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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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9人切り

 麓の町にあるコビエクの商店に行くと、中年の男が一人店番をしていた。コビエクである。


 「コビエク暫くだな。なんだお前一人か?」、「ここは海に近いから毎年あの残虐な海賊が来るし、今度はそれより残虐なリクモ帝国の兵がやって来るかも知れないんで、家族は都にあった支店に移っています。私も都に移る予定です。この店は暫く閉店です。今日私が居るのはオノサスさんから注文の品物を受け取るためだけです」


 「それは待たせて悪かったな。でもこの店が閉店だと町の人が困るのではないか」、「しょうが無いですね。戦争が終われば戻ってきますよ」


 俺が馬から品物を降ろしていると、コビエクは「その青年は誰です?」とオノサススに聞きながら俺の顔を見ると驚いた顔をした。


 「ビスクさんにそっくりじゃないですか」、「うん俺の年の離れた妹の子でな、それで似ているのだろう。俺の妹は異国人に嫁いで、夫に付いて夫の国に行ったのだ。彼はその国に生まれたが母が死んで、母が育った国を見たくてこの国にやって来たのだ。だから未だ言葉がうまくしゃべれないんだ」


 「アキノスケと申します。よろしくお願いいたします」、「コビエクです。それにしても似てるな」など世間話を始めると、外で人の声がする。


 見ると馬に乗った男と徒歩の男がこちらに来るのが見えた。十数人程で全員武装している。


 コビエクが俺とオノサススを強引に後ろに引っ張り、小声で「敵兵です。リクモ帝国軍です。ランシ人もいます。赤い髪がランシ人。紫の髪がリクモ人でしょう」

 

 物陰に隠れて様子を見ていると、一人の老婆がとぼとぼと道を横切ろうとしていた。すると一人の男が刀を抜いて老婆の片腕を切り落とした。次にもう一人の男が老婆の首を切り落とした。


 コビエクが「アッ」と小さな声で叫んで奥に引っ込もうとしたとき、立てかけた板が倒れて音がした。すると何人かの男がこちらを見るなり走って来た。


  コビエクは奥に行ったが行き止まりである。オノサスは既に劍を抜き、左手には短剣を持っている。


 俺は怒りを必死に抑えようとしていたが、居合の時のように左手に鞘を掴み右手を柄に添える体勢になると、不思議に怒りも恐怖心も無い平常心になった。


 敵兵はばらばらと中庭に入って来ると3人がオノサスに向かう。オノサスと3人が切り合いを始めるが、やはりオノサスは劣勢と見え少しづつ後退している。


 俺は4人に3方を取り囲まれた。俺が刀を抜いていないので、中央の敵兵がいきなり間合いに入って来て劍を振りかぶった。その刹那、気合と共に俺の刀はその敵兵を袈裟懸けに切り、次に刃を上にすると返す刀で右に回り込んだ敵兵の脇を下から切った。最初に切られた敵兵が未だ倒れていない間に、今度はその陰から左手に刀を添えると左の敵兵の胸を貫いた。


 オノサスを相手をしている敵兵の一人が、俺の気合同時に3人が粗同時に倒れたので、それに気を取られてこちらを見た瞬間、すかさずオノサスの劍がその敵兵を貫いた。これでオノサスが相手にするのは2になったので、オノサスの腕なら取り敢えず大丈夫だろう。


 そして俺は4人目の敵兵に向かっていた。4人目の敵兵は槍を構えていたが呆然としていたので、その敵兵の頸動脈に刀を当てた。


 俺が一瞬の内に4人倒したので外で見ていた敵が入って来た。今度の敵兵は立派な鎧を着た大男もいた。大男の指図で一人が槍を突き出し、同時に大男は劍を突いて来たが、俺は槍を胸元から4寸程避けると槍を突いてきた敵兵の手首を切り落とすと、次は大男の劍を持った手首の動脈を下から切った。


 大男は手首を抑えながら後ろに下がった。俺はそれを無視し、次に槍を突き出して来た敵兵は左手による片手突きで倒し、更に踏み込み左右の敵兵を袈裟斬りで倒した。


 大男と手首を切り落とされた敵兵は次第にうずくまり最後は動かなった。未だ敵兵は2人いたが2人共馬に乗るや逃げ出した。


 オノサスは既に残り2人を倒していたが、敵兵が逃げるのを見ると、馬に乗せて有った弓を手を持って来ると、慎重に狙いを付け矢を放った。距離はかなり有ったが、矢は一人の兵士の背中に突き立ち、兵士は落馬した。もう1人の兵士は逃げお失せた。


 そしてオノサスは俺の顔を見て言った。「見事だ」


 オノサスは倒れている敵兵を一人一人生死に関わらず首に劍を当てて頸動脈を切っていった。凄惨な光景だが、これも武士の情けと言うものだろう。自分達の命の危険が有ったにしろ、俺も今日何人もの人を殺したのだ。だが何故だか今の自分にはそれが普通な感覚なのだ。俺は心の中で、これは夢なのだ、現実世界では無いのだと言い訳していた。


 奥に逃げていたコビエクは一部始終を見ていたのだろう。恐ろしげに俺の顔を見ながら「1人で9人も殺ってしまったんですよ。オノサスさんも4人ですか。2人で13人も。いやーすごい。恐ろしい。・・・オノサスさん怪我をしていますね。傷口を縛る布を持って来ます」と言ってコビエクは家の中から布切れと酒が入ってると思われる壺を持ってきた。


 コビエクがオノサスの傷口に酒を掛け布で縛っているとき、オノサスは俺に「また助けられたな。最初に倒した敵は、お前が気合入れたので、それに気を取られたて隙を見せたから倒せたのだ。3人相手はきつい。やられる寸前だった」


 その話を聞いたコビエクは「前も切り合いをしたのですか?」と聞いて来た。「いや、熊に襲われたところを助けられたのだ」、「熊が気合で逃げていったんですか」、「いや、コイツは熊を斬り殺したんだ」、「エツ、アキさんは9人切りに、熊殺しですか?」、「いや、あれはまぐれですよ」


 コビエクが持ってきた布で刀を拭き刀身を見たが傷も刃こぼれも無い。『さすが親父が打った刀だと思って見ていたが、オノサスも俺の刀を手に取って眺めている。

 

 そうこうしている時、ふと敵兵の1人が逃げお失せた方向を見ると、十数騎の馬に乗った兵隊がこちらに向かって来るのが見えた。すわ新たな敵と思ったが、コビエクは「味方のようですね」と言った。


 来たのは、ヤマテニア国の騎兵であった。隊長と思われる騎兵の一人がオノサスを見るなり「オノサスさんじゃないですか」と言いながら中庭を見た。そして倒れている敵兵を「1人、2人、・・」と数えると「12人。これを3人で倒したんですか」と言うと、コビエクが「9人はこの青年で、3人はオノサスさん、道の1人はオノサスさんが弓で倒しました」言った。


 隊長は「えっ!、一人で9人も」と俺の顔をまじまじ見た。そして「髪が黒いので、君は異国人と思うが」と言った。


 オノサスはコビエクに説明したように「彼は俺の妹の子で、妹は異国人に嫁いだので髪が黒いのは夫の血によるものだろう。妹は死んだので、彼は母の国が見たくてやって来たのだ。なので未だ言葉がうまく話せない」


 「へー、オノサスさんの甥ですか。それにしても凄いね。剣術は君の国で習ったの?。その刀も変わってるね」と聞いて来た。


 「アキノスケと申します。私が居た国は今平和なので誰も刀など携帯していませんが、昔の剣術や武術を教える人は少なからずいます。私はその何人から色々な武術を教えてもらったのです」、


 「それは興味深いね。今度兵隊達に指南してくれないか?。今リクモ帝国との戦が始まっているので、兵隊達の武術訓練が急務なのだ。オノサスさんも前線に出ろと言いませんが、昔のように剣術を教えてくれませんか。山で隠居するような年じゃないでしょう」


 「いや、今の俺は只の鍛冶屋だよ。・・・ そうだ死んだ敵兵の馬とか武器とか鎧を貰っていいのかな。武器は鉄の材料になるし、馬はそれを運ぶためだ」


 「ええ、構いませんよ。これは貴方方の戦果ですし」


 隊長とは暫く話をして、現在の状況を知る事が出来た。リクモ帝国は数百隻の船で来襲し3万から4万の軍勢が上陸したようである。


 ランシ国は滅ぼされたので毎年来襲する海賊は来ないだろうが、代わりに大陸を統一したリクモ帝国の侵略があるかも知れないので警戒していたところ、上陸地点はヤマテニア国の直轄領ではなく、地方大名が治める領地だった為に安々と上陸させてしまい、かなり苦戦したが撃退したとのことである。


 此処に来た敵兵は大規模な戦闘になった部隊とは別働隊で、偵察部隊だろうという事だ。恐らくリクモ帝国の来襲はこれで収まる筈はなく、次はもっと大規模な軍勢で押し寄せて来るのは必至であり、そのために兵士の募集と訓練が急務なそうである。

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