クーデターの後始末
近衛師団のクーデターにより、宰相の一味は王宮からいなくなったが、ギニニ師団長は宰相の捜索はクグニタ達などに任せて、それ程重熱心に行っていない。やるべき事が山積みされているからである。
ギニニ師団長の濡れ衣は、ユリサクヤが持ち出した宰相の悪事を暴いた書類や、公の場に姿を見せた王太后の証言などで完全に晴らされているが、ギニニ師団長の悩み事は王宮内をどう立て直すかである。
尚、ギニニ師団長はクーデター後、国王と王太后の強い要望により摂政の宮となり、国王に代わりヤマテニア国の政務を取り仕切っている。
ギニニ師団長の悩み事の理由は、その政務の中の一番やらなければならないことが人選、即ち宰相によって食い荒らされた王宮内の役職や人の配置をどうするか、だからである。
それには軍も含まれるが、軍人の方は潔いのか、宰相が言うがままに国王の葬儀に出席したことで対応が遅れた第2師団長と第4師団長は、自主的に辞表を提出してきた。
ギニニ師団長は辞表を受理せずに引き止めたが、本人達の意思は固く2人は師団長を解任されることになった。只、第2師団長に関しては、バナイ湾での戦で功績が有ったので軍学校の校長として返り咲くことが出来た。
ギニニ師団長が言うのには、第2師団長と第4師団長の辞表を受理しなかったのは、これからしばらく戦争は無いと思うが、国を存続させる為には戦争を忘れず常に臨戦体勢にして置くことが必要なのだそうだ。そこで彼らのような優秀な人材を手放すのは惜しい。特に失敗の経験を語り続けさせるのが重要だと言うことであった。
問題は、失敗を失敗と思っていないだろう王宮内の文官、特に高級文官の方である。宰相がヤマテニア国を滅亡寸前まで持って行けたのは、彼らが宰相を助けたからである。
彼らは必ずしもヤマテニア国が嫌いで宰相に協力した訳では無い。彼らの親も子供もヤマテニア国人なのである。彼らは全国から採用試験によって選びぬかれた秀才だった筈であった。それなのに結果的には宰相を助けヤマテニア国を滅ぼそうとしたのである。
ギニニ師団長は、クグニタ等の調べにより宰相ミガツチの出自がランシ国であったことを突き止めたが、不明なのは何故官僚達がミガツチを宰相に推挙したかである。実はミガツチが宰相になる以前から、王宮内ではランシ国出身者等による閥が形成されていたのだ。
そして彼らが閥を維持し、王宮内で力を大きく出来たのはエコ贔屓とアメとムチである。彼らの誰かが人選を行える立場になったら、自分達の都合の良い人間を昇進させ、批判的な人間とか気に食わない人間を昇進させない等で、何時の間にか閥は強大になり、王宮内で逆らえる人間はいなくなってしまったのである。従ってミガツチが宰相になれたのは当然の結果だったのである。
取り敢えず、ギニニ師団長はリクモ帝国軍の駐留を認める和睦条約に賛成した文官は全員首にすることにした。その他の文官・役人は部署毎に全員辞表を提出させ、ヤマテニア国へ忠誠を誓う誓約書と簡単な首実検により採用することになった。
ギニニ師団長は、そんな事はお茶を濁す程度で、何の役には立たない事は聞かれ無くても知っている。彼らの上にまた宰相のような悪党が上に立てば、彼らはまた唯唯諾諾と悪党に従ってしまうだろう。
それは諦めるしかないとして、当面のことであるが、今後の採用方法をどうするかである。ギニニ師団長は俺にも聞いてきた。
「アキノスケ。どうやって人を選べば良いんだ。今回の事で試験だけじゃ駄目なのは分かった。秀才ってのも信用出来ないのも分かった。俺は人を見て、これは良い、これは駄目だと思うと、だいたい当たるけど、これをやっちゃ閥が出来ちゃうしな。何かいい方法無いかな」、「分かりませんよ。そんなこと考えるのはまっぴらです」、「俺もだよ」
それでもギニニ師団長は今回のことで、危ない考えであるが一つの結論に達している。組織という物は時々大掃除が必要だと言うことである。その大掃除とは今回のようなクーデターもその一つである。危ない考えと言うのは、クーデターをするような人間を発見し養成して置くことと、クーデターを起こすためには宰相のような悪役も必要だとの結論である。
そんなところで、ギニニ師団長は四苦八苦しているが、俺の役職についても話をしてきた。
ギニニ師団長は俺の役職の話をするのに何故かユリサクヤも同席させている。
そこでギニニ師団長が話したのは「まずアキノスケが師団長を務める独立遊撃師団は解散とする。その兵は元々ガナシアが集めた者達なので、彼らは郷里であるモグチツ領に帰して藩士になってもらう。そしてその藩主はガナシアとする」、『と言うことは元モグチツ領はガナシア領となり、元モグチツ藩はガナシア藩になることか』
「クグニタ達は全員、新たに作った情報部に全員採用する」、「リヨサとリセスもですか?」、「彼女達はそれぞれ思うことが有るようで、辞退したよ」
「アキノスケ。次はお前の話だ」、「ギニニ師団長。私は山に帰ろうと思うんです。オノサス叔父さんの所で鍛冶職人をやったり、畑仕事をしたりする方が性に有ってるような気がするんです」
「ふん、なるほど。そこでだ、アキノスケ。お前何時結婚するんだ」、『師団長いきなりなんて事を言うんですか』と思ったが、ユリサクヤが「今年の春です」ときっぱりと言い切った。
「王太后陛下からも早くしなさいと言われてます」、『俺は聞いてないぞ。でも嬉しい』
「まあアキノスケが路頭に迷うことは無いな」、「何のことですか?」
「 何のことですかって?。アキノスケはモズイ城に入るんだろう。モズイ城を追い出されても、山に帰れば良いし、アキノスケにはモズイ藩の隣の領地を呉れてやる事になっているので、その地に掘っ立て小屋でも建てる事は出来るしな」とギニニ師団長が言うと、ユリサクヤが強い口調で「絶対に追い出しません」と言った。
『何か俺って、女郎蜘蛛に捕まったトンボみたいだな。でもあの捕まったトンボは本当は嬉しいんだろうな』
結局俺は領主なったようだ。ギニニ師団長が帰ったので、ユリサクヤと今後の事を話すことにした。
「ユリサクヤ」、「ユリと言って下さい」、『もう亭主の躾かよ。しかも俺の顔を見つめるのは止めてくれ。あれは反則だ』
「分かったユリ」、「はいアキノスケ様」、「ユリと言ったんだから、そっちはアキと言ってくれ」、「はい、アキ様」、「様を外してくれ」、「嫌です」、『素直じゃなかったんかい』
という事で、 ユリサクヤと今後の事を話せたかどうか良く分からない。
この後俺はガナシアや部下の兵士達の待っている独立遊撃師団の駐屯地へ、ユリサクヤはモズイ城に帰ることになった。途中まで一緒である。
ユリサクヤは都に来たときと同じ馬車に乗り、御者と御者の隣に座るのがリホホとリセスであるのも同じのようである。おれとマヤナカとリヨサは馬で馬車の後を付いて行く。
見ると御者台の上でリホホとリセスが楽しそうにおしゃべりをしている。『あれ、リホホとリセス、仲良くしすぎてないか?。リホホってロリコンかよ。でも、リホホとリセスは同じ年か。合法か』
リヨサに聞くと都にユリサクヤを連れて行く時も同じだったようである。『なるほど情報部の話をリセスが辞退した理由はこれで分かった。当然リヨサも何か有りだな』
俺はユリサクヤ達と途中で分かれた。但しリヨサは俺と一緒に独立遊撃師団の駐屯地へ、リセスはユリサクヤ、マヤナカ、リホホと一緒にモズイ城に行く。
駐屯地では盛大な解散式を行った。解散式にはバナイ湾で一緒に戦った大名や第2師団の将兵も駆けつけてくれた。リヨサは終始ガナシアの側で微笑んでいる。俺は当然その意味も分かっているので、ガナシアとリヨサの前に行き祝福の辞を述べた。
「ガナシア藩主殿、この度は御目出度う御座います」、「いやぁ、これもアキノスケ殿に付いて行ったおかげだよ」
「リヨサさん、色々有難う御座いました。変な事に引っ張り込んですみませんでした」、「いいえ、逆に楽しかったですよ」とリヨサが言うと、ガナシアも「そうだよ、アキノスケ殿と一緒にいると、何か楽しいことが起きると皆言ってるよ」
そしてこれから俺はモズイ城で結婚式を上げるのだが、その前に、宰相がその後どううなったかを言っておく必要があるだろう。
宰相一味はモグチツ領で見つかったのだ。モグチツが船でランシ国に逃げようとしたように、宰相一味もランシ国に逃げようとしたのだが、モグチツ領の海岸近辺を張っていたクグニタ達に見つかったのだ。
都に護送された宰相は、国王暗殺を否定していたが、一緒逃げて捕まった御典医の供述により、有罪となり、御典医共々処刑されることになった。宰相の仲間は、この国にまだまだ居るだろうが、ランシ国は既に無く、リクモ帝国も内戦の真っ只中のだから、彼らも何れ消えて行くだろう。




