5-16 嬉しくない再会によって引き起こされる人工スタンビート
撤退の判断が早かったため、昼過ぎには5合目のキャンプに戻ってきたカイト達は、状況を整理して計画を練り直していた。
「ライトニングバジリスクの強さは想定通りだったけど、あの数は……順調すぎて索敵を怠った俺のミスだよ。ごめん……」
「カイトが謝ることないわ。それに……カイトがその気になれば、ライトニングバジリスクを殲滅できるでしょ?」
「まあ……穴から出てくればミミー無双で簡単に……でも、穴の中のライトニングバジリスクまではちょっと……」
カイトの言葉尻の弱弱しさから何かを察したリューネは、責任を感じたような表情で、
「……もしかして、穴の中に魔法を放って倒しちゃうとギフト宝玉が手に入らないからやらなかったの?」
「それもあるけど、どちらかというと周辺被害の懸念がね……一番簡単なのは水責めなんだけど、それによって発生したモンスターの死体で汚れた水が麓の村に流れ込んだら問題だし、火責めとかでも何が起きるか……穴の中の様子がわからないあの状況で良い手が浮かばなかったから撤退しただけでリューネには何の責任は無いよ」
カイトとリューネは互いを慰めるような話ばかりしているので、ヤキモキしたセリアが話を進めた。
「では、具体的にどうしましょうか……日程的には余裕がありますから、じっくり穴から出てきたライトニングバジリスクを狩り続けるのもアリだと思います」
「いや、モンスターもバカじゃない。おそらく危険を察知して穴から出てこない個体もいるだろうね……特に強くて賢い奴ほど……そういう個体の方がギフト宝玉をドロップしそうだし……そこで俺に案があるんだけど」
カイトはそう切り出したが、セリアとリューネは大方の予想ができていた。
「カイト君だけ穴に潜って直接狩るってことですね」
「……うん。これが現状では、最も堅実な作戦だと思う」
それは言われなくても理解していたセリアとリューネだったが、すんなり賛成という雰囲気でもなかった。
こうなるのが分かっていたカイトは勿論彼女達のフォローの言葉も用意していた。
「決して二人が足手まといと言ってるわけじゃないんだ。役割を分けようって意味で、俺からお願いがあるんだ」
「私達にお願い……ですか?」
「うん。俺が潜る前に地上のライトニングバジリスクを掃討して山の穴を可能な限り埋めていくけど、それでも挟み撃ちされる可能性がある。かといって狭い穴を三人で入るのも得策じゃないから、二人には退路の確保……つまり穴の見張りをお願いしたい」
カイトは上手いことを言ったつもりだが、セリアとリューネはカイトなら挟み撃ちされても余裕で対処できるだろうから本当はここで待機していてほしいという本音を感じ取っていた。しかし、それに言及せず素直にカイトの提案を受け入れる。
「わかりました。それなら、体調を万全にして明日再チャレンジしましょう。お姉ちゃんもそれでいいね?」
「ええ……正直、私には他の案が浮かばないから異論はないわよ」
こうして三人はコンディション調整を心掛け、しっかり栄養補給してから、昨日よりも早く床について十分な睡眠をとった。
三人がスヤスヤ寝ている一方で、例のトンネルの近くでツルハシを振るう二つの影が……勿論、ボンベとペルルーザでこちらは悪い意味で順調だった。
「へへ、いくら村から離れてるとはいえ、夜にこんな事してバレねえのかと思ったが、落雷の音のおかげで村の奴らに気付かれる心配はなさそうだな」
落雷に混じったカンカンというツルハシの音は耳障りで大きかったのだが、シャハプ村では落雷の騒音対策のため、それぞれの家の防音対策がしっかりしていることもあって、多くの農家が寝静まった夜でも誰も気づくものはいなかった。
「にしても思ったより固いな……こりゃ、トンネルまで繋がるのは朝になっちまいそうだ」
そんな文句を言いつつも、体力には自信のある二人はツルハシを何本かダメにしながらも、夜明け前には新たなトンネルの入口を作ってしまった。
そしてカイト達も朝に予定通り出発――雷獣連峰三日目ということもあり、だいぶ慣れた様子だったが、油断は全くせずに昨日と同じポイントに到着した。
「やっぱりライトニングバジリスクがいるな……ミミー、頼んだ」
デジャヴのような光景だったので、再びミミーの風魔法でナマス切りに……やっぱりギフト宝玉は落ちていなかったが、少しだけ違う点もあった。
「……昨日よりも数が少なかったですね。でも、これは……」
「うん……たぶん警戒されてるってことだろうね。まあ、この場合は一網打尽にするチャンスだから決して悪いことじゃないか……」
カイトはそう言いながら、ブーの土魔法で可能な限りの7合目の穴を塞いで、突入の準備を整えた。
「それじゃあ作戦通り、俺は穴に潜って、二人はここで退路の確保を……落雷と強風対策でコウベとミミーは残してくけど、危ないと思ったら撤退してね」
二人は頷いたが、この召喚獣がそばにいる限り、ライトニングバジリスクが湧いてきても全く問題ないので、カイトを置いて逃げるつもりは毛頭無かった。そんな二人の心情を読み取っていたカイトは攻守のバランスのいいミミーとコウベの二体を置いていき、ライトニングバジリスクの巣穴に潜って行った。
「それじゃあ、ブー、タマ、ピースケいつもの感じで頼むね」
少し頭を下げながら、暗く狭い穴を進むカイトは、こういう未整備ダンジョン攻略における鉄板トリオだった。タンク兼足場補強担当のブー、アタッカー兼照明担当のタマ、各種のバフ及びヒール役のピースケの三体の安定感は心強く、時折現れるライトニングバジリスクもタマが爪の一撃で屠るので、スイスイと進むことができた。
そして、10分程進んだところで、細長い穴は大きな地下空間に到達した。そこは大蛇の巣穴の中心部で、数える気も失せるくらい大量のライトニングバジリスクが蠢いていた。
「はは……モンスターハウスなんてレベルじゃない地獄絵図だな……まあ、考えようによっては宝の山か」
カイトが苦笑いを浮かべながら軽口を叩いていると、絡み合っていた大蛇達がほどけてカイトを取り囲みだした――ライトニングバジリスク達はカイトという脅威に対して警戒心MAXだが、本能的に勝てないと理解しているのか、なかなか襲ってこない――そして、すんなり手を出さないのはカイトも同じだった。
「ん~、でっかい魔法で片づけたいところだけど、ここが崩れて生き埋めは勘弁だからなあ……やっぱりコツコツいくか……皆!出てきてくれ!」
カイトは今の手持ちの三体に加えて、セリアとリューネのところに残したコウベとミミー以外の7体を召喚する。
こうしてS級戦力11体vs.Aランクモンスターの大群の戦闘が始まった。数では圧倒的に劣るカイト陣営だったが、
「皆~、作戦は『いのちをだいじに』と『バッチリいこうぜ』の中間くらいでね。ガンガン禁止~。特にゴクウ!お前は如意棒使うな!素手でやれ!」
一種舐めプのような指示を出しているが、好き勝手やらせると、このフロアごと吹き飛ばしかねない召喚獣もチラホラいるので、それぞれの弱めの攻撃でライトニングバジリスクを一匹ずつ確実に倒していく――ゲームで言えば無限湧きスポットで雑魚狩りをする感覚に近く、
(穴の中の様子がわからなかったから、念のため単身で乗り込んだけど、これならレベリングも兼ねてセリアさんとリューネを連れてくるのも悪くなかったかな)
と、考える余裕があり、召喚獣達の戦いぶりを見ながら、お目当てのギフト宝玉が無いか探していた。しかし、それとは違うものを発見することで、自体は急展開してしまう。
「ん?ライトニングバジリスク達が溜まっていた場所が光って……アレは剣……なるほどな~……そういうことか」
カイトが納得したのは、聖剣の製造方法が絶えてからライトニングバジリスクが増えた理由――ライトニングバジリスクは暗い巣穴にいる一方で、雷など光るものが好きな習性があり、それがキラキラ輝く聖剣作りの邪魔になってしまう――あそこにあるのは、かなり昔にライトニングバジリスクによって盗られてしまった製作途中の聖剣だということが推測でき、この習性のために昔の聖剣作りの人間に駆除されていたことがうかがえた。
これはリューネにいい土産ができたなと思っていると、それに近づく二人の人物が現れたので、カイトは頭が完全にフリーズした。
「ええ!?あんた達!いったいどこから!?」
カイトは初日に振り切ったはずのボンベとペルルーザがここにどうやって来たのか皆目見当がつかず、思わず叫んで尋ねたが、二人は素直に答えるわけがなかった。
「へへ、そりゃ企業秘密ってもんだ。お互い様だろ」
「とにかく、俺達はこのお宝を貰ってズラカるから、蛇どもの相手は頼んだぜ」
二人はこんな場所から一刻も早く離れたいので、何本か転がっていた聖剣のなりそこないを持って、自分たちが来た封鎖されたトンネルへ逃げ込んでいった。
「よっしゃー!お宝ゲットだ!にしても俺達ツいてるぜ」
「おうよ!蛇の巣窟に来ちまったと絶望してたら、ちょうど小僧が来て注意を引き付けてきれたおかげで、宝も見つけて……あとは逃げるだけだ」
しかし、二人にとって最大の誤算は、カイトの撃退を諦めて逃走を始めたライトニングバジリスク達が自分たちを追いかける事――それは大量のA級モンスターがダンジョンの外に出ることを意味していた。
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