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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
25/31

秘密書類奪取作戦

 そしてユリサクヤは都についた。次に向かう先は王宮である。執事のヤオノキが付いて行ってくれるがユリサクヤは宰相に会うことを怖がっていた。


 宰相は執務中で有ったが、ユリサクヤが都に来たので大喜びである。ユリサクヤが「王太后様だけにはご挨拶をさせて下さい」と言うと、有頂天の宰相は簡単に「私は執務中なので一緒に行けないが、この者に案内させよう」と言って、側に一人の女官を呼び寄せると小声で何事か指示すると、ヤオノキに対しては「ユリサクヤ君は王太后陛下にお会いしたら、私の馬車で屋敷に行ってもらうから大丈夫だ。君はもう帰って良いよ」と言った。


 ヤオノキが帰ってしまったので、ユリサクヤの心細さはこの上ないが、それでも自分が言い出したことだやるしかないと、自分に言い聞かせて案内役の女官の後に付いて行った。


 階段を上がり長い廊下を行くと一人の見張りらしき男性がおり、その前を通過して行くと一つの扉が有った。女官が扉をノックして「王太后陛下お客様です」と言うと、中から「どうぞ」の声がした。その声で女官が先に入り後からユリサクヤが入る。


 王太后はユリサクヤを見るや「まー、ユリサクヤちゃん。どうしたの」と駆け寄って来た。ユリサクヤは「王太后様・・・」と言っただけで後は声が出ない。王太后は涙ぐむユリサクヤの両手を持つと「いいのよ。ユリサクヤ、お母様は?」と聞いてきた。


 ユリサクヤは『そうか、王太后様は母の死知らないんだ。外のことは知らされていないんだ』と思いながら「母は亡くなりました」、「知らなかったわ。可哀想なユリサクヤ」


 後は色々会話が弾むが、女官は会話が聞こえない位置だと思われるが、見張りのように依然部屋の中にいる。 ユリサクヤは女官の様子を伺いながら小声で「リセス」と言うと王太后は直ぐ気が付いたのだろう、大きな声で今までの話と全然違う話の「モズイ城、あれはね・・」と言い出し、書棚の方に行き「ここに貴方のお母様と父様の関係した本が有る筈よ」と言ってユリサクヤを此処にくるように誘った。そして幾つかの本を手に取って見ながら、書類らしき物を指してユリサクヤに目配せをした。


 『そうかあれがあの書類か』、ユリサクヤも目配せで返したが、女官が依然こちらの方を見ているので、その書類を衣服の中に隠す機会がやってこない。王太后とユリサクヤがその場所でしばらく立ち話の形で話していると外で女性の大きな声がする。


 「だめよー!そっち行っちゃぁ」と次は男性の「こらー!」の大声。それを見に女官が部屋の外に出た瞬間、ユリサクヤは素早く書類をつかむと衣服の下のポケットに入れた。


 王太后とユリサクヤは何事も無かったような顔して元の椅子に座って、あらぬ話の続きをしていたところ女官が戻って来た。


 王太后が「何事ですか?」、「小さな女の子がこちらに来ようとしているのを母親が止めようとしたようです。どうもその子は以前も此処に来たようで、頭が少しおかしいのか聞き分けが無い子のようです」


 勿論これはリヨサとリセスの綿密な計算による狂言である。リセスは王太后の部屋に通じる廊下を物陰から監視しており、ユリサクヤがそこを通ったことを確認して、頃合いを見つけて騒ぎだしたのだ。女官が部屋から出て来たので、リセスはおとなしく捕まったが、女官が出て来なかったらリセスは更に逃げ回り、場合によってはリセスの身は危険だったかも知れなかったのだ。


 そんな事を知らいないユリサクヤでも、この騒ぎは『リセスと母親役のリヨサに違いない』と想像することは出来た。『後はこれを王宮の外にどう持ち出すかだ』


 ユリサクヤが王太后の下を去り、又長い廊下を歩き階段を下り、女官の後を付いていくと王宮の玄関に出た。玄関の外には一台の馬車が待っていた。女官がそれに乗るようにと言ったので、これは宰相の馬車なのだろうと思い、ユリサクヤは おとなしく従ってその馬車に乗った。


 馬車は護衛の兵士一人をつけて宰相の屋敷に向けて走り出した。ユリサクヤはグニタ達が自分を見つけやすいように外から自分が見えるように乗っていた。


 しばらくすると馬に乗った数人の壮漢がすれ違ったと思うと護衛の兵士を棍棒で殴り倒した。更に、一人の男が馬車に飛び乗り御者の横に座り、御者に何か話掛けている。そして馬車はあらぬ方向に走り出している。


 勿論彼らはクグニタの仲間達である。クグニタの仲間の何人かは棍棒で殴られた兵士を介抱するような真似をしながら群衆の中に紛れ込み、馬車に飛び乗った男は御者に短刀を突きつけて、馬車を人気の無い森の中へ誘導する。御者は此処で縛られ目隠しをされ放置。森の中では馬に乗ったクグニタとその仲間がユリサクヤを待っていた。


 ユリサクヤは此処で衣服の中から書類を取り出してクグニタに渡す。ユリサクヤは、これで私の任務が終わったと思うと、今まででの緊張から解き放されて崩れるようになったが、クグニタはユリサクヤを支えて「ユリサクヤさん未だですよ」と耳元で囁いた。


 そこに1台の荷馬車がやってくる。コビエク商店の荷馬車である。御者はマヤナカである。モズイ城で作られた武器を満載した荷馬車であるが、人一人隠れる場所が有った。ユリサクヤはそこに潜り込むと荷馬車は一目散にコビエク商店に。クグニタは書類を持って近衛師団長がいる近衛師団の駐屯地へ向かう。


 これらに掛かった時間はあっと言うまである。そして数時間後、宰相の屋敷に一通の手紙が届いた。手紙には『お前の娘を預かった。死なせたくなければ身代金、金1000貫を都の北の森に持って来い。金の置き場所は森に行けば分かる。検非違使に知らせたり、俺達を嵌めようとしたら、躊躇なく娘を殺す』と書いてある。


 勿論それはクグニタ達が出した手紙で、金の指定場所もあらぬ方向の場所であり、クグニタもその仲間達は既に都を後にしていた。


 宰相は指定の場所に金を置いたのに誰も金を受け取らず、ユリサクヤも行方知れずなので、ユリサクヤは感づかれたと思った誘拐犯に殺されたのだろうと推測した。


 一方リヨサは子供の躾と監督不行届で叱られて掃除婦を解雇されて、これ幸いとリセスと一緒に秋乃介の下に向かっている。


 ユリサクヤが乗った荷馬車がコビエク商店に着くと、ユリサクヤは髪を短く切られ、髪は黒く染められ、衣服を少年の物に着替えさせられた。そしてマヤナカが御者する荷馬車にマヤナカの隣に座らされると、武器を満載した荷馬車は出発した。行き先は秋乃介が率いる独立遊撃師団の駐屯地である。何時もなら護衛がつくところだが今回はつかない。今回はクグニタの配下の者が数人、こっそり護衛しているからだ。


 こうしてユリサクヤが持ち出した秘密書類はクグニタによりギニニ近衛師団長に渡った。


 リホデ師団長は秘密書類を前にどうすれば良いか考えている。


 『宰相がリクモ帝国のスパイであることは確定的だ。でもそれをこの書類を証拠に言えば生き証人である王太后は殺される事は間違いない。そして俺のことをこの書類を偽造して国王の座を狙う謀反人と喧伝するだろう。あの俺に関する悪い噂はそれを見越しての布石だったのだ。


 そこで俺が事を起こせば宰相が撒いた噂を信じる者と、信じない者で国は分裂して内乱になってしまうだろう。リクモ帝国の再度の侵攻の可能性がある今、この国で内乱が起きるのまずい。


 だとしても看過出来ない。このまま見過ごせば宰相の思う壺、リクモ帝国がじわじわと内部侵略するか、宰相と示し合わせたリクモ帝国が、隙きを突いて一気に侵略をするかは宰相の気持ち次第。』


 長い熟慮の結果『やはりクーデターを起こすしかない。そして宰相を切る。それには国王の身柄確保が絶対条件だ。王太后は殺されるかも知れないが止む得ない。俺のことでこの国に内乱が起きるなら、俺が死ねば内乱は収まる。問題は何時クーデターを起こすかだ』と結論付けて、機会を待つことにした。


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