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5-18 ※リューネ視点 特殊個体『黒目』との激闘と悲願達成

「カイトが潜ってもう10分くらい……そろそろ巣穴の奥にたどり着いたかしら?」


『どうだろう……ときどき戦闘はあるみたいだけど瞬殺みたいだから順調そうだけど……』


 私とセリアはカイトが潜ってから、入口の見張りという名の留守番中……しかもコウベとミミーという頼りになりすぎるボディーガード付き。仲間の退路確保も大切な役割と自分に言い聞かせてるけど、やっぱり私も一緒に行きたかった。これでカイトがギフト宝玉を取って来ても素直に喜べない気が……でも、そんなのは完全に自己満足。いつまでも子供みたいにワガママ言ってられないわ。

 そんな事を考える余裕があったのはここまで……


『あ、ライトニングバジリスクが』


 セリアが気付いた次の瞬間には、ミミーの風魔法でライトニングバジリスクの首は宙を舞っていた。


「流石ミミーね。頼りになるわ」


 私は「ホメテホメテ」という表情のミミーの兎耳を撫でてあげたが、ミミーは再び臨戦態勢に……カイトが殲滅して穴を塞いだはずなのに、少しずつだけどライトニングバジリスクが私達の周りに現れるようになった。その度にミミーが一撃で倒すから身の危険は感じないけど、なんだかモヤモヤしてくる。

 それはセリアも同じだったみたいで、


『う~ん……カイト君が可能な限り穴を塞いだはずなのに……どこかに隠れていたにしては数が多いね』


「そうね。それにどれも上から……まさか8合目から下りてきたんじゃ」


『それなら説明がつくね。そうすると、カイト君の退路を確保するためにも、ますます離れるわけには……カイト君が穴の中で苦戦することは無いだろうけど、挟み撃ちは勿論危険だし、穴から出てきて油断した時に大量のライトニングバジリスクが待ち構えてたら危ないかも……』


 セリアの言葉を聞いた私は、気を引き締めて上から下りてくるライトニングバジリスクに備えて剣を構える……ライトニングバジリスクの襲来は波のようにムラがあり、基本的にはバラバラで襲ってきて、時おり大群で向かってきてもミミーがまとめて切り刻むから私の出番はなかった。

 でも、そいつが現れたのは大群の襲来の第12波だった。ミミーが今までと同じ要領で広域の風魔法を放って、まとめて倒したと思ったのに一匹残ったライトニングバジリスクがいた。

 それには私だけじゃなくセリアも驚いて、


『そんな……いくら威力が下がる範囲攻撃とはいえ、ミミーちゃんの攻撃魔法を耐えるなんて……』


 もちろん私も驚いて固まったけど、この状況にいち早く対応したのはミミーだった。ミミーはそいつを強敵と認識して、兎なのに猟犬のような態勢で戦闘モードに……そしてミミーとそいつの本格的な戦闘が始まった。

 私はその迫力に圧倒されていたが、セリアは冷静に観察していた。


『あのライトニングバジリスク……姿形は他と大差ないけどSPや魔力が高いみたい……それに目が……瞳が黒いよ』


 それを聞いてハッとした私はこれまでの赤目のライトニングバジリスクとは違う事に気が付き、直感的にこの『黒目』がギフト宝玉持ちだと理解した。でも、『黒目』の異常性に気がつくと喜ぶ余裕なんてなかった。


「あの黒目のライトニングバジリスク……雷魔法だけじゃなく闇魔法まで使ってる……あれでミミーの風魔法を防いだのね」


 それはある意味、戦闘魔法のお手本のような使い方だった。攻撃は雷魔法で、防御とデバフは闇魔法と、しっかり使い分けることでステータスでは格上のはずのミミーとやり合っていた。

 ミミーも本来の力をフルに出せれば圧倒的魔力でゴリ押せるのかもしれないけど、術者であるカイトが離れているうえに、私達にウインドバリアを張りながらの連戦で疲労の色が隠せない……そして何より敵の『黒目』が賢かった。ミミーが私達を守るために戦っているのを見抜いたのか、私達を風魔法に巻き込むような位置取りをするから、ミミーは強すぎる魔法を使えずにいた。また、ミミーが強力な物理攻撃が無い事も見抜いていたようで、敵ながら勉強になる戦いだったが、見惚れているわけにいかなかった。


「私がミミーを援護するわ。セリアは周囲の警戒を続けて」


『うん、わかった。気を付けて』


 そうは言ったものの下手に接近戦を仕掛けたら、かえってミミーの邪魔になるから、『黒目』の気をそらすために、闇魔法の隙間を縫うようにファイアボールを叩きこんだ。それは効いたようで、防御力自体は他のライトニングバジリスクと大差はないようだった。そして、一瞬だけど私に注意が逸れた隙に、ミミーの風魔法がクリーンヒットして『黒目』の左目を切り裂く。これで片目になってこちらが圧倒的に有利になったと思ったけど、いい事ばかりではなかった。


「ミミー!大丈夫?」


 体が薄れているミミーは私の呼びかけに答えるかわりに、残りのエネルギーを使いきるように『黒目』に最後の一撃を放った。その風の刃のキレは凄まじく、ライトニングバジリスク最大の武器である尻尾の先の雷魔法発生器官を切り落としたけど、ミミーの召喚がとけてポフッと煙のように消えてしまった。術者であるカイトから離れて、激しく戦いすぎたんでしょうね……消える間際は、何だか申し訳なさそうな顔をしていたけど、十分すぎる働きだったわ。


「セリア!ミミーの召喚がとけたからには、この『黒目』は私が仕留める!コウベの下で周囲の警戒を続けながら待機してて!」


『りょ、了解。でも、無理しないでね』


 一瞬だけ返事を迷ったセリアは素直に私の提案を受け入れてくれたけど、これは当たり前の判断。この状況ではヒーラーのセリアを最優先で守り、避雷針役のコウベがやられてもアウトだから、私が当然前衛。

 私はこうしてミミーが仕留めきれなかった……そして今回の冒険の目的であるライトニングバジリスク……『黒目』と対峙した。『黒目』は左目と尻尾の先を失い満身創痍であるのに対して、私のコンディションは完璧に近いけど、ミミーがいなくなったことでウインドバリアも無くなっている。その代わりにセリアが急いでサンクチュアリを張ってくれたけど、すでに戦闘が始まって接近している『黒目』は弾かれないし、空気の調整も十分じゃない。つまり、短期決着をつけないと不利。

 私はセオリー通り死角へ移動して攻撃をしたけど『黒目』には有効ではないようなので、残った右目に『シューティングレイ』を放つ――闇魔法で防がれるかと思ったが、以外にもクリーンヒット。いくらライトニングバジリスクが落雷に慣れていて眩しさに強いと言っても、これならいけると思って斬りかかったけど、尻尾によって難なく防がれた。


「くうっ!こいつ見えてるの?だいたい何でライトニングバジリスクが闇魔法を……」


 私がそう思いながら、片目の黒い瞳を見た瞬間に昔読んだ『固有スキル資料』に載っていた希少な魔眼の記述を思い出した。その目は光を失う代わりに闇そのもの見て、闇を操れる忌み嫌われた力……それに気が付いたのと、『黒目』の術にかかったのは、ほぼ同時だった。


「う……うう……おええっ!」


 突然ガクガク震えながら涙目でゲロを吐く私を見たセリアは青ざめ顔で、


『お姉ちゃん!?どうしたの、お姉ちゃん!?』


 セリアは必死に呼びかけながらヒールをかけてくれたけど、あまり効果はなかった。だって、体には何の異常もないから……『黒目』の魔眼は、瞳を通して私の心の中の闇を……様々な悪感情を刺激していた。


(怖い逃げたい寒い疲れた寝たい怠けたい……けどカッコつけたいし気持ちいいことだけしたい……でも今はそれより……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)


 今一番感じている悪感情――恐怖が『黒目』の闇の精神魔法によって増幅されて、膝の震えが止まらず、心臓がバクバクして、胃が縮み上がって中身を全部ぶちまけていた。

 でも、愛しい妹の不安そう顔を見た瞬間に怒りが……それは敵である『黒目』に対してではなく自分自身に……私は情けなく震え続ける自分の足に剣を突き立てた。


「ぐっ!ぐぬうう……」


『何やってるのお姉ちゃん!まさか操られて……今、治s」


「ダメ!」


 私は回復しようとするセリアを制止した。この痛みと弱い自分に対する怒りでようやく『黒目』の精神攻撃に対抗することができる……相手だって満身創痍……これくらいでちょうどいい……いやむしろもっと……私は王都でのビッケスとの戦いを思い出していた。


(勝つためにあらゆる手段を……『黒目』はおそらく魔眼で闇を、蛇特有の器官で熱を感知している……それならば……)


 私は半分捨て身の作戦を思い立ち……覚悟を決めた。


「セリア……今から私がすることを見守ってて……その代わり……回復魔法の準備だけはお願い」


『……うん。わかった。頑張れお姉ちゃん』


「ええ。それじゃあ行くわ……ファイアボール!」


 私はファイアボールを可能な限り乱射したが『黒目』に勢いよくぶつけるのではなく、ほぼ真上に放つことで急な放物線を描くようにして『黒目』のまわりに火の雨をふらせた。ファイアボールを熱でしか感知できない『黒目』は自分の周りが明るさと熱に包まれたことに困惑している。私はその日の雨がふる熱の中に捨て身で飛び込んで魔法剣『レーバテイン』で斬りかかった……しかし、賢い『黒目』には読まれていて、闇魔法の力を纏った牙で受け止められた。

 私は自分の服にも火が燃え移った状態で鍔迫り合いをしながら、勝利を確信。


「流石ね……賢いアンタなら私が炎に紛れて斬りかかるのを予想できると思ってたわ……でも、これには気がつかなかったみたいね」


 私がそう言った直後、ファイアボールに紛れて、あらかじめ空高く投げたおいた銀骨剣が落下のスピードをつけて『黒目』の脳天に突き刺さる。鈍く光る熱を持たない銀骨剣が『黒目』にとっては最も知覚が難しい存在であり、私の唯一の勝機だった。

 こうして脳を貫かれた『黒目』の生命力は凄まじく、まだ息があり苦しみながら頭を高く上げた瞬間――


 ドゴンッ


 と、特大の雷が銀骨剣に落ちてきて、『黒目』の頭はプスプスと音をたてて丸焦げになって絶命。その巨体が崩れ落ちた時、その目から黒い宝玉が……私が探し求めていたギフト宝玉だった。


「は、はは……やったわ」


 私はセリアに足の傷と体の火傷を回復してもらいながら、半ば朦朧とした状態で、そのギフト宝玉を手に入れ、何の迷いもなく自分の右目に……あ、あははは……本当に闇の世界を見れる!

 私はこうして、新しい力を……闇の魔眼の力を手に入れた。

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