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5-14 S級ダンジョンの本当の過酷さと想定外の光景

「昨日の打ち合わせでも言ったけど、ここから先は今までとは別物だからね」


 昨日と同じようにコウベを避雷針代わりにしてキャンプを出発し、いよいよ六合目というところでカイトがセリアとリューネに言うと、二人はコクコクと頷く。今のところモンスターとの戦闘はないが、雷の激しさは増し、何よりも風が強くて返事をする余裕もなくなっていた。

 そんな二人の様子を見たカイトは頃合いだと判断して、


「それじゃあ、打ち合わせ通り追加の召喚獣を……ミミー、『ウインドバリア・ワイド』を頼む」


 カイトは扱いが難しくて召喚頻度が少ない兎の召喚獣であるミミーを召喚して、三人の周りに風属性の結界を展開――強風だけでなく、温度や酸素濃度も調節しているので、屋内にいるような快適さ――セリアとリューネはまるで水中から顔を出したかのようなリアクションで大きく深呼吸をした。


「ふ~……風属性の結界って便利なんですね……私のサンクチュアリだと風は防げても、ここまで緻密な空気の調整までは……」


「ほんとね。こんな環境じゃ、カイトがいなかったらモンスターとの戦闘どころじゃないわよ」


 二人は改めてカイトと召喚獣のありがたみを噛みしめているが、実際問題、雷と強風の両方に対処できなければ雷獣連峰の攻略は不可能だった。


「この強風だと体感温度はマイナスになるし、砂が目に入って視界もきかないから、無策で突っ込んだらモンスターと遭遇した瞬間にゲームオーバーだろうね」


 カイトはサラッと恐ろしい事を言っているが、ここはS級ダンジョンだから、ある意味当然のことだった。山岳系のダンジョンには標高によって攻略難度が変化するという特徴があり、雷獣連峰も5合目までは雷対策さえしっかりしておけば、モンスターの強さも考慮するとA級ダンジョンレベルだった。それゆえ、過去数十年の間に、数は少ないものの一部の腕利き冒険者達もここまでは登ることはできたが、この先からは露骨に攻略難易度が跳ね上がるため、ほとんど目立った収穫もなく引き返していた。その冒険者達のように特別な目的が無い人間にとっては当然の判断であり、ゲーム知識のある渡り人でなければ踏み込もうという気が起きない領域――実際に何十年も人が踏み入れておらず、道と呼べる物はなかった。


「ん~……このまま登るとライトニングバジリスクと戦う体力が削れちゃうし……登山としては邪道かもしれないけど、またブーに頑張ってもらうか」


 カイトはそんな独り言を言って、ブーを召喚。これがブーにとっては十八番の仕事であったので、カイトの指示を待たずに、土魔法で道を切り開きながら三人を先導していく。

 おかげでスムーズに雷獣連峰の攻略を再開できたが、三体の召喚獣を同時召喚で使役しているカイトを見たリューネは今更になって弱音を吐きだした。


「はあ……私も一緒に行くなんて息巻いたけど……これじゃあカイトの足を引っ張ってるだけね……」


「お姉ちゃん……確かに私達はカイト君に頼りっぱなしだけど……これからが本番だよ。ライトニングバジリスクとの戦闘で頑張ろう」


「うん……もうじき七合目だものね……でも、簡単に見つかるのかしら?」


 そんな二人の思惑とはかけ離れた光景が、もうすぐ7合目に差し掛かかろうとしていた三人の目の前に――カイト達は我が目を疑い咄嗟に近くの岩場に身を隠した。

 ここまではゲーム知識の通りなので、落ち着いて先導していたカイトも驚きを隠せない様子で、


「7合目にライトニングバジリスクが生息しているのは分かってたけど……あんなにたくさんいるなんて……完全に想定外だ」


 カイトがぼやかずにはいられなかったのは、ライトニングバジリスクの数のせいだった。山の斜面には大量の白い柱のようなものが乱立していたが、それらは全てライトニングバジリスク――つまり危険なAランクモンスターの大軍だった。

 この状況を打ち合わせでは想定していなかったので、三人はそのまま緊急ミーティングを始める。


「カイト……あの白いのが全部ライトニングバジリスクなのよね?」


「うん。ライトニングバジリスクは巣穴にいる時間がほとんどでエネルギー補給の時だけ、ああやって尻尾を空に伸ばして雷を浴びるんだけど……まさか、あんなにいるなんて……そこそこのレアモンスターのはずなのに……」


「カイト君の当初のプランだと、巣穴を見つけて出てくる所を叩く……もし出てこなければ、巣穴からあぶり出す予定でしたけど……むむむ……見つからないよりはマシですけど、流石にあの数は……」


 カイトのゲーム知識では、ライトニングバジリスクはレアモンスター扱いなので、どうやって探すかは話し合っていたが、大量発生している状況は完全に想定外。ライトニングバジリスクは集団戦法を得意とするモンスターではないが、単体の戦闘力が高く、おまけにあの数では普通ならば撤退以外の選択肢はなかった。

 しかし、カイトはそういう意味で悩んでいたわけではなかった。


「リューネ……本当はリューネにライトニングバジリスクと戦わせてあげたかったけど、そんな悠長な事を言っていられる状況じゃなくなっちゃった」


「ええ……むしろあの大軍と『戦ってこい』なんて言われても絶対に行かないわ」


 カイトはそれを聞くと少しホッとしたような笑みを浮かべて、


「じゃあ悪いけど俺一人で……まあ、正確にミミーにやってもらおう」


 カイトはそう言うと、セリアに抱きかかえられていたミミーに目配せする。


「ミミー、見える限りのライトニングバジリスクを『ストームエッジ』全部切り刻んでくれ」


 物騒な名前の魔法を命じられたミミーは『キュッ』と短く返事をして、セリアの腕から飛び降りると、長い耳に魔力を集中させて極めて殺傷力の風属性の殲滅魔法である『ストームエッジ』を発動――雷獣連峰7合目は死の嵐に包まれ、日向ぼっこのように吞気に落雷を待っていたライトニングバジリスク達は、自分が攻撃されたことに気付くことなく、無数の風の刃によって小間切れの肉片になっていた。

 その凄惨な光景にセリアとリューネは言葉を失い、命じた本人であるカイトも眉をひそめて、


「やっぱりミミーの風魔法はエグイなあ……こうやって人がいない状況ならいいけど、市街地はもちろん人がいる可能性がある場所では絶対に使えないよ」

 

 カイトは一仕事を終えて自慢気な顔をしているミミーを撫でながらそう言っていたが、褒めるというよりも扱いに困っている口調だった。

 そんなカイトを見つめながら、リューネは声を震わせて、


「ミ、ミミーが魔法を使うのを見るのは今日が初めてだけど……もしかしてカイトの召喚獣で最強なんじゃ……」


「魔法攻撃の殺傷力と殲滅力ならね……まあ、見ての通り安易に使える代物じゃないけど……それより、ライトニングバジリスクがギフト宝玉をドロップしてないか見に行こう」


 リューネは予期せぬ事態の連続で頭が混乱していたが、カイトに言われたことでハッとしたような顔になって、勢い良く立ち上がった。


「そうよ!これだけたくさんのライトニングバジリスクを倒したんだもの!レアドロップとはいえ、一つくらいはあるはずね!」


 そんなリューネの期待は裏切られ、ライトニングバジリスクの血肉の海の中にそれらしいものは見当たらなかった。


「ぐう~……無い……無い!全然無いじゃない!せっかくここまできたのに~!」


 そんな悔しがる姉をよそに、真剣な顔付きのセリアはギフト宝玉ではなく、山に開いている無数の穴をマジマジと観察していた。


「カイト君……この穴がライトニングバジリスクの巣穴ですね……だとしたら、まだまだ大量のライトニングバジリスクが……」


「うん。普通ならスタンビートになってもおかしくないけど、ライトニングバジリスクの雷で栄養補給する性質のおかげで雷獣連峰からは降りてきてないみたいだね。でも、7合目から溢れて、6合目近くにもたくさんいる事を考えると、もっと間引いた方がいいと思う」


「そうですね。それにしても……どうしてこんなに大量発生を……」


「それは駆除する人間が……ここまで来る人間がいなくなったからじゃないかな?」


「昔はこんな所に人が来たんですか?」


「……セリアさんは聖剣の製造方法って知ってる?」


「いえ……一部の人間にのみ伝承されていたそうですが、随分昔に途絶えてしまったとか……実際に現存する聖剣はほとんどありませんし……」


「俺も大雑把な知識しか無いんだけど、特殊な金属の剣が雷獣連峰の山頂で雷を浴びることで特殊能力を帯びた聖剣ができるらしいんだ」


「そうだったんですか?ということは……聖剣の製造が行われなくなったことで何十年も外敵が来なかったライトニングバジリスクは増え続けて……」


「すぐに影響はないだろうけど、今後ここまで登って来て大量のライトニングバジリスクと戦おうなんて奇特な人間は現れる確率は……やっぱり俺達が今やった方がいいね」


「ええ、どの道まだまだライトニングバジリスクを狩らないと……」


 そう言いかけたセリアとカイトが同時にリューネの方に視線をやると、


「カイト!やっぱり、この中にはギフト宝玉はなかったわ!こうなったら計画通りに『もぐら叩き作戦』をやるわよ!」


 ダンジョン周辺の安全や公益の事を考えている二人の会話を聞いていなかったリューネは、目をギラギラさせながら息まいていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たまにはエロ無しのシリアスな話もいいですね [気になる点] どんな魔眼を取得するか気になります。
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