十字弓作り
俺とオノサスは、戦利品とコビエクから買った生活必需品を持って山に戻り、また山の生活が始まった。
マヤナカとリホホとコヤナカは大太刀の制作に励んでいる。オノサスは試行錯誤しながら日本刀作りに挑戦している。俺はオノサスの手伝いである。といっても鍛冶の仕事を四六時中している訳では無い。
俺はオノサスの鍛冶仕事の手伝いの合間に、ある物を作ろうと思っていた。それは弓、十字弓である。その十字弓を鉄で作るのだ。
何故弓を作ろうと思ったかと言えば、例の熊騒動である。此処では熊に対処するには弓がメインの武器である。そこで俺もオノサスの弓を改めて見た。これはイギリスのロングボウに類する弓のようである。そしてオノサスからその弓を借りて練習したのだが、どうもしっくりこない。
的はすぐ当てられるようになり、馬上からの騎射も出来るのだが、和弓が世界一長い弓なのに持つ所が下から三分の一のところを持つので膝射ちも出来、騎射も容易なのに対して、このロングボウは弓の中央を持つので馬上での取り回しがややしづらい。また和弓が耳の後ろまで引くのに、このロングボウは頬近辺までであり、その分弓の張力を大きくして威力を補っている為、かなり腕力がいるところが問題である。
もっとも腕力がいるはオノサスの弓だったからかも知れないが、改良の余地ありである。特にこのロングボウは材質が変形がしにくい木であるため、和弓が竹と木の素材で出来ているために弦を掛けない状態では逆に大きく反っているのに対して、その反りが少ないので溜めが小さいのである。
そこで溜めの有る弓を作るには素材を何にするかと考えた。勿論此処は竹など自生していない。結果最終的に考えついたのは鉄である。鉄なら幾ら変形させても弾力は保てる。何枚もの逆方向に曲げた薄い鉄板を重ねれば目的の張力の弓が出来る筈である。そうトラックの板バネと同じにすれば良いのである。
そして何故十字弓かと言うと、威力のある弓にするには張力を大きくすれば良いが、強力な弓で矢を番えた状態で維持するのは困難である。その点十字弓なら力を加える時は一瞬で、後は狙って引き金を引くだけである。引く射るの動作を分離したのが十字弓である。
但し、一般的な十字弓は特別な機構で弓を引くが、これでは矢を番えるのに時間が掛かる欠点が生まれる。
それを鑑み、この度作ろうとする十字弓は引くのは腕の力で弦をカッチとなるまでまで引くと安全装置が掛かり、矢を保持する処に矢をパッチと嵌めると、後は何時でも射れる状態になる構造とする。さらに安全装置を二重にすれば、矢を番えた状態で持ち運べることも長期間置いておくことも可能な筈である。
勿論その状態で居間にでも置いておけば、また熊が出たときは女子供でも対処出来るだろう。
そしてオノサスの鍛冶の仕事が終わるの待って、鉄を熱しては叩いて薄く伸ばし始めた。オノサスは案の定興味深そうに見ていたが堪らず聞いてきた。
「何を作るんだ」、「弓です。十字弓です」とそこまで言って、後はめんどくさいので、簡単な絵を描いて示したところ、オノサスは一瞬で理解した。
オノサスは日本刀作りを一次中断して、俺とオノサスによる十字弓作りが始まった。試行錯誤のため2周間程掛かったが、満足の行く十字弓が完成した。といっても材質が鉄であるので結構重い。でも旧日本軍の騎兵用の四四式騎銃も4kg程あるので問題無いだろう
結果は強力な弓なのに命中率は高く取扱は安全で簡単。騎射も楽々行え、矢を番えたまま十字弓に取り付けたベルトを肩に引っ掛けて、馬で移動することも可能である。
俺とオノサスが十字弓の試験を色々行っていると、当然マヤナカ一家が興味を示して来た。そしてマヤナカ、リホホ、コヤナカも一通り十字弓の試射を行うと、マヤナカは言った。
「これを俺達にも作らせてくれ。これは絶対売れるが、他の鍛冶屋に見せたら真似されてしまう。なのである程度数が出来るまで他の誰かに見せないで欲しい」
オノサスは「うん構わないよ。図面も貸して上げるから、まず作る練習としてノヤカ用の十字弓を作って欲しい」、「わかりました」と、マヤナカ一家は大太刀に加え十字弓を作る事に、オノサスは日本刀作りの挑戦に戻った。俺はオノサスとノヤカの手伝いである。
マヤナカ一家の大太刀作りと十字弓作りは順調に、オノサスの日本刀作りもオノサスは満足していないがある程度出来上がった。




