表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/142

5-12 着実に成長する魔法剣士と遅れてきた不安要素

 セリアは正真正銘の狂人(変態)だったが、何だかんだ天才だった。幼い頃から回復魔法のセンスが抜きんでていたのでジョブは聖女を選んだが、それに引けを取らない程の体術の才能も持ち合わせており、肝も据わっていて性格も実戦向け。おかげで、どんどん世間一般の聖女のイメージとはかけ離れていくが、冒険者にとっては理想のヒーラーに近づいていた。

 そんな双子の妹が一撃でサンダーホーンライノを撃退したのだから、リューネも負けていられなかった。


「流石はセリアね……でも次は私一人でサンダーホーンライノを倒して見せるわ」


 そう意気込むリューネに危うさを感じたカイトだったが、山での戦闘と新しい剣に慣れる必要があると思っていたので、あえて止めるようなことはしなかった。

 そしてセリアが最初の一頭を退けた地点からしばらく登ったところで、別のサンダーホーンライノの縄張りに足を踏み入れたため再び戦闘が始まった。

 

「スピードはさっきのセリアと戦った奴と変わらないわね。まずは小手調べにファイアボールをくらいなさい」


 リューネがセリアより秀でているポイントである魔法による遠距離攻撃で突進してくるサンダーホーンライノに火球を放ったが、効果はいまひとつで向かってくる勢いは全く衰えなかった。


「ふん、やっぱり日頃から雷に打たれてるだけあってファイアボールくらいじゃビクともしないわね。でも、これならどう?」


 リューネはファイアボールが効かなかったことにも動じず次の手を打つ。想像通りサンダーホーンライノの体表が頑丈だったので、弱点である腹部を狙って大技であるソルプロミネンスを地面すれすれの低空で発射――狙いは間違っておらず当たれば致命傷だったが、相手は生き物――サンダーホーンライノは危険を察知して見た目からは想像できない跳躍力によるジャンプで躱し、そのままリューネを踏みつぶそうとした。


「ちっ!そう簡単にいかないか!でも、着地の瞬間なら!」


 リューネは落下してくるサイの巨体に冷静に対処して、サイドステップで余裕をもって躱し、すぐに攻撃に転じようとしたが、落雷にさらされた岩場は見た目以上に脆く不安定だった。


「くうっ!足場が!」


 ただでさえ岩だらけの山の斜面で戦いにくいのに、コウベの避雷針エリアの中での戦闘を強いられたので、足場が悪く普段のような軽やかな動きができず、絶好の反撃のチャンスをダメにしてしまいリューネは悔しがっていた。

 そんな苦戦するリューネをカイトは黙って見守っていた。リューネのような機動力を活かした戦闘スタイルだと、足場の悪い山の戦闘では普段の力を発揮できないことは織り込み済み――問題はリューネがこの環境にどう対応できるかであって、余計なアドバイスは成長の妨げになる。カイトのそばにいるセリアもそれを感じ取って、心配そうに姉を見守っていた。

 

「なるほど……カイトが山の戦闘に慣れろと言ったのはこういう事なのね……足場が悪いし、上に行くほど空気もだんだん薄くなってきて……必要最低限の動きで素早く倒さないと、登山する体力まで削られるわね」


 リューネは状況を把握して、作戦を練りなおす――再び真っ直ぐ突進を仕掛けくるサンダーホーンライノを見たリューネは、敵の攻撃パターンが変わっていない事を確認してから再びファイアボールを放った。

 しかし、今度はサンダーホーンライノではなく、その手前の脆そうな岩にファイアボールが炸裂――そこに発生した窪みに足を取られて転倒したサンダーホーンライノの無防備な腹にリューネは銀骨剣を突き立てた。


「足場が悪いなら、こっちも利用させてもらうわ。それにしてもタフね……いっきにケリをつけさせてもらうわ」


 リューネは腹に剣を刺されてもまだ息があるサンダーホーンライノの腹の中で魔法剣を発動させて、体の内側から内蔵を燃やし尽くす――人間相手ではできない、えげつない攻撃を迷わずに行うリューネには今までの甘さはなかった。

 そんな成長したリューネにカイトはあまり大げさに褒めず、落ち着いて口調で、


「お疲れ様。山の戦闘には少し慣れた?」


「まだまだ……このサイは単細胞だから即席の落とし穴が有効だっただけで、自分自身が動けるようにならないと……少なくともライトニングバジリスクにはこの手は効かないでしょ?」


「そうだね。5合目付近まではまだ距離があるから、もう少し実戦を積もうか」


「ええ、そうするわ。ちなみにカイトだったらサンダーホーンライノをどうやって倒すの?」


「やっぱり弱点の腹に……お、ちょうどあそこにもう一頭いるから見てて」


 リューネの派手な戦闘音を聞きつけて、遠くから突進してくるサンダーホーンライノを見つけたカイトは猪のブーを召喚――サンダーホーンライノと比べると小さすぎて、簡単に踏みつけられてしまいそうだが、戦闘力は見た目では決まらない。


「ブー、あいつを『ロックピラー』で串刺しにしろ」


 そのカイトの指示にブーは「プイッ」と可愛らしく返事をしたが、攻撃は全く可愛らしくなかった。土属性魔法で硬く鋭い岩の柱をサンダーホーンライノの真下で発生させて串刺しに……あまりにあっけなさすぎて戦闘といえるレベルではなかった。


「うわっ、一撃……人のこと言えないけど、えげつないわ……それにしても、こういう敵には射出タイプの魔法より座標指定タイプの方が有効なのね」


「うん。扱いが難しいけど、一つくらい習得しておくと便利だよ……って、セリアさん……何してるの?」


「え?もちろん、角の回収を……ちぇあっ!」


 リューネとカイトが話し合っているすきに、セリアは二人が倒したサンダーホーンライノの角をチョップで切り落としていた。

 その無邪気な姿にカイトは笑いながら、


「あはは、そんな事しなくともサンダーホーンライノの死骸は俺のアイテムボックスで回収するよ。ほら」


 カイトはそう言ってサンダーホーンライノの死骸を消失マジックのように、一瞬でアイテムボックスに……サンダーホーンライノは角よりも、皮の方が防具の素材として価値が高かった。しかし、セリアにはそんな事は関係ない。


「流石はカイト君。でも!角は全部私にください!」


「う、うん……わかったよ。それじゃあ、リューネの訓練がてら5合目付近までサンダーホーンライノ狩りをしよう」


 こうして三人はサンダーホーンライノ相手に足場が悪い山岳での戦闘訓練を積んで、予定通りに5合目に到着――そこでブーの土魔法で横穴を掘ったところで一日目は終了した。



 こんな風にカイト達が順調に雷獣連峰を登っていた頃――

 シャハプ村に二人組の冒険者が入ってくる。それはカイト達を見失ったボンベとペルルーザで、結局丸一日遅れて到着したが、カイト達がここに来ているという確証があるわけではなかった。


「ここがシャハプ村か……本当にここに小僧共がいるのか?」


「……わかんねえ。だが、雷獣連峰に一番近いここの冒険者ギルド支所に顔を出してる可能性はあると思うぜ」


「可能性か……ちっ!せっかく高いランナーラプトルをレンタルしたってのに見失うなんてよお!ちったあ金になるような情報の一つでも手に入れねえと大赤字だぜ!」


 他の冒険者グループはカイト達を見失った時点で実力の差を見せつけられたので追跡を諦めて王都に引き返していたが、借金してランナーラプトルをレンタルしたこの二人は諦めきれず当てずっぽうでシャハプ村に来ていた。

 しかし、その勘は間違っておらず、冒険者ギルド支所に近づくと目を輝かせて、


「おいボンベ!冒険者ギルド支所にランナーラプトルが三匹いるぞ!」


「おお!ってこたあ、小僧たちはここから歩いてったってことか?ならまだ追いつくかもしれねえ!」


 二人は興奮して大声でわめいていると、その声を聞きつけてポノフェが冒険者ギルド支所から出てくる。カイト達の時は宿泊客と勘違いしたが、この二人はいかにも荒くれ冒険者という出で立ちと雰囲気だったので、今回は間違えなかった。


「こんなにたて続け冒険者が来るなんて……あなた達も雷獣連峰に?」


 そのポノフェの言葉を聞いて確信に変わった二人はいよいよテンションがぶちあがって、


「おおよ!それで小僧たちはいつ出発したんだ?」


 ポノフェはその不躾な言い方に眉をひそめたが、仮に丁寧な口調だったとしても、他の冒険者パーティーの情報をみだりに教えるわけにはいかなかった。


「そういった事はお答えできません。冒険者ギルド職員として言えるのは、雷獣連峰を登るのはお勧めできないという事だけです」


 せっかくテンションが上がっていたのに、ポノフェに水を差された二人は露骨に嫌そうな顔をして、


「けっ、そうかい!まあ、俺達は好きにやらせ貰うさ。行くぞベルルーザ!」


「おうよ!」


 二人は一刻も早くカイト達に追いつきたいので、ランナーラプトルに乗ったまま雷獣連峰に向かおうとする。

 ポノフェはそんな二人組の性急な行動に呆れるのと同時に驚いて、


「あっ!あなた達!行くこと自体は止めませんが!トンネルは決して開けないでくださいね!」


 そんなポノフェの悲鳴のような警告に対して、二人は真剣に耳を傾けようとはしない。


「わかったわかった!」


 と、何がわかったのかさっぱりわからないから返事をするだけ。

 その後ろ姿にポノフェは一抹の不安を覚えたが、雷獣連峰に挑む無謀な冒険者の多くは大体あんな感じなので、どうせ雷の迫力に驚いてすぐに引き返してくるだろうと思い、それ以上干渉はしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ