現実世界に
モズイ城では盛大な結婚式が行われている。主な出席者は国王代理として元近衛師団長のギニニ摂政の宮、ガナシア・リヨサ夫妻、マヤナカの家族とリセス、コビエク商店の人々、近隣の大名、そして元俺の部下、モズイ領の領民と俺の領の領民等々である。
当然なことながら王太后陛下は出席はなさらないが、代理の人による祝福の辞が有った。
しかし一番残念なことは、オノサスとノヤカの顔が見られなかった事である。聞けばオノサスは結婚式直前に足を捻挫して歩けなくなり、ノヤカはオノサスの世話をするために行くことを断念したとの事であった。
でも、俺は新婚旅行はオノサスがいる山と決めていたのだから、俺とユリサクヤと二人の婚礼衣装も見せる事は出来る。と言っても、ユリサクヤの婚礼衣装はともかく、俺の婚礼衣装は例の鎧直垂だけどな。
そして結婚式が終わり、皆の祝福の中に俺とユリサクヤはオノサス達がいる山へ向かった。馬が乗れないユリサクヤの為に、馬には2人用の鞍を取り付け、前には婚礼衣装のユリサクヤ、後ろに鎧直垂姿の俺がユリサクヤを庇うように乗っている。婚礼には武器は無粋と言われて身につけなかったので、大太刀も刀も腰刀は袋の中に入れて重いが抱えている。
そんな格好で暫く山道を登ると湖が見える所に来た。俺が倒れていた所だ。ユリサクヤが感嘆の声を上げる「まあ綺麗」。
そこで俺は馬から先に降りると、次にユリサクヤを抱えて馬から降ろした。ユリサクヤは湖に向かって歩きだし、俺の方に振り返った。
『綺麗だ。ユリサクヤは湖に舞い降りた天使のようだ』とユリサクヤの方を見つめていると景色が変だ。
ユリサクヤも回りの風景が歪んでるのである。そのうちユリサクヤや風景だけでなく目の前の木々もグニャグニャの歪み出した。『まただ!』、そう思った瞬間、轟音と共に景色全体がピカッーと白く光り俺は倒れ意識を失った。
気が付くと、老人とその夫人と思われる女性が上から覗き込んでいる。「大丈夫か?」と老人は言った。『おう日本人だ』
俺は起きようとしたが頭がフラフラする。そこで老人は俺を抱きかええるようにして歩きだした。夫人が俺の大太刀と刀と腰刀を入れた袋を持って付いて来る。『なんか以前見た光景だな』
しばらく歩くと山小屋風の建物が有った。老人は俺をその建物の中に入れて椅子に座らせるともう一度「大丈夫か?」と聞き「外がパーッと光ったたんで外に出て見たら、あんたが倒れていたんだよ。雷にもでも打れたんたか?。救急車を呼ぼうか?」と言って来た。
「いや、大丈夫です」、「本当かい?。あんた此のベンションに申し込んだお客さんだよね」、「はい、そうです」、「じゃあ、ゆっくりして。でも一度病院で見たもらったほうが良いかもね」、「そうします」
俺は、このベンションに泊まり、近くを散策した後、何事も無く家に帰ってきた。
あれは一体なんだっただろう。倒れたのは俺の脳内に何か起きているのか?。今まで見て来たの夢だったのか。夢にしては長い夢だったな。良い夢だったな。もっとあの夢が続いて欲しかったな。
でも夢の中でも又おあずけを食らってしまったな。フリテンした者は夢の中でもツキは無いか。
そんなことより現実世界だ。ここは現実世界なのだ。
俺はこの春、情報工学を専攻して大学に入ったのだが、今、金属工学に変更しようと思っている。将来性を考えれば確かに情報工学の方が就職率が高い。それで深く考えずに情報工学を専攻したのだが、今一しっくりこないのだ。向いている人間もいると思うのだが、情報工学は俺には向いてるとは思えないし、地に足が付いてないと感じるのだ。
では俺が向いている職業は何かと考えたとき、ふと浮かんだのはあの夢で見た鍛冶や畑仕事を黙々とこなすオノサスの姿だった。
そう考えたとき、俺の親父も同じじゃないかであった。兄貴もそうだろう。俺の家は祖父の代から代々鍛冶屋である。皆汗にまみれながらハンマーを叩いていたのだ。
俺だって出来るだろう。いや一生やっても良いだろう。好きな古武道は趣味としてやれば良い。親父と兄貴と俺の3人でやれば会社だって儲かる。代々続ければ技術も蓄積され、そのうち独自の技術も生まれ、社会貢献もできる。
そう考えると俺は、大学に情報工学から金属工学転入の希望を提出した。金属工学が鍛冶の仕事に直結するからである。
結果は思ったより簡単、事務の女の子は「勿体無いわよね。情報工学の方が偏差値が高いのにのね」と言ってくれたけど意思は変わらず。
そして転入の手続きも終わり、大学を出て考え事をしながら街を歩いて行く。考え事とはあの夢である。そして夢の中に出て来たあの少女の事である。
あの夢の事を考え過ぎてしまったんだろう、俺は人にぶつかってしまった。ぶつかった相手は少女だった。
「あっ!」、「あっ!」。 俺と少女は同時に叫んだ。
「ユリ!」、「アキ・・」。これも同時だった。
「何で俺の名前を?」、「何で私の名前を」
少女は、あの忘れもしない眼差しの少女、夢の中のユリサクヤだった。
少女は言った「ごめんなさい。私夢を見たんです。夢と現実がごっちゃになって」
俺も言った「俺も夢を見たんだ。君が出てきた夢だ」
その後俺と少女が話を続けたのは言うまでもない。念願の眼差しの少女の名前も聞くことが出来た。少女の名前は百合子だった。
『何だフリテン(振り聴)じゃ無くて、九蓮宝燈で天宝だったのか?(注)』、早速大学で麻雀を覚えた俺はそう思った。そして『これから不吉な事が来ようとどうでも良い。もう死んでも良い。只時間よ止まれだ』と心の中で言った。
終わり
注、麻雀にはこれで上がったら死ぬと言われる役満がある。それが九蓮宝燈と天宝である。天宝は親だったとき配られた稗で上がってしまう役だが、その配られたのが九蓮宝燈だったらどうなるのだろうか。秋乃介2度死ぬ。




