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5-19 魔法剣士覚醒――『ダークプリズムアイ』の開眼と咎人の断罪

 カイトがセリアとリューネのもとに戻ってきたのは、リューネが『黒目』を倒してすぐで、その際には互いに驚いていた。


「カイト君!?穴に潜っていたはずなのに、どうして空から?」


 セリアは疲労で寝てしまったリューネを膝枕していたら、カイトがホーリージャッジメントドラゴンに乗って空から下りてきたので目を丸くしていた。

 驚かれたカイトもボロボロのリューネを見て慌てふためいて、


「俺の事なんかよりリューネに何が!?怪我は大丈夫!?」


「少し危ない状況でしたが、私の回復魔法でもう大丈夫です。今は少し寝てるだけで……それにギフト宝玉で魔眼も手に入れましたよ!」


「え?え?本当に何が?とりあえず、お互いに起きた事を報告し合おう」


 カイトは穴の中での出来事から麓の状況と急いで駆けつけてきた理由を時系列に沿って説明し、セリアはライトニングバジリスクとの戦闘とリューネの活躍を熱っぽく語り、ようやく状況を理解し合うことができた。


「そうだったのか……ごめん!俺がもう少し冷静に判断していれば、二人が危険な目に合うことは……」


「そんな……カイト君は最善を尽くしています。それに結果オーライだったんですから……」


 セリアがしどろもどろにフォローしていると、リューネが横になったまま、


「セリアの言う通り……私達は同じパーティーなんだから自分だけ危険を引き受けるっていうのはなしよ……それに私達だって危険は承知の上だわ」


 突然目を覚ましたリューネに驚いたカイトが心配そうに顔を覗き込んで、


「リューネ!大丈夫?痛いところはない?」


「ええ、セリアの回復魔法のおかげでね。それに薄っすら意識はあったから、二人の会話も聞こえてた」


「そっか……それで……目の調子はどう?」


 カイトはリューネの目をマジマジと観察しながら尋ねたのは、リューネの目に特段変化が見られなかったからだ。


「ふ、ふふふ……まだコントロールは難しいけど……ほら……これが私の魔眼……『ダークプリズムアイ』よ」


 リューネはむくりと起き上がってからカッと右目を見開くと瞳が漆黒に染まる――それは瞳が黒くなるというよりも、全てを吸い込むブラックホールのような異質なものだった。

 カイトはその魔眼に驚きを隠せず、


「『ダークプリズムアイ』……レアリティはURの超希少な……光を失う代わりに闇の力を得るって聞いたけど……つまり今のリューネの右目は……」


「光を失うって言うのは正確じゃないわね。発動中の右目は確かに光を感じないけど、その代わりに闇が見える……うん……今までと全然違う景色でなんだか不思議な感覚……ねえ……ちょっと試したい事があるの。ちょうど一匹、ライトニングバジリスクが向かってきたから戦わせてくれない?」


 カイトは魔眼を発動させたリューネから凄みを感じて、


「あ、ああ……でも、無茶は禁物だよ」


 リューネはフッと笑みを浮かべて立ち上がって、『黒目』に刺さったままだった銀骨剣を引き抜くと、不思議そうにその刀身を見つめた。


「あら?雷に打たれたせいかしら……なんだか電気を帯びているような……」


 カイトはその現象に心当たりがあった。


「きっとその銀骨剣を劣化版の聖剣になったんだよ。素材と鍛造が不十分だから一時的で微弱だけど、雷属性が付与されてるんじゃないかな?」


「そうなの?まあ、ありがたく使わせてもらうわ」


 リューネはそう言って新手のライトニングバジリスクと戦闘を開始――この個体は『黒目』と違って、平均的なライトニングバジリスク――それでも危険なA級モンスターに違いないのだが、今のリューネにとっては実験体にすぎない。リューネはあえて自分からは仕掛けず、ライトニングバジリスクの攻撃を危なげなくいなしていた。


「やっぱり……『ダークプリズムアイ』は相手の殺意や敵意が闇として視認できる……なるほどね。あんなに防御が上手かった『黒目』が落下してくるだけの銀骨剣には無防備だった気持ちがわかるわ」


 リューネは『ダークプリズムアイ』がただの闇以外も見ることができ、それが戦闘で活用することが可能な事を確認すると、次の実験へ――


「今の私は闇魔法も使えるようになってるはず……それじゃあ試しに伝説の勇者の得意技を……『ダークネビュラ』」


 リューネは小さい頃から何回もイメージしていた闇魔法『ダークネビュラ』を発動――目視した対象を闇で包む技で、そのまま押し潰すこともできるのだが、


「流石に初めてだと拘束するのが限界か……それでも十分強力だけど……それじゃあ、これで実験終了ね」


 リューネはライトニングバジリスクを斬り伏せながら、そう言ってカイト達のところに戻ったが、称賛されるどころか若干引いているので、頬を膨らませて不満を露わにした。


「ちょっと!何よその反応は!褒め称えろとは言わないけど、怖がることないじゃない!」


 そんな子供っぽい怒り方をするリューネを見たカイトは、少しホッとした。


「いや、だって……何だか普段のリューネじゃないみたいだったから……それにしても便利な力だね。『ダークプリズムアイ』の光が見えなくなるデメリットも片目だけなら、そこまで悪影響がなさそうだし」


「ええ。両目がこうなったら不便だけど、片目だけなら相手の攻撃を読めるからメリットでしかないわ」


 そんな風に二人が『ダークプリズムアイ』の戦闘の活用法について話し合っていたが、セリアは相変わらずエロ目的での使用法ばかり考えていた。


(うわあああ!お姉ちゃんがオッドアイに!そして闇属性が追加されて!エロカワカッコよくなっちゃいました!最高!最高です!そしてあの闇魔法……ああ……闇魔法で拘束される穢れなき聖女……それを容赦なく責めるオッドアイ中二病魔法剣士……快楽に抗うことができず絶頂してイキ狂い……最高の絵……至高のレズプレイの扉が今開きました……はあ……それもカイト君のおかげ……カイト君が雷獣連峰に連れてきてくれたからこそ……やっぱりカイト君はエロの使途……この世界にわからせをもたらす者……つまり神です!)


 こうしてリューネの目的が達成でき、全員の緊張の糸が切れたので、完全撤収のムードが漂って来た。


「例の二人組の件もあるし、ポノフェさんを待たせてるし……リューネ……本当はもう一つ分のギフト宝玉が欲しいかもしれないけど……」


「いえ、ここらが潮時だと思うわ。ライトニングバジリスクも随分減ったみたいだし、とりあえず麓まで下りましょう」


 本当は訓練も兼ねて歩いて下山する計画だったが、今は急を要するので、三人はホーリージャッジメントドラゴンに乗って、滑空するように下山――例の二人組とライトニングバジリスクの囲いには、ポノフェだけでなくシャハプ村の自警団の男達も集結しており、光の巨竜が舞い降りると腰を抜かしていたが、カイトがすぐに召喚魔法を解除して、


「お騒がせしてすみません。俺は冒険者パーティー『聖☆わからせ隊』のリーダーのカイトです。今回の騒ぎを起こしてしまった原因は俺にもあるので、知っている事を包み隠さず説明します」


 カイトは礼儀正しく挨拶してから、下手に責任逃れをしようとせず、ライトニングバジリスクが大量発生していて、それを狩っていたら例の二人組が開けてしまったトンネルから逃げ出した事を包み隠さず説明――村に被害が出ていなかったこともあり、ポノフェも自警団も落ち着いてカイトの言葉に耳を傾け、割とすんなり信じてくれたが、やはり問題になったのは封鎖してあったトンネルを無理矢理開けたことだった。


「わかりました……現在の状況はカイトさんの説明通り……一番信じ難いのはカイトさんの能力ですが、先ほどの召喚獣を見せられれば納得せざるを得ませんね。それよりもカイトさんの話が本当なら、その二人組にはペナルティを……ここに連れてきてもらえますか?」


 カイトはポノフェの指示に従い、失神していたボンベとペルルーザをゴクウに担がせて連れて来る。二人は白目をむいて気絶しており、放っておいたらいつ目覚めるのかわからないので、ジュリアに回復魔法と一緒に水をぶっかけさせた。

 これで、ようやく目覚めた二人は、ライトニングバジリスクの次はカイト達とシャハプ村の人間に取り囲まれている事に気がついて、別の意味で絶望した表情を浮かべていた。

 そんな二人にポノフェが冷たい声で淡々と尋問を始める。


「あなた達お二人には、警告を破って封鎖されていたトンネルを掘って開けた疑いがかかっていますが間違いありませんか?」


「ち、ちげえ!俺達はたまた巻き込まれただけで、むしろ被害者だ」

「そうだそうだ!だいたい俺達がトンネルを掘った証拠がどこにある?」


 二人は人間相手……さらには女相手ということで、態度が大きくなって完全に開き直った。

 しかし、ポノフェも荒くれ冒険者を相手にするギルド職員の端くれ――こういう人間には慣れっこで、全く動じることなく証拠を突きつける。


「これは新しく掘られたトンネルの入り口に落ちていたツルハシです。見覚えはありますよね?」


「「知らねえなあ」」


 二人は口を揃えて否定したが、致命的なポカをしていた。それは昨日シャハプ村で調達した物だったので、自警団の一人である村唯一の道具屋の店主が名乗り出て、


「それはオイラがその二人に売ったもんだべ。昨日のことだし、しつこく値切ってきたから、よ~く覚えてるだべ」


 この証言と物証は決定的だった。せっかくアリバイ工作をしたのに細かいところが雑だったので、トンネルを掘った事を否定するのを諦めた二人は少しでも責任を軽くしようと、今度はカイト達を巻き込もうとした。


「……実は俺達は、この小僧達の仲間……そう!俺達は頼まれて掘ったんだ!」


 その見え見えの噓に、その場の全員が呆れて開いた口が塞がらなかったが、カイトは苦笑いを浮かべながら、


「いやいや、それは無理があるって。しかも仲間なのに小僧達って……俺の名前も知らないんじゃない?」


「えーっと……カントだろ!」


「惜しい!一文字だけ違う……」


「カ、カ、カントン!」


「何で増やすんだよ!しかも何?俺の顔を見てカントンって……俺って包茎っぽい?これでもしっかり剥けてるよ!」


「うるせえ!おめえのムスコの話なんてしてねえ!こっちは人生かかってんだぞ!」


 カイトが口を挟んだら、話が変な方にいってカオスな状態に……そんな様子を黙って見ていたリューネが恐ろしく冷たい目……『ダークプリズムアイ』を発動させてボンベとペルルーザを睨みつける――その眼差しには魔力が宿っており、後ろめたい二人の恐怖心を増大させると、二人は人が変ったかのように怯えて洗いざらい白状した。


「ひいいい!すんません!すんません!俺達が警告を無視して掘りました!そんでもって罪を擦り付けようと……すんません!」


「あ、あ、ああ……王都から尾行して……雷獣連峰の攻略法を盗み見て……宝を横取りして……あわよくば嬢ちゃん達を襲うつもりで……う、ううう……」


 突然の自白にポノフェも困惑したが、これだけ悪質な事を企んでいた事も明かされれば堂々と逮捕することができるので、態度か変わらないうちに縛り上げた。

 そんな光景を目にしたカイトは、リューネの新しい力である『ダークプリズムアイ』の闇魔法……特に精神魔法の強力さに怯えていた。

 そのカイトの反応を面白がったリューネは、


「ふふ、これでカイトもお姉ちゃんに嘘をつけなくなったわね♡」


 艶っぽい声で笑いながらカイトの耳元で囁くリューネ――これが最強魔法剣士の本格的な覚醒であり、最凶お姉ちゃんが誕生した日となった。

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