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1-1 パーティー追放?と思ったら婚約者ができました

「ふふふ~ん。ピピンの奴、何をもったいぶってるのかな?」


 遂にS級冒険者に昇格して上機嫌のカイトは「大事な話がある」とパーティーリーダーのピピンに宿の一室に呼ばれていた。

 有頂天のカイトはノックもせずに勢い良くピピンの部屋の扉を開けた。


「はーい、たった一年でS級冒険者になった天才、最強、無敵の召喚士、カイト様が来てあげましたよ~。さあ、褒めて、讃えて、もてなして」


 そんな調子に乗ったカイトを待ち構えていたのは、リーダーのピピン、彼の妻のマリア、そしてフェンリルのチャッピーの二人と一匹。パーティーメンバー全員が揃っていた。

 ピピンのジョブは【聖騎士】で頼れる前衛。ハゲ以外の欠点のないナイスガイ。

 その妻のマリアはフェンリルを従える凄腕の【テイマー】で、強くて美人で癒し系。

 二人共S級冒険者であり、一年前に日本から異世界に飛ばされてきて困っていた高校生のカイトを拾い、冒険者として育ててくれた恩人――そんな冒険者夫婦をカイトは本当の親のように慕っており、ピピンとマリアもカイトを可愛がっていた。

 いつもならピピンがツッコミを入れて、マリアが「あらあら~」と微笑んでいるのだが、今日は少し雰囲気が違う。

 それを感じ取って戸惑いを隠せないカイトにピピンが重い口を開いた。


「カイト……せっかくS級になったばかりだけど冒険者を辞めてくれないか?」


「そんな!こんなに頑張ってきたのに、まさかのパーティー追放!?」


「あ、いや、そうじゃなくて……」


「そりゃ、俺は召喚士だから攻撃魔法は使えないよ。でも、その分を支援魔法と召喚獣で補ってきたし、空手を駆使して近接戦闘だってこなしてきたのに!」


 そんな取り乱すカイトにマリアが普段のおっとりした口調で宥めようとした。


「カイトちゃん落ち着いて。もう、あなたの言い方が悪いのよ~」


「もしかしてアレ?ピピンに支援魔法かける時『頭皮の輝き+20%』した事を怒ってるの?それともマリアさんに『エロ同人風擬音バフ』かけてムチッムチッってさせた事?」


「いや違う!っていうかお前そんなことしてたのか?」


「あらあら~。最近男の人の目線が気になってたけどカイトちゃんが原因だったのね~」


「えっ?その事じゃないの?クソッ、はめられた」


 てっきり支援魔法の悪戯がバレたと勘違いしたカイトは墓穴を掘っていた。

 しかしカイトには他にパーティー追放される理由が思い浮かばない。


「たしかに私の言い方が悪かったな。順を追って説明するが、その前にカイトに謝らなければならない事がある」


「謝らなければならない事?」


「ああ。今までカイトには私たちはただの冒険者夫婦だと言っていたが……すまん。本当はこの国の諜報機関所属の宮廷貴族なんだ」


「黙っててごめんなさいね~カイトちゃん。私たち夫婦は王命で渡り人……つまりカイトちゃんの保護と観察を命じられていたのよ~」


 そんな二人の告白を受けたカイトは一年前を思い出す。しかし、異世界に飛ばされる直前の記憶は断片的だった。

 高等部に進学したばかりだったような……

 異世界に飛ばされる?

 昔遊んだゲームと同じ設定じゃん。

 固有スキル選んでいいってマジ?

 ジョブ?そんなのぶっ壊れ性能の召喚士一択でしょ。

 おまけで『言語理解』『アイテムボックス』?ラッキー!

 そして気が付いたら、辺境の山奥――いくら最強職で最強のギフトがあっても、レベル1の16歳の少年は途方に暮れていた。

 そんな時に『通りすがりのS級冒険者夫婦』に拾われて今日に至る訳だが、少し考えてみれば、そもそもこの国にS級冒険者はカイト以外に10人しかいないのだから、そのうちの二人と偶然出会うなんて確率的に考えて普通は有り得ないのだ。しかし、異世界に飛ばされるという有り得ない事を経験したばかりだったカイトの感覚は麻痺していた。


「……なんで急にそれを打ち明けたの?」


 カイトは少なからず警戒していたが、二人が敵対しているとも思えなかった。

 そもそも二人に害意があるのであれば、今まで襲うチャンスはいくらでもあったのだから、今更危害を加える意思はないと推測できた。しかし、まだ話の全体像が掴めない以上油断もできない……

 そんなカイトの緊張を解くようピピンは腐心する。


「今まで素性を隠していたのだから警戒するなというのは無理な話だな……私たちは国に対してカイトの事を報告していたが、誓ってお前の不利益にならないよう努力してきたんだ」


「国としては百年周期に現れる渡り人を国家の一員に引き込みたい反面、危険な思想や能力がないのか不安なのよ~。でも安心して~カイトちゃん。私たちはカイトちゃんが『優しい素直ないい子』だって何度も何度も報告しておいたわ~」


「ピピン……マリアさん……」


「あ、でも『胸ばかり見てくる』事や『可愛い女の子に騙されやすい』事も報告しちゃったわ~」


「あと、『私の頭に悪戯してくる』事とか『すぐ調子に乗る』事もな」


「ちょっ、異世界にプライバシーの概念ってないのかよ!でも、それをこうやって俺に話してるって事はつまり……」


「ああ、ようやく国がカイトを無害な渡り人だと認めて、私たちの任務も終わったんだ」


 そのピピンの言葉を聞いてカイトは安堵のため息をついた。

 しかし、それと冒険者をやめる事が直接結びつかない――これからの自分の立場がわからず、だんだんと不安になってきた。


「これから……俺はどうなるの?ピピン達も俺の観察の任務も終わったから、これでお別れって事?いきなり国に認められたとか言われても困るよ……」


 そのカイトの言葉を聞いたピピンとマリアは顔を見合わせて頷く。

 そしてピピンはようやく本題を切り出した。


「その事なんだが……今回の任務完了に伴って、国に対して特別報酬としてカイト、お前を希望したんだ」


「報酬が俺?」


「そう言うとまた誤解されてしまうな。早い話私たちの家族にしたいという話なんだ」


「えっと……ピピンとマリアさんの家族……っていうことは……養子ってこと?」


 普段は利発なカイトだが、急な話に頭がまだ追いついていなかった。

 そんなカイトにマリアが微笑みながら追い打ちをかける。


「息子は息子でもカイトちゃんには娘婿になって欲しいのよ~」


「娘婿!?って事は結婚……そもそも娘いたの?初耳なんだけど!」


「ああ、カイトと同い年の双子の娘がな」


「双子って事は二人いるんだよね?俺はどっちと結婚するの?」


「どっちもよ~。」


 そのマリアの一言がある意味今日一番の衝撃発言だった。


「ど、どっちも!?え、いやいや、重婚って駄目でしょ!」


「安心しろカイト。この国の貴族は一夫多妻制が認められている。そういうわけで二人の娘の婚約者になって、王都の貴族学園に入学してくれ」


「え、えええええええ!?」


 異世界に来てから一年――この日がカイトにとって一番のカルチャーショックを受けた日となった。

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