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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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大太刀の作成

 そんな俺がふと興味を持ったのが大太刀である。大太刀は南北朝時代に馬上戦で隆盛を極め、恐らく戦国時代でも接近戦では一番強力な武器ではなかったのではないだろうか。倭寇に苦慮した明でも、特に倭寇が持つ大太刀に手を焼いた事が記録されている。槍で対抗しようとしても柄を切り折られてしまうからである。


 そこで疑問の持ったのが大太刀をどのように抜刀し鞘に納めたかとか、携帯する方法や大太刀はどのくらい長さかだったかである。佐々木小次郎は宮本武蔵と戦ったときに鞘を捨てたので、佐々木小次郎の刀は両手一杯に広げて抜ける長さと思われるので4尺(120cm)程で有ったろう。


 当然腰には差せないので、映画に出てくるように普段は背中に背負って、いざというときに紐を解いて両手を開いて抜いた筈である。勿論居合のような抜刀は出来ない。


 だが南北朝の武士は太刀を二本佩たり、太刀の他に刀を差したりしているので、馬上戦で使う大太刀も腰に佩(水平に吊るす)いていたと思われ、そのための抜刀術や納刀術(鞘に納める)も有った筈である。


 それを試すには大太刀が無くては話にならない。そこでまずは大太刀を作ろうと思った次第である。鍛冶屋なので。と言っても、本式の日本刀の大太刀を作るのは俺の手に余ると思われたので、玉鋼の代わりの材料として車のスプリングを適当な長さに圧延して、後はグラインダーで刀の形に整形して焼入れすれば良いと考え、トラックの板バネを買って来た。


 そのとき何処かから帰って来た親父にばったり合ったが、親父は工場の片隅に置かれたトラックのスプリングと俺の顔を見てニヤッと笑ってそのまま奥に行ってしまった。ひょっとしたら親父にとって昔し通った道なのかも知れないと思って、さあ仕事にとり掛かろうとしたら、今度は兄貴がやってきた。


 「何するんだ?」、「大太刀を作ろうと思うんだ」、「どうやって」と聞くから、作り方を説明して「ひょっとしたら手伝ってくれるの?」と聞いたら、「うん。警察の手伝いな」と兄貴は言った。


 「何?、警察って」、「通報するんだ」、「?」。


 「おい、お前、鍛冶屋の息子なのに、銃砲刀剣類所持等取締法を知らないのか?、伝統的な製作方法によって鍛錬したもの以外は取締の対象になるのを。まあ免許の無いお前がつくっても逮捕だな」、「・・・」


 兄貴は手伝ってくれないのかと思ったら、俺が買ってきた板バネを小さく切り始めた。


 「何するの?」、「日本刀には地肌があるだろう。のっぺりした肌だとバレちゃうだろう」


 「芯金はバネ材をそのまま使うとして、皮金は多少炭素を多めにして折り返し鍛錬をしてと」等と独り言を言いながら兄貴は作業を始め出した。


 日本刀の刃になるところは皮金と言い、固くする為に小割りにした炭素量が多い玉鋼を選別して塊にしなければならない。それには小割りした鉄を熱して溶着させるわけだが、日本刀は比較的低温の火床(炉)で作業するため溶着しずらい。しかし火床の温度が低温なのは燐などの不純物が溶け込むことを防ぐ利点もある。


 また玉鋼は表面が鉄滓スラグに覆われている為に、叩いて鉄滓を絞り出しながら溶着させなければならない。従って小割りした玉鋼を鉄塊にするには、何度も折り返して叩いて鉄滓を絞り出して溶着させるのである。


 でも鉄滓は不要なものであるが、鉄を加熱したとき表面を酸化するのを防ぐ意味もあるので、最後は除去するが、酸化した鉄は溶着できないので、鉄滓は玉鋼同士を溶着させるのに必要なものでもある。


 このように不完全ながら溶着した跡が日本刀の地肌(鍛え肌)と言われるものである。


 さて車のバネ材の鉄は近代溶鉱炉から生まれた鉄なので鉄滓は含まれていない。兄貴は、そこはホウ砂をまぶしたりして、ガス炉で鉄が溶けるぎりぎの1500度程の温度で鉄を熱し折り返し鍛錬を行った。


 兄貴はその出来上がった皮金と、バネ材そのままであった芯金を溶着して、素延べ(平たい棒状にする)にする工程まで行って「後は自分できるだろう」と言った。


 『いやー感謝』なんだけど、ここまで丁寧に作ってくれたので、いきなりグラインダーとはいかないので、鎬作り等の日本刀の形をこしらえる作業は、本来の鉄を熱してハンマーで叩いて行った。


 そして湾れ刃(波型の波紋)に丁子が交じる華やかな波紋になるように土置き(粘土のようなものを刀身に塗る)を行って焼入れをし、研いで波紋を確認した。刃渡り3尺2寸(1.06m)程の大太刀の出来上がりである。ついでにハバキ金も作って、そして兄貴に見せにいった。


 兄貴は「プロに見せたらバレるな。人に渡らないようにしろよ。拵えはどうするんだ?」と聞いてきたので「自分で作る」と言ったが目処はたっていない。


 そこに親父が来て、出来上がった刀を見て「ようやく刀鍛冶になる気なったか。でも国内は無理だな。海外だったら偽日本刀作りで食っていけるぞ」と言われてしまった。


挿絵(By みてみん)

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