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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
24/31

眼差しの少女の城

 秋乃介は演習が一段落したので、ギニニ近衛師団長に言われた通りにモズイ城に行く。行くのは秋乃介一人だ。モズイ城は広い。城主の館は、マヤナカやリホホが働いている武器工房とはかなり離れているようだ。守衛に案内してもらい、館の使用人に独立遊撃師団の師団長が挨拶に来たので取り次いで頂きたいと伝えると、使用人は奥に行って戻ってくると城主の部屋まで案内してくれた。


 部屋に入ると一人の若い女性が居た。「あっ!」、「あっ!」、俺と女性が同時に叫んだ。部屋に居たのはあの異世界の眼差しの少女だった。しばらくお互いの見つめていたが少女の方が先に口を開いた。


 「アキノスケ様、お久しぶりです。モズイ城城主のユリサクヤと申します」と言い深々と頭を下げた。少女が頭を上げたとき何故か少女の目が潤んでいた。


 俺は胸の高鳴りを押さえながら言った。「独立遊撃師団師団長のアキノスケです。この近くに赴任していましたので挨拶に来ました。いつぞやは、絵を返して頂きましたのに、お礼の機会がありませんでしたが、今日改めてお礼を申し上げます。・・・つかぬことを申し上げますが、あの絵はどのような経緯でユリサクヤ様の下に渡ったのでしょうか?」


 「あの絵はギニニ師団長様が持ってこられまして、もしアキノスケ様が帰らぬ人になった時は私の一存に任せるとおっしゃられたので、受取ました」、「そうでしたか」


 「アキノスケ様、一つおたずねして宜しいでしょうか?」、「はい、なんなりと」、「あの2枚の絵に描かれている女性のことです。一枚の女性は髪形から私だと思いますが、もう一枚はどなたなのでしょうか。もしあれが私なら、何故髪型が違うのでしょうか?」


 『うーん。オノサスは異世界や前の世界を話をしてはならないと言っていたが・・でも話そう』

 

 「ユリサクヤ様、これから話すことを多分 ユリサクヤ様は信じないと思いますが、実は私はこの世界の者ではありません。一枚の女性は確かにユリサクヤ様ですが、もう一枚の少女は私が元いた世界の女性の絵です。その女性は名前も知らず話したことも無い女性ですが、忘れがたく思っていたところに、この世界に来て初めて貴女の姿をお見かけしたときに驚きました。髪型や髪の色こそ違えど、瓜二つだったのです。そこで貴女の顔を盗み見しながらこの絵を描きました。申し訳ありませんでした」


 「いいえ。私は アキノスケ様の話を信じます。初めてお見かけしたときからアキノスケ様はこの世界の人では無いように感じておりました。そして初めてお見かけしたのに、何か懐かしいような気がしたのです。・・・アキノスケ様は前の世界の方を思っていらっしゃるのでしょう。もし前の世界にお戻りならその方をお探しになるのでしょう。でも前の世界に戻れなければ如何なさるのでしょうか?」


 「・・・うーん、確かに。まず前の世界に戻るあては有りません。また前の世界に戻ったしてもあの女性に会える手立てもありません。そして戻ることが出来なければですか・・」と此処までいって顔を上げると、潤んだ目でじっと見つめるユリサクヤの顔があった。『秋乃介。勇気を出せ』


  秋乃介が何か言おうとしたとき、ユリサクヤはもっと悲しい顔をして「アキノスケ様、私は近日中に都に行くことになっております」


 「また王宮に?。また王太后陛下にお使えに?」、「いいえ。宰相様に呼ばれて、宰相様のお屋敷で働くことになっています」


 「駄目だ!」 俺はユリサクヤが驚くような大声で叫んだ。


 「でも宰相様は命令だと言っております。母の介護をしていたときは、それを理由に断ることができましたけど、この前も御使者が来られまして、もう断ることが出来ませんでした」


 『絶対に駄目だろう。あの宰相以前からユリサクヤに目をつけていたんだ。目の前にいたら叩き切ってやる』と思ったが、何か策を考えまければならない。そしてふと何故か「結婚」と言う言葉が出てしまった。


 「結婚・・。ユリサクヤ殿に結婚の予定があるのでと言えば断れるのでは・・」、「どなたと」、「・・私とでも」と言うと、ユリサクヤの顔がぱーっと明るくなった。憂いに満ちたユリサクヤの顔も美しいが、明るいユリサクヤの顔は光輝くようだ。


 「アキノスケ様と結婚ですね〜」と言うとユリサクヤはクローゼットの所に走って行って、中から純白に輝く衣装を持ってきた、そして微笑みながら「これは婚礼衣装です。母を看病しているときに自分で縫いましたの」とそれを体に当てた。


 そこに部屋に一人の女性が入ってきた。メイドのようである。メイドは「お嬢様、お客・・」まで言うとユリサクヤを驚くように見て「まあ、お嬢様。こんなに嬉しそうにしているお嬢様を見るのは久しぶりです」


 「メビキア。私、アキノスケ様と結婚することになったのよ」とユリサクヤが言うと、メイドは俺とユリサクヤを交互に見て「まあ、お似合いで。アキノスケ様、はじめまして。メイドのメビキア です。・・あの英雄のアキノスケ様がこんなに可愛らしい人とは思いませんでした」と嬉しそうに言い、そして改めて「アキノスケ様にお客様です。ここにお通して宜しいでしょうか」、「私は構いません。アキノスケ様は?」とユリサクヤ。「構いません」と秋乃介。


 そこに入ってきたのは少年と男。「クグニタか、そこの少年は?リセス?、リセスではないか」男はリヨサと共に都に行った忍びの頭。少年は変装したリヨサの妹リセス であった。


 クグニタとリセスが独立遊撃師団に行ったところ、モズイ城に行ってると言われたので急いで追いかけてきたのだそうだ。


 「リヨサは無事か?。王太后の消息は掴めたか?」と俺がクグニタに聞くと、クグニタはユリサクヤの方をちらっと見る。


 「大丈夫、彼女はモズイ城の主ユリサクヤ殿だ。彼女は王太后の侍女を努めていたのだ」と言うと「ユリサクヤと申します。近々アキノスケ様の妻となる身です。・・アキノスケ様、妻に殿は無いでしょう」とユリサクヤに怒られてしまった。『でも嬉しい』


 そこでクグニタとリセスは話出した。

『王太后は生きているが幽閉状態である。幽閉状態の王太后の接触に成功した。王太后が幽閉状態になったのは、国王の浮気相手の王太后の元侍女が国王が死んだ後自害し、その死を王太后が嘆き悲しんでいる所を宰相に見られてからのようだ。

 リセスは掃除婦リヨサの子供として掃除の手伝いをしながら、時々遊んでいる振りをして、王宮のあちらこちらを散策することが出来た。

 王太后は王宮の最上階の東側の奥の部屋にいた。部屋に通じる廊下には見張りがいて誰も近付けな いようにしているが、リセスは見張りの目を盗んで王太后の部屋に入り込むことが出来た。

 そこでリセスは、自分は子供の成をしているが主アキノスケの命で王太后様の安否を探る密偵であり、アキノスケは王太后様のことをたいそう心配していると言うと、王太后は信用され「前国王から重要書類をあずかっている。これをしかるべき人、近衛師団長などに渡すことは出来ないだろうか」と言われた。

 その書類は、モグチツ領内の湾で行われた敵侵入防止杭の設置工事完了確認が宰相であったことが記されている書類だった。リセスはざっと目を通して持って行こうとしたが、見張りがリセスのことを見つけて走ってきたので、書類を持ち出すことはできなかった。

 幸い、王太后様がその書類をすぐ隠してリセスにお菓子などをやり、リセスも馬鹿なわんぱくな子供を演じたので、見張りに疑われることは無かったが、リヨサ共々叱られたので次に王太后様のところに行くのはかなり困難である』と


 この書類の話を聞いた俺は、自分の推測が間違いない事を再確認した。つまり宰相はスパイである。その宰相が決めたリクモ帝国との和解は、ヤマテニア国をリクモ帝国の支配下におくことであるが目的であることは確実であろう。宰相は我々を騙したのである。


 従って、仮に今回のリクモ帝国の駐留が条約通りの平和的な千人だったとしても、次に起きるのはリクモ人やランシ人の移民である。実質内部侵略である。じわじわと何れヤマテニア国はリクモ人やランシ人の国になるだろう。むしろこちらの方が戦争が起きるより恐ろしい。


 俺はリクモ帝国軍による駐留をぶち壊すつもりだが、これが戦によって成功しても、リクモ帝国軍が自ら駐留を止めたとしても、依然宰相はヤマテニア国内で工作を行うだろう。これを止めるには宰相がスパイであることを証明するこの書類を、一日でも早く多くの人の目に晒すことが必要なのだ。


 ではどのようにして書類を外に持ち出すかかである。


 書類を持ち出すときに、その書類が宰相の目に止まるような事態になれば勿論、王太后が誰かと接触しているのが見つかることでも、王太后は殺される可能性が高いだろう。王太后が幽閉されていること自体、既に宰相が王太后を疑っている証拠なのだ。


 俺は皆に、自分が持っている懸念材料を言ってから「さあどうしよう。リセスはもう使えないし。俺が行って宰相を叩き切ってしまえばてっとり早いけど、宰相が見つからなかったりしたら処刑されて終わりだな。下手をすれば王太后も危ないな」などつぶやいていると、ユリサクヤが「私が行きます」と言い出した。


 「えっ?」、「私が宰相様のお屋敷で働くことを承諾して、その前に王太后様に挨拶をさせて下さいと言えば、宰相様は反対なされないでしょう」、「うん、会えることだけは出来そうだな。書類も服の何処かに隠せそうだな、でも書類を持ち出せてもユリサクヤ殿の身柄をどうなるかが問題だな」と俺が言ったら、黙って聞いていたクグニタが「書類を王宮の外まで持ち出すことが出来れば、後は俺と俺の仲間がユリサクヤ様を誘拐して、書類を好きな処に持って行くことが可能です」と言った。


 「駄目だ。危険すぎる」、「アキノスケ様、私は行きます。王太后様にはお世話になっておりますので」、『・・駄目だユリサクヤ』、「・・・・・・うん、分かった。ユリサクヤ殿、でも決して無理をしないように」、「アキノスケ様、妻となる女に殿は不要です」、『また怒られた。でも嬉しい』


 という事で、ユリサクヤは都に行くことになった。ユリサクヤは執事と共に馬車で行き、変装したリセスとクグニタはリヨサの下に馬で帰ることにした。


 ユリサクヤは都に行く前にリセスから王太后が持っている書類の大きさを聞くと、早速衣服の下に書類を入れるポケットを縫い込んだ。裁縫な得意なユリサクヤならではのことである。


 俺の方はマヤナカの工房に挨拶がてらに、この件ついてマヤナカも手伝ってくれるようにクグニタと一緒に頼みに行った。


 マヤナカの役割は、ユリサクヤを一時的に匿う場所の確保である。マヤナカはユリサクヤを匿う場所はコビエクの店にするのが良い、ユリサクヤを都から連れ出すのもコビエクの店の馬車にした方が良いと言ってくれた。コビエクの店の馬車は武器を運搬する関係上、常に腕の立つ護衛が付いて行くので安全だろうとのことだった。そしてマヤナカもコビエクと交渉する為に都に行くことになった。


 俺は、これを『秘密書類奪取作戦』と名付けた。


『でもやはり心配はユリサクヤのことだ。俺がこの国の為に命を賭けようとしているのはユリサクヤの為なのに、ユリサクヤは国のために命を賭けようとしてるのだ』

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