6-1 わからせ目的公開模擬戦in久々の学園
雷獣連峰へのプチ遠征は、成果と中身が濃かった割に日程的には余裕があったので、カイト達三人は模擬パーティー実習の始まる三日前には王都に帰還――カイト達は、置いてけぼりだったフェリスに熱烈に出迎えられて、4人はリビングでくつろいでいた。
「え~、いいないいな~、ボクも行きたかったよ~」
一週間ぶりに会ったフェリスは、人懐っこい猫のようにカイトの膝の上にちょこんと乗って、体を擦りつけながら土産話に目を輝かせる。
そんなフェリスの頭をカイトは愛おしそうに撫でながら、
「ああ、模擬パーティー実習が終わったら長期休みだから皆で遠征しよう」
「にしし♪やったね。で、どこに連れてってくれるの?」
「う~ん……エンシェントパレスだとフェリスもリューネもレベリング効率が悪くなってきたし……どうせなら模擬パーティー実習と演習先と違うところに……って、まだ演習先が発表されないの?」
せっかく早めに戻ってきたのに、演習先がわからずヤキモキしていたカイトだったが、いつもなら一番せっかちなリューネは落ち着いていた。
「模擬パーティー実習の演習先が発表されるのは出発の前日よ。それまで教員が極秘で準備するから、パパもママもパレット先生も今ごろ忙しいでしょうね」
「んん~……ギリギリに発表することで、生徒の対応力を測ろうって意図は分かるんだけどさ。特に俺達の『モンスター討伐演習コース』は危険を伴うんだから、もう少し予習や対策する時間をくれても……」
「だから安全のために各グループに教員が一人配属されるのよ。その教員も前日発表で……女だけの私達のグループはママかパレット先生だろうけど、カイトのグループは誰かしら?」
「ピピンだと楽なんだけど……違うだろうね。攻守のバランスが良くて回復魔法も使えるS級冒険者の聖騎士なんて優秀すぎるから、一番出来の悪いグループを引率すると思う」
「同感。そもそもカイトのグループに教員なんて必要無いと思うわ」
「戦力的にはね。でも、採点する人が必要なんだからそういうわけには……そう思うと誰が俺のグループに配属されるか見当もつかないなあ……」
カイトとリューネは腕組みして唸っていたが、演習先も担当教員も家で考えたところで分かるわけはなかった。そんなことよりもコンディションを整えることに集中した方がいいのは明白であり、追試で体が訛っていたフェリスはウズウズが抑えられなかった。
「そんな事よりも体動かそうよ~。学園の闘技場やグラウンドも開放されてるから、そこで連携訓練してた方が、家にいるよりもそういう情報が手に入るかも」
フェリスの案はもっともなので、カイトとリューネが頷いていると、セリアもノリノリになって、
「そうですよ!お姉ちゃんの新しい力も組み入れた連携の練習を!私達三人対カイト君で模擬戦をして、カイト君にわからs……稽古をつけてもらいましょう!」
こうして満場一致で久々の学園に――
カイトも家にいるよりも、その方が有意義だと思って学園に行ったのだが……
「うげっ……今は模擬パーティー実習の準備期間中だから、学園に生徒はそんなにいないと思ってたのに……」
カイトが思わず顔をしかめるほどに休みのはずの学園には多くの生徒が登校しており、各グループで熱心に訓練したり話し合ったり……祭りにも似た活気にあふれている。
そんなカイトの隣のリューネは、さも当然といった感じで、その光景を眺めていた。
「皆、燃えてるわね~。やっぱり模擬パーティー実習はこうでなくちゃ」
「本番前なのに入れ込みすぎでしょ。俺達のグループは前日に集まろうとしか打ち合わせしてないのに……」
「普通はそれで問題ないけど、ここにいる奴らは教師や周りの生徒にやる気をアピールしてるのよ」
「へ~、俺はピンと来ないけど見栄っ張りの貴族連中ならではかな」
カイトはその説明で納得したが、言いだしっぺのフェリスは少し不満そうに頬を膨らませていた。
「むう~……多少は生徒がいると思ったけど、こんなに……これだったら家の庭の方が集中して訓練できたかも……」
そんなフェリスとは正反対の反応をしていたのはセリアで、ウキウキした様子で、
「いえ!これはチャンス!私達『聖☆わからせ隊』の力を見せつけましょう!」
冒険者というのは自分の能力をあまり他人に見せない方がいいのだが、カイトが宮廷召喚士である事は学園内で知れ渡っているので、今更その力を隠す必要も感じなかった。それでもカイトが気乗りしないのは、周囲の注目度のせいであり、あちこちから陰口が聞こえてくる。
『おい、わからせ召喚士様だぞ』
『相変わらず婚約者を引き連れていい御身分だぜ』
『名門ベルリオーズ家に上手いこと取り入りやがって……』
『最近はロートリンゲン公爵家の坊ちゃんと良い仲だとさ』
『俺が狙ってたパチョレックとも……変態の上に両刀かよ』
Sクラスの人間とはすっかり打ち解けていたが、前期が終わってなお他のクラスや別の学年の生徒からのやっかみは消えていない――そういう嫉妬を消す方法など無いとわかっているので、相手をしないのが正解だと思って放っているカイトは、わざわざ目立つことはしたくないというのが本音だった。
しかし、他の三人は違う。むしろ積極的に見せつけたくてしかたないのだ。
「はあ……今だにカイト君の素晴らしさを理解できない蛆虫がこんなに……わからせが必要ですね」
「わからせは別として概ね同感よ。嫉妬するのは勝手だけど、直接文句も言えずにコソコソと陰口を……ダークプリズムアイの実験台にしてやろうかしら」
「それいいね♪カイちゃんを馬鹿にする奴らなんて片っ端から廃人にしちゃってよ」
何だか物騒な事を言い出す婚約者達の会話を聞いたカイトは、かえって冷静になって三人をなだめようと柔らかい声色で、
「俺は気にしてないから大丈夫。だから冷静に……放っておく分には無害なんだからさ……そんなに目くじら立てることないって」
そんなカイトの説得に三人は余計に態度を硬化……それどころかカイトに対してまで怒り始めた。
「カイト君……私はカイト君の優しいところを愛していますが時には厳しい対応も必要だと思います」
「そうよ!カイトが大人しいから馬鹿がつけあがるのよ!」
「そ、そうかなあ……」
「『そうかなあ』じゃなくて、そうなの!そんなんだからセリアにラブレター送る馬鹿がまだいるのよ!」
「そうなのセリアさん!?」
「はい……読まずに破り捨てていますが……私だけじゃなくてお姉ちゃんにも……」
「リュ、リューネにも!?」
「ええ、今までは同性からだったけど最近は男からも……やっぱりカイトに女の喜びをわからされてから♡男からエロい目で見られることが増えた気がするわ」
いきなり惚気だすリューネの隣では、フェリスもイライラした様子で、
「ボクもだよ。普段はカイちゃんのそばにいるから大丈夫だったけど、追試期間中に何人か言い寄ってきて……『変態召喚士から助けてあげる』とか『俺の側室にしてやってもいい』とか……ムカついたからアゲハで痺れさせてから蹴っ飛ばしてやったけど、ボクだけじゃなくてパレット先生にも色目使ってる奴がいたよ」
美女に囲まれていてカイトの感覚は麻痺していたが、他の男にとっては羨ましい事この上ない状況であり、ちょっかいを出したくなる男心も理解できたカイトは、三人の訴えもあり覚悟を決めた。
「わかった……それじゃあ、二度と俺の婚約者達にちょっかい出せなくなるくらい……わからせるためのガチな模擬戦を見せつけてやろう」
カイトが珍しく真剣な男の顔になると、三人は喜んでいたが、嬉しさのあまりにその力が自分達に向けられることを忘れていた。