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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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熊退治

 マヤナカ達が山を降りているある日の朝、俺は居間でノヤカと話していた。そのとき家の外でオノサスの叫び声が聞こえた。驚いて戸を開けて外を見るとオノサスが一本の木を盾がわりにして一匹の熊と対峙している姿が見えた。


 俺は急いで居間に戻り、壁に立て掛けてある大太刀を抜き放って、トンボの構え(示現流の構え)のまま駆け出した。熊はこちらに向かって来る俺の声を聞くと向きを変えて立ち上がり、右手を振り上げて俺に振り下ろそうとした。その瞬間、俺は裂帛の気合と共にその手に大太刀を打ち込んだ。


 「イエーッ!」更に間をおかず、次は首筋に太刀を振り下ろした。「イエーッ!」


 熊はゆっくりと四足の形に戻ると次第にうずくまり、最後は動かなくなってしまった。よく見ると首筋から血が吹き出しているのが分かる。なんと熊に勝ったのである。そう思うと俺はため息と共に尻もちを付いた。


 オノサスは熊に近づき熊の体を丹念に調べると俺に言った。「イヤー、驚いた。熊を刀で斬り殺してしまったのか、でも助かった。見ろ、この太い熊の手がぶらぶらだぞ」


 俺は立ち上がると、まずは熊を点検。熊の手の骨は切れていたが肉と皮を切断するまで至ってなかったようだ。次に大太刀を点検。しかし大太刀は刃こぼれも無く曲がりも無かった。オノサスも大太刀を点検して唸っていた。


 気がつくと後ろにはノヤカが弓を持って立っていた。ノヤカの弓の矢の篦(の=シャフトの部分)は何故か赤。聞くと赤の篦は毒矢だそうである。此処では熊に対する武器は毒矢だったようである。と言っても毒が効くのは1時間ぐらい掛かるようなので、この場合は毒矢では間に合わなかっただろう。


 オノサスは再度熊を調べていたが物置小屋に行って、荷車を押して来た。熊を荷車に乗せて水場まで運ぶようである。三人がかりで何とか熊を荷車を乗せて水場まで運んで熊を降ろすと、ノヤカは隣の家に行ってナヤカとラクネアを連れて戻って来た。


 三人共、手に手に鍋や桶、包丁にまな板を持っていた。熊の解体が始まるのだ。オノサスは手際よく熊の皮を剥ぎ、肉の大きな塊を大きな桶に放り込むと、女たちはそれを更に小さく切って鍋に入れたり、塩をまぶして桶に入れるなどしている。塩をまぶした肉は貯蔵用なのだろう。


 動物の解体など見たこともやったことも無い俺だが、何もしない訳にはいかないので不気味ではあるが適当に手伝っている。その間女共はペチャペチャ喋りながら俺に質問してくる。


 「アキ。すごいね」、「いや夢中でやっただげで、まぐれだよ」、「劍の達人でハンサムときたら、山を降りたら女の子から注目の的だよ」、「山を降りません」等々。


 それから数時間、そうこうしている内に皮と肉と内臓と骨は分けられ、血なども綺麗に洗い流され解体は終わった。


 一つの鍋には野菜や香辛料が入れられ、家のベランダにある大きな机の側にあるコンロに掛けられた。熊肉のバーベキューである。


 オノサスの無事を祝い、俺の勇気を称えることで、熊肉パーティが始まった。熊肉であるが、臭みでも有るのかと思ったが、意外に臭みは全くなく、しかも美味しいのである。


 「この時期は熊は出ないのだが、この熊は若いので冒険をしたのだろう」、「若い熊だったのですか、成獣の熊だったら大太刀なんかでは敵わなかったのですね」、「いや、立派な成獣だよ」、女達はペチャペチャむしゃむしゃ。


 皆で盛り上がっている処にマヤナカ、リホホ、コヤナカの一行が帰ってきた。山登りに疲れていたのが、おもわぬ熊肉パーティに出くわして一同大喜びである。


 マヤナカが「エッ、アキが刀で熊を斬り殺したの?」と、大太刀を持ってしげしげと眺めだした。リホホ、コヤナカも次々大太刀を手にとって眺める。


 「オノサス叔父さん、下では戦争が始まっているんだ。リクモ帝国が海を渡って攻めて来たんだ。何時ものランシ国の海賊との戦争では無い。ランシ国はリクモ帝国に攻め滅ばされて、ランシ人はリクモ帝国の奴隷か兵隊としてやっやって来てるのだ」


 「下の町は戦場になったのか?」、「いや未だなっていない。上陸された所はからくも撃退したそうだ。・・・そうだ叔父さん。コビエクが会いたがっているよ」


 「そうか、注文されていた劍も出来上がっているので、それを持って山を降りるか。暫く町に行ってないしな。その時はアキも連れて行こう」


 「叔父さん。今、劍なり槍なり持って行けば飛ぶように売れるよ。俺はアキが熊退治をしたこの大太刀を作ってみる」とマヤナカは皮算用を始めている。


 「アキ、この大太刀を俺に暫く貸してくれ」、「いいですよ。もう熊退治は大太刀なんかでしませんから。それに暫く熊は出てこないでしょう。山を降りるときは オノサス叔父さんの弓矢で守ってもらいますから」


 そして数日後、俺とオノサスはそれぞれ馬に乗って、更に一頭の馬に作った劍や農具など乗せて山を降りた。俺は刀と腰刀、オノサスは長剣と短劍と弓矢の出立である。

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