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5-11 珍しく真面目になった聖女は伝説素材を前に躍動する

 カイトの召喚獣のチート性能に慣れていたはずのリューネが中二病の発症を伴う癇癪をおこしたのが丁度お昼時だったので、三人は落雷エリアに入る前に昼食がてら小休止をしていた。


「よし……そろそろ腹ごなしがてら、ゆっくり登ってくか」


「そうですね。えっと……注意するのはコウベちゃんから離れすぎないようにすることですね?」


「そうそう。だいたいコウベの半径20メートルから離れないようにすれば落雷は防げるから足元にも気をつけてね」


「わかりました。それではコウベちゃんはカイト君の直上に固定して、カイト君を中心に移動しましょう」


 いよいよ危険地帯に入る段階になって、セリアは真剣モードになって真面目に打ち合わせをしている。その姿を見たカイトは何だかんだセリアもS級冒険者夫婦の血を引いているんだなあと感心していた。

 そのセリアと全く同じ血を引いている双子の姉のリューネも戦闘モードに切り替えてキリッと精悍な顔つきになっているが、やや気負いすぎているようだった。もっとも、この三人の中で戦闘力が一番低くS級ダンジョンに初挑戦なのだから無理もなく、声も少し上ずってしまう。


「要はカイトから離れすぎなければいいのね?前衛は任せて!本命のライトニングバジリスクとの戦いの前に、この銀骨剣の試し斬りもしなくちゃいけないもの」


「まあ、そうだけど……でもあまり剣にこだわらない方がいい。雷属性の敵と戦う時は近づきすぎないのが鉄則だよ」


「勿論わかってるわ。なんたってカイトのハリーの電撃のおかげで身をもって体験してるんだから」


「はは、そりゃそうか。まあ、今日の第一目的は日が暮れる前にキャンプ地となる横穴を5合目付近に掘ることで、第二目的は山に体を慣らす事……レベリングに来たわけじゃないから無駄な戦闘は避けようね」


「う、うん……わかった」


 いつもはお姉ちゃんぶってツンケンすることの多いリューネだったが、ビッケスの教育のおかげでいつになく素直なのでカイトもやりやすかった。


 こうして三人はコウベを避雷針代わりにして落雷エリアである3合目に足をふみいれると、さっそく雷獣連峰の洗礼をあびることになる。コウベが雷を受け止めてくれるとはいえ、雷の眩しい閃光と轟音が消えるわけではなかったので、


「きゃあっ!い、今の雷は特別凄かったわね……」


 3合目に入ってから、5分に一回くらいの頻度で雷が三人の真上に落ちてきて、その雷の規模にムラがある。さらにコウベの避雷針エリアの外にある近くの岩に特大の雷が落ちてくると、リューネは生きた心地がしなかった。


「どんなに大きい雷が連続で落ちてきても、俺達に直撃することはないから安心してよ。まあ、驚くなっていうのは無理かもしれないけど、山の上に行けば行くほど雷は強くなるし、それに比例してモンスターも強くなってくから、だんだん慣れてこうね」


 いつもは姉弟プレイをする二人だが、今は何だかんだカイトの方が兄のように優しく励ましている。その隣では珍しく真剣な顔つきをキープしているセリアが周囲の索敵をしていた。


「雷の直撃はコウベちゃんのおかげで防げますけど、こう落雷が多いと光と音のせいで、モンスターの気配が分かりづらいですね……まあ、あそこの鹿の群れは立派な角が発光しているので見つけやすいですが……」


 セリアがそう言って指差す先には、パチパチと電気を帯びた大きな角を持つ鹿のモンスターの群れがいる。カイトも気がついていたが、距離もあるし敵意がないので、スルーしていた。


「あれはエレキジカだね。あの角で雷を受け止めることでエネルギーにしているモンスターで、近づかなければ襲ってくることはないからスルーしよう。雷獣連峰のモンスターは似たような性質で、雷を受け止める角を持ってるケースが多いから、そこまで意識しなくても見つけやすいよ。むしろ問題は……」


 カイトはそこまで言ってセリアとリューネの前で両手を広げて一時停止させる。その瞬間に、二人は臨戦態勢になってカイトの視線の先に目をやると……


「ん?あれは岩……じゃないですね。なるほど、岩に擬態した亀のモンスターですか……光るものにばかり集中して気づきませんでした」


「あれはフロゴパイトリクガメってモンスターだよ。普段はほとんど動かず岩に擬態してるけど、硬くて電気を通さない甲羅に守られてて、近づいた獲物を襲う習性があるから、少し迂回しよう」


 二人はカイトの指示に黙って従い無駄な戦闘は回避し、落雷だけでなく周囲の岩などにも警戒を払いながら移動する。

 雷獣連峰のモンスターは特殊な環境に適応した結果、雷をエネルギー源にするためにそれを受け止めて吸収する雷属性のモンスターと、雷に耐性を持って完全に無効化する地属性のモンスターの二つグループに分かれていた。戦闘そのものは厄介な雷属性の攻撃をする前者のグループの方が強いが、雷で栄養補給する生態のため好戦的なモンスターは意外と少なく、フロゴパイトリクガメのような後者のモンスターの方が数は少ないが凶暴性は高かった。

 しかし、好戦的な雷属性モンスターも当然いる。そのモンスターの縄張りである4合目に入る前にカイトがセリアとリューネに警告した。


「この先の4合目から雷がさらに激しくなるけど、そこからサンダーホーンライノの縄張りに入るから戦闘は避けられないと思うから気を引き締めて」


 そのモンスターの名前を聞いたリューネは少し顔をこわばらせた。


「サンダーホーンライノ……確か邪気眼の勇者伝説に出てきたわ。電撃を周囲にまき散らしながら突進してくるサイよね」


「うん。スピードは大したこと無いけど、パワーと硬い角と皮膚が特徴で、雷獣連峰の5合目より下では最強のモンスターだよ」


「やっぱり勇者伝説と同じ……でもステータスとしてはBランクなのよね?」


「力と防御にステータスが偏ってるから総合ステータスではBランクモンスターだけど油断しないでね。山の不安定な足場のせいで、こっちも普段の平地と同じように動けないから、Aランクモンスターを相手にするつもりで戦おう」


「わかった。伝説ではお腹の皮膚が柔らかいのが弱点だったけど……無理にそこを狙うより、間合いをとって魔法攻撃で確実に削っていくほうが無難ね」


 リューネは勇者伝説のモンスターと戦うことに興奮しながらも、冷静に戦略を練っていたが、その隣のセリアは急に普段の変態聖女モードになって息を荒くしていた。


「さ、サンダーホーンライノ……あの伝説の……よっしゃ!戦いましょう!そして角は私にください!」


 落雷エリアに入ってから冷静だったセリアがいきなりハイテンションになったことにカイトは戸惑いを隠せず、


「え、あ、うん。恐らく向こうから襲ってくるだろうから迎え撃つけど……サンダーホーンライノの角で何をするの?」


「え?それは伝説のアナルk……ごほん……伝説の聖女はサンダーホーンライノの角でできた『アルカナ』という武器を使っていたそうなので……私も同じ聖女としてそれにあやかろうと……」


「そうなんだ。確かにサンダーホーンライノの角は硬いけど、切り落としても静電気を帯びてること以外に際立った特徴はないはずなんだけどなあ」


 カイトは不思議そうにセリアを見つめていたが、セリアの脳内は真剣戦闘モードから変態ピンクモードに模様替えされており、


(危ない危ない。カイト君に『聖女式アナル開発用電撃ディルド』を作ろうとしているのがバレちゃうところでした。それにしても……あああ!やっぱり来てよかった!まさかアグル・ルンガール-の『聖女式アナルプレイ入門』に記されてた伝説の素材がこんなところに!艶があって滑らかな白い角……それから作り出されたディルドは常に静電気を帯びており、これで訓練することでどんなハードなプレイにも対応できるようになるというアナルプレイ界隈では伝説のアイテム……ああ……カイト君とアナルプレイをしろという神の意志を感じます)


 さっきまでの真剣モードからの反動でヤバい目つきになっているセリアだが、何だかんだ根は真面目なので油断することなく魔力を整えて臨戦態勢になる。

 そして、4合目に突入すると予想通りサンダーホーンライノが向かってくる。それを迎え撃つべく、セリアが真っ向勝負を挑んだ。


「カイト君!お姉ちゃん!最初の一頭目は私にやらせてください!」


 その並々ならぬ気迫に圧倒された二人が引き気味に頷くと、セリアが避雷針から離れすぎないように見守っていたが勝負は一瞬だった。


「この技はこんな日のために……じゃあっ!聖女式ギロチンチョップ!」


 セリアは聖女とは思えない気合いと技名を叫びながら、電撃を纏って突っ込んでくるサイの角を手刀で切り落とした。するとサンダーホーンライノは戦意を喪失して逃げていくので、あまりにも鮮やかな戦い方にカイトとリューネは思わず拍手していた。


「凄いよセリアさん。もうすっかり俺の教えた空手を習得したね」


「いえ、まだまだです。私の体術はビーナスハンド頼りですから、これからは蹴り技も習得しないと……そこから関節技、投げ技、絞め技……はあ、カイト君にふさわしい女への道のりは遠いですね」


 日に日に聖女から遠ざかっていくセリアにカイトは感心しつつも苦笑いを浮かべていたおり、その隣のリューネは改めて力の差を感じていたが、今更それを表には出さず、静かに闘志を燃やしていた。

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[一言] おもしろいんですけど 大丈夫なんすかこれ
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