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1-10 固有スキル【ゾディアック】と緊縛わからせ魔法

 ランベルク学園魔法演習場――円形のリングと観客席のあるドーム状の屋内施設。

 学校が休みな上、季節外れの編入試験ということで貸切状態。観客席のベルリオーズ家を除けば、広い円形闘技場には、巨乳女試験官パレットとカイトだけ。

 パレットがメガネをクイッとさせて試験開始。


「では、編入試験を始めます。カイトさん、あなたが使える魔法を教えてください」


「俺は【召喚士】なので戦闘魔法は支援魔法と召喚魔法しか使えません」


「なるほど……では召喚魔法を披露してくだい」


 そこでカイトは再度確認のために、観客席のピピンとアイコンタクトをとる。


「固有スキルを使っても構いませんか?」


「?ええ、どうぞ……」


(見た目は普通だけど変わった子ですね……)

 それがパレットのカイトに抱いた印象――これまで何人もの生徒を見てきたが、固有スキルの使用許可を求められたのは初めてだった。


「では、まず……来い、ハリー」


 パチパチと帯電しているハリネズミが召喚されると、観客席のリューネは反射的にビクッとする――昨日の決闘で軽いトラウマになっていた。


「あの召喚獣……可愛いけど電撃がエグイのよね」


 そんなリューネと対照的にパレットは拍子抜けしていた。

 国の推薦、最年少のS級冒険者、名門貴族の婿養子……そういう前情報のせいで、少なからず身構えていたが、蓋を開けてみれば下級召喚獣しか出せない召喚士。国から推薦の時点で入学は決定しており、どのクラスに編入するかの確認だけなのだが、このレベルならBクラスが妥当なところ……

 パレットはそんな採点をしていたが、ここからが本番だった。


「やっぱり召喚する順番は干支がいいよな……次はコウベ」


 カイトがそう言いながら召喚したのは、先ほどの可愛いらしい召喚獣から一転して、牛の生首の骸骨――禍々しい角、不気味な眼光、危険な気配の魔力――白骨の召喚獣はカイトの周りをフワフワと浮遊していた。

 カイトが複数の召喚獣と契約している事を知らないパレットは度肝を抜かれた。


「そ、それは!?」


「これは冥属性の召喚獣です。見た目はアレですけど、美味しいダシがとれて便利なんですよ」


 カイトは呑気な口調で説明したが、パレットが驚いていたのは、その新手の召喚獣そのものではなかった。


「召喚獣からダシ?いえ、それより……そのハリネズミの召喚獣を召喚したまま新たな召喚獣を?」


 パレットが指差す先には、ハリーとコウベの二体の召喚獣――複数の召喚獣と契約している召喚士は珍しいがいないわけではない。しかし、複数の召喚獣を同時に召喚など聞いたこともなかった。


「これが俺の固有スキル『ゾディアック』全魔法属性の12体の召喚獣と契約して、それを同時召喚できる能力です」


「ぜ、全属性?12体?同時?」

 

 信じられないという表情をしているパレットの顔を見たカイトは、口で説明するのが面倒くさくなった。


「残りは一気にいきますね。タマ、ミミー、ピースケ、ニシキ、ジュリアナ、メル、ゴクウ、パンク、ポチ、ブー」

カイトは干支の順番で子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥を召喚。

それぞれの魔法属性は雷・冥・光・風・聖・火・水・木・気・妖・闇・地の12。


 観客席のリューネは今更驚くのも馬鹿らしくて、乾いた声で笑っていた。


「はは、そりゃあ史上最年少でS級冒険者になるわけだわ」


 そんな姉の隣で恍惚の表情を浮かべるセリアの妄想は止まらない。

(エッッッ!エッロ!カイト君エッチすぎいいいいい!全属性?12種類の魔法……つまり責め方も12種類ってことですよね?ハアハア、最初はやっぱり王道を往く、水責め!水魔法で窒息プレイ!んんん!それで終わりなんて勿体ないです!溺れて意識を失った私に電撃魔法を!ああああ、頭の細胞が焼き切れちゃうううう!昨日のお姉ちゃんが羨ましかったんです……情けない悲鳴、無様な倒れ方……もはや芸術!電撃でカエルみたいにビクビクしたいよおおおおおお!そんな醜い私をカイト君が見下しながら踏みつけて……無理です。だって私が弱すぎて、優しいカイト君は私を抱きしめちゃうんですよね……あああ!弱くてごめんなさい!これじゃあカイト君を満足させられない。夫婦なのに本気のプレイができないなんて……このままじゃあ私見捨てられちゃいます!カイト君、時間をください!強くなるから!どんな責めも受けとめられる至高のメス豚になるから!強くならなきゃ!カイト君と理想の夫婦になるために!最高のパートナーになるために!最強の女にならなくちゃ!)

 変態的思考が加速すると、脳内で勝手にカイトをドSにしてモチベーションを高めるセリア――彼女の異常性にまだ誰も気付かなかった。


 そんな観客席の様子を知らないカイトは淡々と試験を進める。


「で、召喚しましたけど、これで終わりですか?」


「えっと……本当は魔法の威力を確かめるために結界魔法を張った私に攻撃してもらう予定だったのですけど……」


 パレットは冷や汗をダラダラ流しながら自分を包囲する召喚獣を見回した。

 パレットも教師になる前は結界魔法のスペシャリストのA級冒険者であり、優秀な後衛としてパーティーを組んでダンジョン攻略や魔物退治に明け暮れていた。その時の経験が「逃げろ」と叫んでいるのに、足が震えて動けない。いくらカイトと召喚獣に殺気がないとはいえ、レベル78のバケモノとS級モンスター相当の召喚獣12体を前にしては無理もない――恐怖が臨界点を超えて、無意識に叫んでいた。


「ひいいいいい!絶対無理!死ぬ!これ絶対死ぬやつじゃないですかああ!玉の輿狙って王都の貴族学園の女教師になったのにいいい!ズタズタにされて召喚獣に食い殺されるうううう!何でもしますから!私のオッパイ好きにしていいですから!命だけはあああ!」


 試験官に突然発狂されてしまい、カイトは困惑の色を隠せない。


「え、ええええ……俺そんなやばい奴じゃないですよ。じゃあ、一体だけで手加減して攻撃しますから、好きな召喚獣選んでください」


「はっ!と、取り乱してすいませんカイトさん。では……その羊でお願いします」


 パレットは12体の中で一番のんびりしていて、葉の生い茂った木の角が生えている以外は普通の羊にしか見えない召喚獣を選んだ。


「はい、メルなら大丈夫ですよ。あんまり戦闘向きじゃないですから」


 その言葉を聞いたパレットは大きな胸をホッと撫でおろす。


「そ、そうですか……では『フォトンバリア』×5!さあ、攻撃してみてくだい」


 カイトが他の召喚獣を消すと、気を取り直したパレットは光属性の結界を5枚重ね掛けする。

 これを割った枚数で評価が決まると理解したカイトだが正直困っていた。パレットのバリアの強度がイマイチわからないので、どれくらい手加減すればいいのか見当がつかない。

(まあ、殺傷能力の低い木属性魔法なら大丈夫かな?)

 ボケっとしているメルを見るとカイトもつられて気が緩んでしまった。


「メル、『リロ・ガオ・ケレナ』三部咲き」


 メルは「メエッ」と気の抜けた声を出して、額を地面につける。そこから芽が生え、花が咲き、たちまち木になると、蔓や幹がパレットめがけて伸びていく。

 カイトのチョイスは木属性魔法の中でも希少な攻撃魔法――鋭利な葉を飛ばす系の魔法は危険なので、樹木を急成長させて敵にぶつける魔法を選んだ――このカイトの判断はミスだった。メルの木属性魔法を攻撃で使う経験が少なかったので、適当に三割の出力にしてみたが、完全に加減を間違えている。


 それにいち早く気づいた観客席のピピンが思わず叫ぶ。


「あっ!あのバカ!『セイントバリア』間に合え!」


 ピピンはパレットの五枚重ねの光の壁の上に、急いで聖属性のバリアを張った。しかし、しっかり練る余裕のなかったピピンの『セイントバリア』はたちまち破られ、パレット自慢の五重結界も無惨に蹂躙された。


「ひぎいい!私の結界がああ!いやっ!蔓が絡んで!?ぎゃああああ!」


 蔓や幹に絡めとられたパレットは木の急成長に飲み込まれて、服を引き裂かれながら、逆さづりで、樹上へと攫われていく――

 そんな惨状に、セリアは羨望の眼差しを向けていたが、他の面々は慌てていた。

 ピピンとマリアとチャッピーは木に拘束されたパレットの救助に向かう。

 リューネは呆然と立ち尽くすカイトに駆け寄って叱りつけた。


「馬鹿カイト!先生に何やってんのよ!」


「いや、その……ごめんなさい」


 そんな二人の近くで、セリアはメルにコソッと語り掛ける。


「はあはあ……メルちゃん……私の時には……もっとハードに……触手成分多めでお願いしますね……あんっ!……ふうっ……」

 

 セリアはそう言いながら、全裸で縛り上げられる妄想をして軽く絶頂。


 そんな三人のもとに、ピピン達によって救出されたパレットが降りてくるが色んな意味でボロボロ――衣服の大半がズタズタに引き裂かれ、幹に絡まったので、助け出され際には、ほとんど裸になってしまいマリアに借りた外套を羽織っていた。名門ランベルク学園の教師の威厳は完全に失われ、虚ろな目で、ボソボソ呟いている。


「穢された……年下の……転入生に……服を剝ぎ取られ……縛られて……吊るされて……晒されて……植物で犯された……うううう、お嫁にいけない」

 

 すっかり編入試験という空気でなくなったが、カイトは合否が気になった。


「あ、あの~試験の結果は?」


「合格に決まってます!というより、何を学ぶ気ですか!?ま、まさか……このエロ魔法で女性を襲うために学園に!?」


「ち、違いますよ。この魔法は先生に実力をわかってもらおうと……」


「はっ!つまり私を教師失格だと、わからせて手籠めにするつもりで……わかりました。では、カイトさん責任とってください!レディを脱がして辱めたんですから当然ですよね!?」


 カイトは、目をギラギラさせて迫ってくるパレットに恐怖した。


「ちょおっ!?何でそうなるんだよおお!」


 そんなカイトの叫びがコダマした後の演習場は、ベルリオーズ家の説教部屋に様変わりした。

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