フェリス……空を飛んでいても、常に回避の意識を持たないとな」


 カイトはアドバイスと共にフェリスの首筋に手刀一閃。フェリスは一瞬で気を失ってしまい、次の瞬間にはカイトによって縄で縛りあげられていた。

 こうして一人やられて、リューネは完全に作戦を変更する。


「くっ!最初からフェリス狙いだったのね!こうなったら……セリア!接近戦を仕掛けるわ!私が足止めするから挟み撃ちにするわよ!」


「りょ、了解!」


 近接戦闘に切り替えて、先行したリューネがカイトに剣を振り下ろすが、カイトはあえて回避せず、身体強化をして真正面で白刃取り。

 それに対して、リューネは「しめた」と言わんばかりに笑みを浮かべて、


「ふふっ、かかったわね。この距離ならダークネビュラよりも精神魔法の方が確実……さあ、今度こそ魔眼をくらいなさい!」


 リューネは至近距離でダークプリズムアイを発動させてカイトの目を見て精神魔法を発動――今度こそ命中したと思って、リューネは有頂天に……実際にカイトにダークプリズムアイを通して闇の魔力が心を蝕もうとしていた。


「狙いは良いね。でも、精神魔法は思ってるほど万能じゃないよ」


「減らず口を……もうすぐ私のいう事を聞くように……んふふ、弟はやっぱりお姉ちゃんの言うことを聞くものよ」


「まあ、そういうのは嫌いじゃないけど皆の前でやるのは勘弁だよ。それじゃあ……コオオオオッ!」


 カイトは空手の呼吸『息吹』を行うことで精神を集中して闇の精神魔法を無効化――目論見が完全に外れたリューネは動揺を隠せず、


「そ、そんな……精神魔法にそんな対抗策が……かはっ!」


 狼狽えたリューネの一瞬の隙を見逃さなかったカイトは、みぞおちに掌底を叩きこんでから、体がくの字に折れ曲がった瞬間に首筋にフェリスと同じように手刀を打ち込んで意識を断ち切る――残りはセリアだけなのだが、カイトの活躍を喜んでしまって戦闘ムードではなかった。


「流石はカイト君です!召喚獣無しでもこんなに……ああ……素敵すぎます」


「あ、あはは……褒めてもらえて嬉しいけど、まだ模擬戦中だよ。それにセリアさんが、リューネとフェリスを回復させれば、まだ立て直せるけど」


「ふふふ、私が迂闊に回復魔法なんて使ったら、その瞬間にカイト君にヤられちゃいますよ……いえ、ヤられたいんですよ?本当はガッツリ!皆の前で!熱く!激しく!でも今は模擬戦中!だから真剣に勝ちに行きます!」


 セリアはそう言って、全魔力を開放して戦闘モードに……遂に公衆の面前でパワー系聖女の真の姿をお披露目する時が……そう思われた瞬間だった。


「そこまで!お前達二人が本気で戦ったら闘技場が壊れるだろ!それより話があるから来なさい!」


 当然現れたピピンによって、模擬戦は中断――それにセリアはムスッとした表情で父に猛抗議した。


「もう!これから良いところだったのに!私が皆の前でボロボロにわからされる至福の時間が……だいたい話って何なんです!?」


「わ、わからされる?……よくわからんが、とりあえず模擬パーティー実習について話したいことがあるから来てくれ」


 こうしてピピンの横槍が入って、セリアにとっては不完全燃焼になってしまったが、リューネとフェリスは自分の課題を見つけるいい機会になった。しかし、肝心の目的はというと……


『カイトさんの縄捌き……ただ事ではありませんでしたわ』


『ええ、あれは日頃から相当に使い込んでますね。さらにリューネさんとフェリスさんへの当身は……』


『やっぱりDVわからせ変態男って噂は本当……恐ろしいわね』


 と、女子はヒソヒソ話をしている一方で、男子達は変な正義感を燃やして、


『あんなに小さくて可愛いフェリスさんを縛って地面に叩きつけるなんて……許せねえ』


『リューネさんにも腹パンを……自分の女だからって乱暴すぎるだろ』


『もしピピン先生がこなかったらセリアさんまで』


『特にセリアさんは一番のお気に入りらしいから、一番ハードに……きっと散々いたぶってから、俺たちに見せつけるように凌辱を……』


『やはりアイツは女の敵だ!いつか俺達でセリアさん達を開放するぞ!』


 結局、悪評が増えるだけの結果になってしまったが、今更すぎるのでカイトへの風当たりはたいして変ることは無かった。

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