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5-17 スパイラル召喚『グリーンガーディアンオーク』と見張り組の異変

 モンスターがダンジョンから溢れ出す現象であるスタンビートは、雷獣連峰では発生したことはなかったが、不幸な偶然が重なってしまったことで、今まさに起きようとしていた。

 まず第一にカイトが山の穴を塞いで攻め込んだ――これはライトニングバジリスクを確実に仕留めるためだったが、結果的に逃げ道を絞る事につながってしまった。

 第二に麓近くのトンネルをボンベとペルルーザが開けてしまった事――冒険者ギルドの警告を無視した悪質な行為ではあるが、本人達もこのような事態を引き起こすとは夢にも思っていなかった。

 そして何より第三は、雷獣連峰が長い間放置されすぎてしまった事――聖剣の製造が行われなくなって、ライトニングバジリスクを駆除する人間が現れず異常発生していたが実害は無く、下手に調査する方がシャハプ村などに悪影響を及ぼすのではないかという懸念……というよりも冒険者ギルドの事なかれ主義によって放置されすぎてしまった。

 それらが最悪のタイミングでかち合ってしまった事にカイトが気付いたのは、ボンベとペルルーザを追うようにライトニングバジリスク達が自分から逃げて、山の下の方に続く穴に雪崩れ込んでいくのを確認した時だった。


「まさか!あいつら、あのトンネルから……まずい!このままだと村の方にライトニングバジリスクが!」


 カイトは召喚獣達に発破をかけて、まだ抵抗を続けるライトニングバジリスクを撃滅させてから、その後を追った。そのタイムロスは30秒程だったが、状況は厳しかった。


「くそっ!こんな狭い穴で戦闘して穴が崩れたら、先に行ったライトニングバジリスクを取り逃がす可能性が……こうなったら穴の中での殲滅を諦めて、トンネルの出口から村の間で確実に仕留めるしか……」


 カイトは最も確実にライトニングバジリスクを取り逃がさない作戦を遂行するために、麓近くに通じるトンネルを下って行った。




 そのかなり先でライトニングバジリスク達の追撃を受けているボンベとペルルーザは血相を変えて全速力で駆け下りていた。


「ちくしょお!なんで小僧じゃなくて俺たちの方に!」


 二人は剣を盗んだせいなのかと思ったが、これを手放すと収穫が無くなってしまうので意地でも返そうとしなかった。仮に手放したとしてもライトニングバジリスク達の追撃はとまらない――暗闇に慣れた大蛇達は空気の流れに敏感で、麓へのトンネルがつながったことを感知し、これが自分にとって最も生存率の高い逃げ道だと本能的に判断していた。だからシャハプ村を襲おうという意思は無いのだが、いきなり麓におりたらパニックになって何をしでかすか分からなかった、

 そして、そのライトニングバジリスク達を先導するような形になってしまったボンベとペルルーザはベテランの域に達した冒険者なので、途中で攪乱用爆竹や魔物撃退粉などのアイテムを使って、とうとうトンネルの出口までたどり着く。


「ハァッ……ハアッ……ここまで来たらこっちのもんだ!ランナーラプトルに乗って逃げるぞ!」


「おうよ!やっぱり金をケチんなくて正解だったぜ!」


 二人はトンネル入口で待機させていたランナーラプトルに跨って逃走――ここまでの行いも冒険者にあるまじき行為だったが、その逃走先が致命的にマズかった――二人は助かりたい一心で、本能的に人のいる方に……シャハプ村にランナーラプトルを走らせてしまい、ライトニングバジリスク達も聖剣もどきに惹かれてそれに続いてしまった。

 その光景をトンネルの出口から目撃したカイトは、同業者として静かに怒りながら魔力を高めた。


「あの馬鹿共……せめて村からライトニングバジリスクを引き離そうとするなら見逃してやろうとも思ったのに……とにかく村を守るのが先だな」


 シャハプ村は雷獣連峰との間には堀を設けていなかったが、不幸中の幸いでそれなりに距離が離れている。カイトはその間に壁を作って遮断することにし、そのために木属性のメルをコード化して土属性のブーをベースにしたスパイラル召喚を発動させる。


「ただ一輪の花のため  君は世界を敵にする  楽園の巨人に祝福を  スパイラル召喚  グリーンガーディアンオーク」


 村の安全を優先したカイトは防衛戦が得意な巨体のオークを召喚――頑強な肉体と巨大な木の棍棒を持つ猪の頭をした巨人は、セリアが見れば変態妄想不可避な雄々しい風貌で、見た目通りの力強さとタフネスに加えて魔法も得意だった。


「よし……それじゃあ『グレートウォール』で村との間に隔壁を……いや、思ったより密集してるから取り囲め」


 グリーンガーディアンオークは「ブフォ」と野太い返事をすると、持っている棍棒を地面に叩きつけた。その衝撃そのものに魔力が宿っており、それがランナーラプトルに乗った二人組とライトニングバジリスク達の周囲の地面に到達して『グレートウォール』が発動――爆発的な勢いで地面が隆起して、グルッと包囲する壁になる。その壁は高いだけでなく頑丈な上にネズミ返しのようになっているため、大蛇達は一匹も逃れることはできなかった。

 もちろんランナーラプトルに乗ったボンベとペルルーザも脱出できず、突如現れた土壁によってライトニングバジリスク達の群れの中に閉じ込められたので、半狂乱になって泣き叫んでいた。


「た、助けてくれ!この剣なら返す!何だってするから!」


「お礼に金だって!借金してでも!だから助けやがれ!」


 もう脊髄反射のように思うまま喚き散らかす二人の声にカイトはイチイチ耳を傾けなかったが、最初から殺す気はなかったので、落ち着かせるために叫び返した。


「安心しろ~!今助けるから~!でも先に罪のないランナーラプトルからな~!」


 何だかんだ腹が立っていたカイトは、友達の会社の商売道具であるランナーラプトルから助けて、グリーンガーディアンオークに命じて蔓を伸ばして壁の外に逃がしてあげる。

 その一方でボンベとペルルーザは失禁しながら、壁の中を逃げ回って、互いを罵り合っていた。


「何で俺がこんな目に!チンケな情報屋に踊らされやがって!」


「うるせえ!俺はこんなアヤフヤな噂に飛びつくのは最初から反対だったんだ!」


「んだとお?上手くすれば嬢ちゃん達をコマせるなんて調子に乗ってたじゃねえか!」


 最初は少し面白がって聞いていたカイトだったが、内容がどんどん不快になったので、命は助けるが壁の外に出すのをやめた。


「……あいつらはあのまま『ロックジェイル』で閉じ込めてくれ」


 グリーンガーディアンオークはそのカイトの指示に従い、ドスンと足踏みすると、二人は狭く暗い石の檻に閉じ込めた。しかし、周りにおびただしい数のライトニングバジリスクが蠢いているので、生きた心地はせず、恐怖でそのまま失神してしまった。

 こうしてスタンビートは人的被害を出す前に防げたが、これだけの騒ぎだったので、ポノフェがシャハプ村から馬を飛ばしてきて、


「カ、カイトさん!これは一体どういう状況なのでしょうか?」


「どういう……う~ん……どこから話せばいいのやら。それよりも申し訳ないのですが、俺の仲間がまだ山に残ってm」


 カイトはそこで突然言葉を止めた。それは今までほとんど経験したことのない異変――セリアとリューネのところに残したミミーの召喚が解除されたのを感じたからだ。その感覚から、エネルギーの枯渇によるものと推測できたのだが、セリアとリューネのところで自分の予期していない事が起きていると察知した。


「すみません!後で戻って説明します!タマ!ピースケ!行くぞ!」


 カイトは二体を召喚して即スパイラル召喚を発動する。


「聖戦こそ我が運命  悪を赦さぬ天啓が  光の龍を呼び覚ます  スパイラル召喚  聖光龍ホーリージャッジメントドラゴン」


 カイトは御前試合以来にホーリージャッジメントドラゴンを召喚すると、ポノフェはその衝撃で腰を抜かしてアワアワしていた。カイトは光の龍に飛び乗ってから彼女にペコッと頭を下げて、


「驚かせてごめんなさい。でも急いでるんです。それじゃあ『ホーリーバリア』を展開して飛んでくれ!」


 カイトは雷を純粋なバリアで防ぐ力技で、雷獣連峰を飛んでいく――そして、改めて雷獣連峰の全体像を見ることで、自分が見落としていた事に気が付いた。


「もしかして……7合目で増えすぎたライトニングバジリスクは6合目だけじゃなくて、8合目の方にも……より上の雷が激しいところに住む個体はより強力に……くそ!どうしてそんな簡単な事に気がつかなかったんだ!」


 それは自分の中の『ライトニングバジリスクは7合目に生息している』という先入観のせいだった。もし、その予想が正しく、7合目がスカスカになったことで、8合目から下りてきた強力な個体が……仮にそれがSランクの強さだったら、ミミーがエネルギーを枯渇するほど消耗した事と辻褄が合う。かなり危険な状態だが、まだコウベが残っているのが確かなので、二人はまだ無事だと信じてカイトは雷をかき分けて急行した。

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[一言] 小物は即退場!
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