地方大名と作戦会議
そして任地にやってきた。ここででやるべきことは1にも2にも兵隊の訓練であるが、ただ闇雲に訓練しても意味が無い。何を想定した訓練なのかと考えれば、何が起きる事を想定する方が重要である。そう考え訓練の合間にガナシアや信頼している数人の参謀達と、リクモ帝国軍が駐留する筈の地に視察旅行に行った。
リクモ帝国の駐留軍の船が入って来るバナイ湾は小さな湾で、前の戦で上陸されたモグチツ藩領の何百隻の船が侵入出来るような地形では無く、上陸しようとしても船が乗り上げられるような箇所は数隻程度しか並べられない程なので、大規模な上陸作戦は出来ないと思われる。
そして両側は山で、両岸から矢を射れば中央の船にも十分届く距離なので、敵としては上陸作戦はしづらいことも分かった。若し敵がこの地で上陸作戦を行うとしたら、まず両岸を抑えるだろう。それに対処するには、予め山を押さえて置く必要がある。
そのような事を宿泊先で参謀達と話していたら、この近くを治める2人の大名が訪問してきた。表敬訪問だと言うが、リクモ帝国軍との和睦に不満であること言いに来たようだ。
中央ではあまり知られていないが、彼らが治めるところでは、前のリクモ帝国との戦も、その前のランシ国の海賊との戦も小規模ながら上陸されたが、その都度撃退したそうである。幸い味方の兵の損害は殆ど無かったが、かなりの領民が虐殺されており、領民のランシ国やリクモ帝国への怨念はかなりのものだと言う。
それでリクモ帝国との和睦やリクモ帝国軍の駐留などとんでもないと言うことらしい。彼らは人払いをすると一人の大名が話し始めた。
「アキノスケ師団長殿は、この度の和睦条約とリクモ帝国の駐留をどうお考えなさる?。これはリクモ帝国の植民地。実質土地の割譲。
例えそれが平和的駐留だったとしても、あの野蛮で残虐なリクモ人やランシ人が多数住み着くことになるのは必至。
人間を奴隷にする国ですぞ。そうなればその風習に我が国民にも慣れ親しみ、何れ我が国も奴隷を扱うのが普通になり、次には民同士互いに疑心暗鬼になり、この国の和の精神は無くなり、強いては我が国の衰退を招くことになり申す。それで良いのでござるか。」
もう一人の大名は「我らがアキノスケ殿の下に参ったのは、我らはこの条約を壊したく、アキノスケ殿にその相談に来たのでござる」
「まず私は独立遊撃師団の師団長、国の軍人です。此処でおニ方国のおしゃってる事は国の命令に反することですが、そのようなことを国の軍人に口走って宜しいのですか」、「いいや、これはアキノスケ殿だから相談しているのです」、「命を掛けてこの国を救ってくれたアキノスケ殿だから打ち明けたのです」
「私も打ち明けましょう。実は私もこのリクモ帝国による駐留をぶち壊そうとしています」、「ほうっ!」、「リクモ帝国駐留軍は千人。私の独立遊撃師団は5千人。彼らを武装解除することは可能だと思います。また仮に彼らが抵抗して血を見るような事が起きたとしても、目的はリクモ帝国との和睦条約を潰すこと。何が有っても実行します」、「流石」
こうして密談が始まった。
そこで一人の大名が聞いてきた「あのリクモ帝国のこと、条約を守るとは限りますまい。仮に万人に上陸されたら如何いたすのか」、「確かに万人を超えたら私の師団だけでは勝算は有りません。なので万人を超えたら条約違反なので、私の師団だけで食い止めて味方の応援を待つことしか出来ません」
さらに密談は続く。そこで今日視察したリクモ帝国駐留軍が上陸する湾の形状の話をする。
「駐留軍に侵略する意図が有ったら、敵はまず湾の両岸を押さえます。ここを押さえて置かないと、後から上陸する兵が弓で挟撃されるからです」、「でも朝廷から当日は軍を見せてはならないとお達しが来ていると思いますが、それでも兵を配置して置くおつもりか」
「いいえ、あらかじめ兵を出しておくと、帝国軍は上陸しないかも知れません。そうなると駐留は延期されるだけで、私が条約を妨害した極悪人として国から討伐されることになります。そこで前もって両岸の山の上に、こっそりと兵を配置しておきます。両岸に陣取った敵兵を排除する為です。そして戦端が開かれたら、まず山の上から両岸の敵兵を狙撃して、その敵兵が排除されたら、今度は味方の弓兵が両岸に陣取り、上陸しようとする敵兵を狙撃します。こうやって上陸する敵兵が少しづつなら、味方が少数でも各個撃破できるでしょう
大名の一人が「なるほど。でもそうなるとアキノスケ殿の兵力は2分され上陸する敵に対処出来ない恐れがでますな」と言うと、もう一人の大名が「なら我らがその役目をお引き受けいたそう。で、戦端を開く役割は我らで良いのですな」と言う。
「いいえ、リクモ帝国が上陸を取りやめる可能性も有ります。その理由が両大名方々が先に戦端を開いた為となると、後で朝廷の命令に背きリクモ帝国との和睦を壊したと言われ、大名方々のお家が取り潰しになるでしょう。なので戦端を開く役割は、この独立遊撃師団におまかせ下さい。両大名方々は、独立遊撃師団が動くまで待って頂きたい」
「それについてはアキノスケ殿のお立場も同じでは?」、「私は元々異邦人。朝廷から討ってが来たら、逃げるか、捕まるか、はたまた野武士になるか」、「いやいや、そのときは是非我が藩に」、「いや我が藩に」
「問題はアキノスケ殿の師団が此処に到着する時間ですな。敵の上陸が順調で、アキノスケ殿の師団の到着が遅くなると、敵の数が多くなり我が軍が不利なりますな」と大名の一人が言うと
独立遊撃師団の参謀が「あそこの狭い湾での上陸作戦は、まず船を乗り上げて兵員を降ろして、船のバラストを捨てるなどで船を軽くしてから船を沖に戻して、次の船が入ってくる手順を踏むので、結構時間が掛かると踏んでますが」、皆が「うーん」と言う。『確かにここがネックだよな』
問題点は有るがそこは戦、その時々で臨機応変に対処するしかない。後はその時の連絡方法などを決めて密談は終わった。
それにしても今日会った2人の大名は、この度の和睦条約を決めた王宮の役人より責任感もあるし判断力も有る。これも領民を抱えて藩を運営しなければならない者と、朝廷の登用試験だけで後は現場を見ないで済む者の差なのだろう。




