1-12 女教師は第三夫人 年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ
「お義父様、お義母様。このまま旦那様を入学させるのは危険ではないでしょうか?」
パレットが真顔でピピンとマリアに話しかけてきたが、その場の時が止まる。
ベルリオーズ家一同が顔を見合わせると、家長のピピンが代表になって、
「……パレットさん……一応確認するが、お義父様は私の事で、お義母様はマリアで……旦那様っていうのは……カイトの事……で、いいのだろうか」
ピピンが危険物を取り扱うような気分で慎重に確認すると、パレットは今までの堅物女教師とは別人のようにニッコリと笑って頷いた。
「はい、お義父様。旦那様が学園を卒業されて正式にベルリオーズ家の婿養子になられましたら、第三夫人兼専属秘書としてお仕えさせていただきますので、今後ともよろしくお願いいたします」
パレットはまるで決定事項のように言い切るのでピピンは言葉を失う。
他の面々もパレットの澄んだ綺麗な本気の目を見ると下手なことが言えなくなる。
パレットの覚悟がこの空間を完全に支配していた。
しかし、黙っていられない人物がいる。もちろんカイトだ。
「え、あの……先生?僕たち……その、出会って1時間くらいしか……それに、俺にはもう二人も婚約者が……ねえ?そうだよね皆?」
カイトは耐えきれず、ピピン達に助け舟を求める……が、裏切られた。
ピピンとマリアは目線を逸らしながら、つぶやく。
「カイト……貴族になれば一夫多妻で何人でも娶れる。責任は自分で取りなさい」
「そ、そうよ~カイトちゃん。いつまでもお父さんとお母さんに頼っちゃダメよ~」
「ちょっと!俺の義親なんだから、もうちょいフォローしてよ……くう~、そうだ!リューネ!何だかんだ一番常識人なリューネなら……って、え?なに俯いてんだよ!顔上げてくれよ!怒ってる?ねえ?え?こんな事に私を巻き込むな?いや、その……ごめん。もう最後に頼れるのはセリアさんしか……って、ちょっと待って!?なんでちょっと嬉しそうなの!?それに何?その『いけ!いけ!』ってジェスチャーは!?セリアさんはいいの?俺がこんなにポンポン婚約者増やしていいの?」
カイトの情けない声が演習場に虚しく響いた。
そんなカイトの声音とは反対の調子のパレットが、
「ベルリオーズ家の皆様からの許可も無事いただけたようですね。それでも……旦那様は私がお嫌いですか?こんな26歳の年増処女は迷惑ですか?」
パレットは急にしおらしい態度になって、涙目でカイトを見つめる。
26年間処女だったとはいえ、婚活で鍛えた恋愛テクと知識を総動員。
ひたすら押すのではなく、あえて引いて見せた――カイトには効果抜群だ。
「いや!そうじゃなくて!その……パレット先生は最初会った時から、美人だし……その……胸ばっか見ちゃったし、嫌いじゃないです。それと26歳っていうと、俺より10近く離れてるけど、年上の美人が嫌いな男なんていないですよ。でも、俺みたいなガキじゃあ先生の方が……もし、試験の出来事のせいって言うなら絶対に口外しません。幸い見てたのは、ここにいる人だけですし……あと、処女膜も回復魔法で治せますから!」
カイトが慌てて何とか説得を試みるが、大抵こういう展開は女性が上手だ。
「旦那様は私が嫌いなわけでは無いのですね……その言葉が聞けただけでも嬉しいです。しかし、もう一つ伝えたいのは、私が旦那様の妻になりたいのは処女膜云々だからだけではないのです」
「そ、そうなんですか?」
「はい。お恥ずかしい話、私は生まれてこの方、男性とは良縁がありませんでした。なかなかパートナーになりたいと思える人が見つからず……でも、旦那様は私にとっての理想の男性なのです。旦那様を知ってしまった以上もう他の男性では満足できそうにありません……しかし、それでも旦那様が嫌だというのなら仕方ありません。その場合は、現世の未練を断ち切るべく、教師の職を辞して修道院に入る所存です」
脅迫めいた詰め寄り方だったが、パレットの読み通りカイトは拒めない。
「そ、そこまで言われたら……わかりました」
その言葉を待っていたパレットはカイトの手を取ると自分の胸に押し付ける。
「ありがとうございます旦那様。心苦しいですが学校ではカイトさんと呼ばせていただきますが、それ以外では旦那様とお呼びします。ですから旦那様も学校外ではパレットとお呼びください」
「は、はい……パレット……先生」
こうして新しい婚約者が誕生したのをリューネが拍手しながら祝福した。
「先生との婚約おめでとうカイト。いやー、昨日王都について、もう三人も婚約者つくるとか凄いわね~。尊敬しちゃうわ~。いや、嫌味とかじゃなくて割とマジで」
そんな少しトゲのある言い方するリューネとは対照的なのはセリアだった。
パレットに百点満点の笑顔で抱きついていた。
「えへへ、先生もカイト君のお嫁さんになるんですね。正妻として、こんな綺麗で頼りになるお嫁さんが増えて嬉しいです」
サラッと正妻マウントをとりながら、二人を祝福した。
そんな女の闘いが始まりそうな空気を止めたのはピピンだった。
「オホンッ……とりあえず婚約の話は片が付いたとして、パレットさん。カイトの入学について思うことがあるようだね」
「はい、お義父様。旦那様の能力はハッキリ言って異常……この召喚獣を全部召喚したら、一時間以内に学校関係者を全員殺せます。そんな生徒が来たら、学校がどういう対応に出るか……私ではフォローに限界があります」
「それもそうか……私もカイトが渡り人だからという理由で感覚がおかしくなってたな」
そのピピンの言葉にパレットは驚いたが、それと同時に納得した様子で、
「旦那様が渡り人?それなら色々合点がいきます……とりあえず、召喚獣は一番無害そうで舐められない龍のピースケちゃんだけと契約していることにしてはどうでしょうか?」
そのパレットの提案に反応したのはマリアだった。
「それは名案ね~。でもカイトちゃん、いくら12体の中では最弱といっても、普通の人間が束になってもピースケちゃんには勝てないんだから勘違いしちゃダメよ~」
「もう皆、心配しすぎだってば。まるで俺が危ない奴みたいじゃんか。はははは、はは……え?皆、その目は……全然信用してない目だよね?」
カイトは周りから危険生物扱いされたのがショックだったが、無理もない。
カイトの質の悪い所は、前の世界の常識とゲームの知識のせいで無自覚でやらかす事であり、いくら注意しても悪気がないので効果が薄い。
それを嫌というほど身をもって体験していたピピンとマリアは決断する。
「マリア、やはり……もう、こうするしか……」
「ええ、あなた。私は正直、最初からそのつもりだったわ~」
「え、何?なに話し合ってんの?二人で勝手に決めないでよ。怖いよ」
そんな怯えるカイトに諭すような口調で語りかける。
「なに、そんな怖がるような事ではない。私とマリアがこの学園の講師になることでカイトの保護という名の後始末を続行するだけの話だ」
それに一番反応したのは保護対象のカイトではなくリューネだった。
「本当!?じゃあ、家でも学校でもパパとママに会えるんだよね!?」
「そうよ~。もともと打診されてた話なの。実際、カイトちゃんから目を離すのは怖いし、それに一年間離れてた分リューネちゃんとセリアちゃんを見たいもの~」
「やった!カイトの非常識もたまには役に立つわね」
カイトはリューネに遠まわしにバカにされて、ふてくされる。
その一方でパレットはホッとしたような顔になっていた。
「お義父様とお義母様がいるのでしたら心強いです。あとは旦那様をリューネさんとセリアさんと同じSクラスに編入することでサポート体制は万全です」
「カイト君、よかったですね!これで私もカイト君のわからs……いえ、活躍を隣で見ることができます」
「う、うん。俺もセリアさんと同じクラスは嬉しいけど……今何か言いかけた?」
「えへへ……秘密です♡」
聖女の♡付きの微笑にカイトが勝てるわけもなく、それ以上聞く事はできなかった。
こうしてベルリオーズ家のフルサポート体制という名の完全包囲網の中でカイトの学園生活がはじまる
おかげさまで総合PT100到達できました。ありがとうございます。
2章はあとパレット視点・セリア視点で幕となります。
3章のメスガキわからせ編からキャラが多くなると思いますので
推しのヒロイン等を感想で書いていただけると助かります。




