1-11 わからせ現行犯の事情聴取と12召喚獣紹介
編入試験終了と同時にカイトへの説教が始まる。
ピピンがカイトを正座させてコンコンと常識を説いていた。
「だから言っただろ!あれほどS級ダンジョン基準で考えるなと」
「いやね、攻撃に使ったことのない植物成長促進魔法の「リロ・ガオ・ケレナ」があんなにパワーがあるとは思わなくてさ。でも、約束通りパレット先生は死んでないし、怪我も無いじゃん。蔓で絞め殺す「レニ・バヌヤン」とか葉っぱで切り裂く「ロドボ・ブオル」を選ばなかった俺の判断は正しかった……て、事で許してください」
カイトは精一杯釈明して土下座したが、被害者のパレットが許さなかった。
「いえ、怪我しました。心の怪我です。あと、木に足を釣りあげられたときに、私の処女膜がちょっと裂けました!実質レイプです!こうなったからには、男らしく責任とってください!」
このパレットの訴えには、ベルリオーズ家の面々も流石に困惑の色を隠せず、何とも言えない空気が流れた。
勿論、一番困ったのはレイパー扱いされたカイトで、もう理解が追いつかない。
「す、すいません……でも先生の処女膜とか誰も興味ないんで……」
「カイト君!それは思っても言っちゃダメです!先生だって女の子なんですよ!」
「うううう、セリアさん優しいです……マジ聖女ぉぉ」
セリアはパレットに胸を貸して慰める。そこに女教師の威厳はなかった。
そんなカオスな状況に疲れ切ったリューネは、隣の母がいつも通り笑みを浮かべて「あらあら~」と言っているので、見習いたいものだと思った。
「ママ、私なんだか疲れた。早く帰りたい」
「リューネちゃん、慣れよ慣れ~。この一年間、カイトちゃんが何かやらかした後のフォローなんて日常の一部だったもの~」
「そ、そうなんだ……なんだか学園生活が思いやられるわ」
その会話を聞いていたピピンは大きく頷いた。
「今までは私とマリアがいたが、これからの学園生活はそうもいかない。カイト、いい機会だから召喚獣の能力をここにいる全員に説明するんだ」
ピピンのその言葉にベルリオーズ姉妹とパレットの三人が首を縦に振る。
カイトは皆の気持ちがそれで済むのなら、と自分の手の内を明かしはじめた。
「わかったよ。じゃあ改めて固有スキルの説明からするけど、俺の固有スキルは【ゾディアック】全魔法属性の12種類の召喚獣と契約して同時召喚できる能力。欠点は干支に関連した下級召喚獣としか契約できないことだけど、俺のレベルが78だから、12体の召喚獣全員S級モンスタークラスの戦闘力がある」
それを聞いた婚約者姉妹は震えていた――リューネは恐怖で、セリアは興奮で。
一方、パレットはカイトのレベルを知って、ますます結婚願望を強めた。
「レベル78……ふひひ、有望S級冒険者……将来は貴族……玉の輿、玉の輿……」
そんな婚活モードの女教師を他の全員が生暖かい目で見る。
カイトは気を取り直して、個別の召喚獣の説明に入った。
「じゃあ、最初は雷属性のハリネズミの召喚獣のハリー」
カイトはパチパチと帯電しているハリーを掌の上に召喚して皆に見せた。
するとリューネが少し得意げになって、カイトの代わりに物知り顔で語りだす。
「電撃魔法が得意なんでしょ?私は知ってるわよ。身をもって体感したんだから」
「ごめんリューネ。傷つけるようだけど、あれは魔法じゃなくてハリーのただの挨拶」
「え?じゃあ、普通に魔法を使ってたら……」
「黒焦げの炭になって死んでるよ。人間相手には絶対魔法を使わないようにしてる。ただ、リューネの時みたいに単純接触だけで無効化できたりして便利なんだよね」
リューネは余計に自信を無くして肩を落とすと、セリアが優しく背中を叩く。
そんな姉妹を見ながらカイトは次の召喚獣を出した。
「そして冥属性、牛の頭蓋骨の召喚獣コウベ。冥属性の魔法は弱い生き物なら簡単に殺しちゃうから、やっぱり人間相手は手加減が難しくて使えない。正直、戦闘よりも料理の時に出汁を取るために召喚する事の方が多い……ごめんなコウベ」
カイトはそう言いながら、落ち込んだような雰囲気のコウベを摩ってあげた。
そんなカイトを見て、気を取り直したリューネが今朝のスープを思い出す。
「ねえ、カイト……やっぱり今朝のスープにも使ってるの?」
「もちろん!コウベはすごいぞ!頼めば色んな味の出汁を出してくれるから、和洋中に対応して、とにかく料理の幅が広がるんだ!多分、俺の召喚獣の中で実生活の面では一番役に立ってる……まあ、見た目はアレだけどな」
そんなカイトの熱弁にリューネはクレームをつける気も失せてしまった。
「そ、そうなの……これからも美味しいご飯よろしくねコウベ」
コウベはリューネにコクッと頷く。骨なので表情はわからないが、どことなく嬉しそうだった。
「で、次は光属性の虎の召喚獣タマ。機敏な動きと鋭い爪で戦えるけど、それよりも結界魔法や攪乱魔法などの支援魔法が便利で、光源魔法も使えるからダンジョン攻略の要だね」
召喚されてカイトに紹介されている最中も毛繕いに熱心なタマ――パレットはそんな犬くらいの大きさのホワイトタイガーに、自分の得意分野と被っている事に対抗心を燃やしつつ、可愛いので触りたいという気持ちが入り混じった眼差しを送っていた。
「それじゃあ、次は風属性の兎の召喚獣ミミー」
カイトが緑色の体毛の兎を召喚すると、可愛いもの好きのリューネが目を輝かせた。
「カワイイ!ちょっとカイト、こんなカワイイ子を戦わせてたの?」
そう言いながら、リューネはミミーを抱きかかえて頬ずりした。
「え、いや……ミミーは風の広範囲魔法が優秀で、ゴブリンの群れを一瞬で小間切れにするバリバリの武闘派だよ。強すぎて人間相手に魔法を撃てない筆頭の召喚獣」
「そうなんだ……こんなカワイイのに」
リューネは少し残念そうに、そっとミミーを地面に下した。
「そしてウチのマスコット枠、聖属性のドラゴンのピースケ」
召喚されたピースケは「ピー」と鳴きながら、同じ聖属性のセリアの肩にとまった。
「うふふ、よろしくねピースケちゃん」
聖女と白いドラゴン。絵になる組み合わせで、リューネは羨ましそうに眺めた。
「いいなあ……ドラゴンって強そうで憧れるわ」
「リューネ、夢壊すようだけどピースケは単純な戦闘力は12体中最弱だよ。聖属性の支援魔法のバフ性能がピカイチだから、もっぱらサポート要員」
「あんたの召喚獣、色々と詐欺臭いわね」
「……否定しない。で、お次はリューネの大好きな火属性の蛇のニシキ」
「ひいっ!大好きじゃないわよ!火吹きまくるバケモノじゃない!」
リューネはカイトの頭の上でとぐろを巻いているニシキを指差して悲鳴をあげる。
得意の火属性の魔法でコテンパンにされて、すっかり苦手意識を持っていた。
「でも、12体の召喚獣の中でダントツに魔法の威力を調整しやすくて便利なんだよね。実際に戦ったリューネが一番知ってるだろ?」
「確かにそうね。瞬時に私の魔力と同じ威力の魔法を連発とか人間じゃ不可能だわ」
ただ強い魔法を撃つ――これは意外と簡単だ。ゆっくり魔力を練れる時間と集中できる状況をつくればなんとかなる。しかし、短時間でピンポイントの威力の魔法を発動させるのは至難の業であり、それを連発するのは最早神業。
こういう融通の利く点が重宝して、カイトはニシキを腕に巻き付けて火炎放射器のような運用をしていた。
「今度こそリューネの大好きな回復役。水属性の馬のジュリアナ」
「あ、うん。あの回復魔法は正直病みつきになりそう」
「水属性の回復魔法がメインだけど、走攻守三拍子そろった万能選手だから凄く頼りになるんだよね」
カイトがそう言ってジュリアナを撫でながら褒めちぎるとセリアが張り合いだす。
「カイト君!カイト君の回復担当は私です!そうですよね!?」
「何言ってるのセリアさん?」
「え……カイト君……やっぱり私なんか……必要ないんだ……」
セリアは一筋の涙を流すと、絶望の表情で膝から崩れ落ちる。
カイトが目線を合わせるように片膝をついて、
「違うよセリアさん。そんなこと言わなくても、俺にとってセリアさんの存在そのものが回復魔法なんだよ。セリアさんが傍にいてくれるだけで、身も心も回復するんだ」
「か、カイト君……早とちりしちゃってごめんなさい。悪い女でごめんなさい」
「違う、俺が悪いんだよ。女の子が泣いたら、男が悪いに決まってる」
「カイト君……」
「セリアさん……」
リューネはそんな二人の茶番に呆れてジュリアナを撫でまわす。
その横でパレットは圧倒的な恋愛力の差に敗北感を覚えて固まっていた。
「で……木属性の羊のメルは……いいよね?パレット先生がまた狂っちゃいそうだから跳ばすよ?」
メルの名前が出た瞬間に、パレットが放心状態になってしまったので、他の全員がうんうんと無言で承認する。
「そして、こいつが戦闘力最強の召喚獣、気属性の猿のゴクウ」
西遊記の孫悟空がチンパンジーサイズになったような召喚獣――リューネはカイトの口から最強と言われても、棒を持っているだけの服を着た猿が強いとは、にわかに信じられなかった。
そんなリューネの心をピピンとマリアは見透かしていた。
「カイトの言ってることは本当だぞ。ゴクウは強化魔法しか使えないが、近接戦で勝てる人間はおそらくこの世にいない。S級ダンジョンもゴクウだけで踏破できる」
「へ?え?この猿が?」
「本当よ~。私とチャッピーがゴクウちゃんと戦ったら、間違いなく殺されるわね~」
「へ、へへへへ……もう意味わかんない」
リューネはフリーズ。セリアはゴクウを自分の強さの目標に見定めた。
「そんでもって召喚獣一の陽キャ。妖属性の鶏のパンク」
召喚されたのは、それまでの召喚獣と明らかに毛色が違うど派手な鶏――モヒカンみたいな大きな鶏冠、孔雀みたいに色鮮やかな長い羽、遠目にはとても鶏には見えなかった。
「なんか凄そうね……」
リューネが呆気にとられていたがカイトの答えは意外だった。
「まあ、ほとんど逃げる時専門の攪乱魔法のスペシャリストなんだけどね」
「はあ!?見かけ倒しじゃない。もっとマシな使い方しなさいよ」
そんなリューネを諫めたのはベテラン冒険者のピピンとマリアだった。
「違うぞリューネ。ある意味一番大事な役割だ。リューネも実際にダンジョン探索するようになれば分かるだろうが、もし私がカイトの召喚獣の中から一体借りるとしたら間違いなくパンクだ」
「リューネちゃんはまだ若いから仕方ないわよ~。ダンジョンで確実に撤退できる事の凄さと安心感は経験しなくちゃ分からないわよね~」
「そうなんだ……馬鹿にしてごめんねパンク」
リューネがペコリと頭を下げるとパンクはキザに「コケッ」と返事をした。
「あと2体か……じゃあ、闇属性の犬のポチ……ほら出ておいで」
カイトは自分の影に手を突っ込むと黒柴の子犬のような召喚獣が出てきた。
犬好きのリューネはカイトから奪い取るようにポチを抱きしめた。
「ああ、カワイイ……私も召喚士になろっかな……で、この子は何要因?」
「いやあ、それが困ってるんだよね……」
「は?今更何言ってんの?こんなカワイイけど、この子も強いんでしょ?」
「強いよ。影を利用した防御魔法は正直反則レベル。ただ闇魔法が他にも応用がききすぎて、逆に役割が決めきれないから、召喚頻度が一番低いんだよ……」
「何よそれ!ああ、可哀そうなポチ……カイト、定期的に召喚して私にモフらせなさい。いいわね?」
「お、おう……俺もこれからポチの運用法を検討するつもりだからいいよ」
そんな風にカイトがリューネの尻に敷かれた姿を見たセリアは、いつものように姉に意地悪したくなる――リューネの耳元で他に聞こえないように囁く。
「お姉ちゃん、召喚獣をダシにしてカイト君と二人っきりになる気なんだね……カワイイモノ好きな女の子アピールまでしちゃって、意外と恋愛巧者でビックリ」
リューネはそう言われると、急に恥ずかしくなって、顔を赤くしながらセリアをポコポコと叩いた。
カイトは2人が何をしているのか分からず不思議そうに眺めていた。
「ん、何けんかしてる?まあ、いいや……じゃあラストは地属性の猪のブー。土の壁を作って防御したり、突進で敵を吹っ飛ばしたりできるけど、小回りが利かないのが欠点かな」
ラストがなんだか一番地味な召喚獣でリューネの反応は薄かった。
しかし、セリアはただならぬ雰囲気でカイトに詰め寄る。
「カイト君……」
「ど、どうしたのセリアさん……何か怖いよ……」
レベル55の聖女が本気で魔力を放出している。模擬戦の時以上のプレッシャーにカイトは思わず後ずさりした。
「ブーちゃんは男の子ですか?女の子ですか?」
「え?そんな事?」
「大事なことなんです!お願いですから……教えて……ください……」
「いや、召喚獣は俺の魔力で具現化した存在だから性別とか無いよ?」
「つまり女の子ではないんですね」
「そ、そうだけど……」
その言葉を聞くとセリアはいつもの聖女スマイルに戻った。
「えへへ、なんだか気になっちゃって……ごめんなさい、カイト君」
「??まあ、別にいいさ。じゃあこれで俺の召喚獣の紹介は一通り終わりね」
セリア以外は頷く――セリアは表情を崩さないまま、不満げなオーラを漂わせてていたが、誰にも理由が分からない。そんな彼女の胸中は、
(皆分かってませんね……ここにも召喚獣がいるじゃないですか。カイト君の13体目の召喚獣ドM属性メス豚のセリアが。ふ~、ブーちゃんがメスだったら、メス豚被りしちゃうと思って発狂しそうでしたけど、これで私が名実共にカイト君の唯一のメス豚ですね。でも、まだ、あくまで自称。カイト君公認メス豚の道のりは遠いです。いつか皆の前でカイト君の口から『こいつは俺だけのメス豚だ』って宣言されて……ああああああ!いい!すごくいい!家族の前でブタ扱いされる私!お父さん!お母さん!お姉ちゃん!その軽蔑の眼差し!私の大好物なんですううう!聖女だと思ってた娘がブタでごめんなさい!清楚な妹じゃなくて淫乱マゾ奴隷でごめんなさい!でも、これがカイト君との愛の形!家族に変態マゾプレイ見せつけたいよおおお!)
こうしてカイトの召喚獣の能力説明も終わり一段落……とは、ならなかった。
「お義父様、お義母様。このまま旦那様を入学させるのは危険ではないでしょうか?」
パレットが真顔でピピンとマリアに話しかけいる――
婚活がうまくいかず拗らせすぎた女性が完全に壊れてしまった瞬間に立ち会ってしまい、カイトだけでなくベルリオーズ家一同も凍り付いていた。




