師団長に昇進
近衛師団に戻った秋乃介にギニニ師団長が「君を師団長にしようとの話が持ち上がってるんだ」、「えー、早すぎるでしょう」
「師団長と言っても、正規の師団じゃない。あのガナシアの部隊が有ったろう。君がよく知っているこの前活躍した部隊だ。師団会議であれを臨時の師団にしようと言う話が持ち上がっているんだ。ガナシアからも前から君を指揮官にして欲しいと言ってきてるので、ちょうどいい機会だろう」、「そうですか」
「善は急げだ。ガナシアの所に行ってこい。名目は近衛師団による他部隊の指導だ。君の部下の独立支隊を全員連れて行け」と言うことで俺はガナシア軍の元に行った。勿論大歓迎だった。
そして俺の配下の軽騎兵独立支隊と共にガナシア軍の訓練に明け暮れているときに、戦勝祝を兼ねて俺は他の師団長や幕僚やガナシアなどと一緒に王宮に呼ばれて、新国王に謁見した。
秋乃介はあの少女を探したがいなかった。否、戦勝祝なのに王太后もいなかった。
新国王は前国王の孫で10歳である。新国王の父親も母親も若くして亡くなったので前国王や王太后を親代わりにして育ったのである。
新国王の前には俺が切った敵将の兜が置いてある。新国王の代わりに宰相が「アキノスケ、この度その方の働き、まことにあっぱれであった。ヤマテニア国が此処にあるのは、その方の働きにあると言って言い過ぎではないであろう」
「過分なお褒めの言葉を頂き恐縮至極で御座います。ただこの手柄は私一人によるものでは有りません。私が間道を通って敵将を討ち取ろうとする策は、近衛師団長閣下と示し合わせた物。そして我が軍の攻撃にも関わらず、敵後陣の重騎兵が陣を崩さず、また私の馬廻りの者達が敵将の近習を引きつけなければ、成功できなかったものです。また私が敵将に近付くのが一歩遅れれば敵将を逃し、一歩早ければ私は討ち取られていると思えば、これはなにより天のご加護があったから故にと存じます」
この言い慣れない言葉は練習したから言えるのだが、新国王は目を輝かせて聞いてくれた。その後は俺が敵将を切ったときの話や、他の師団や、他に手柄を立てた者の話などが延々と続き、その後は宴となった。
翌日は新国王の戴冠式と凱旋パレードが続く筈である。
宴の後、俺は宰相に呼ばれた。宰相が俺を呼んだ理由は俺を師団長にする話を内々に伝えておくためだそうだ。しかし此処で宰相は意外な事を言った。王宮内に近衛師団長に関する悪いうわさが飛び回っていると言うのだ。それは近衛師団長が国王の座を狙っていると言う噂だ。その噂は国王の死に関係してるかもしれないようだ。
そして「これはあくまで噂であって事実では無いだろう。でもアキノスケ殿も気を付けるに越した事はない。もっともアキノスケ殿は師団長になって栄転してしまうのだから関係が無いがね。但しこの話は内密にね。近衛師団長が聞いたら気を悪くするからね」と言ったので、俺は「近衛師団長の頭は戦場で如何に戦うしか無いと思います。その近衛師団長に限ってそのような事無いと思います。悪い噂です」とだけ言って宰相の下を去った。
翌日は戴冠式と凱旋パレードそして俺の師団長昇進授与式などが行われ、また大枚の報奨金も受け取った。俺の正式の位は独立遊撃師団師団長である。
俺は師団長昇進後、ギニニ師団長に挨拶に行った。近衛師団の者の最後の報告として、宰相が俺にギニニ師団長の悪い噂が王宮内にあると言い、最後にこれは秘密だと言っていた事を、ギニニ師団長に伝えたのは勿論である。それを聞いたギニニ師団長は「ふん」とだけ言った。俺もにやっと笑った。
独立遊撃師団は元はガナシアが率いる浪人部隊である。彼らの軍としての組織は前国王の秘密予算で維持されていたが、前国王が亡くなったことで秘密予算も無くなったので、正式な師団になったことで組織が維持出来ることになった。
これについてもガナシア達の戦功もあるが、ギニニ師団長の影での働きかけも有ったようだ。ギニニ師団長は俺が独立遊撃師団に移るに当たり、俺の50騎の部下を独立遊撃師団に連れていって良いと言う。但しそれは本人の確認があればとのことだが。そこで本人の意思を確認したところ、全員が独立遊撃師団に移ることを希望した。
俺の新しい任地は、俺が9人切りを演じたときに敵が上陸したバナイ湾と、モズイ城と第2師団が守っている地域の中間地点といったところのようだ。
ギニニ師団長は、俺が新しい任地に行ったら、必ずモズイ城に行って城主に挨拶するようにと言った。確かに、あの城は今ヤマテニア国の武器製造の拠点となっているので、あそこを占拠されたら作戦に支障が出るのは間違いないので、重要地点だと言えるだろう。
あの城の工房にはマヤナカやリホホが働いているし、彼らにも暫く合っていないのでついでに挨拶もしておこう。
ガナシア軍が師団になったので、この独立遊撃師団にも十字弓や大太刀なども支給されるようになった。しかし独立遊撃師団は師団と言っても、近衛師団や第1〜4師団のような正規の師団と比べて装備などが劣る。
例えば正規な師団の重騎兵は隙間の無い鎧を着込み、馬にも馬鎧を着せているが、この独立遊撃師団の騎兵の防備は正規な師団の軽騎兵程度の鎧を着ているだけである。軽騎兵程度の鎧がどのような物かは、日本の戦国時代の具足鎧を想像すれば分かりやすいだろう。
そこで俺は重騎兵・軽騎兵の区分を止めて、槍騎兵や弓騎兵を混在にして数で分ける事にした。例えば、ある騎兵小隊は、槍騎兵が何騎、弓騎兵が何騎、その他が何騎とかである。こうすることでお互いの弱点を補いつつ戦えると思ったからである。
但し長槍部隊は今まで通り長槍を持つ兵だけで構成されている。
そうして常に接近戦を挑んで混戦状態にすれば、装備の不足を補える戦いが出来る筈である。そのために俺は、兵達に大太刀や刀を使う剣術の手ほどきをした。接近戦なので騎馬部隊でも徒の戦いも有りなのである。
このように俺の体は、昼は独立遊撃師団の整備や兵達の訓練、そして任地に移る等準備で忙しいが、夜一人になると今ままで俺の回りで起きたこと、この国で起きてる不可思議なことを断片的に考えることがある。
まず、モグチツ藩のお家騒動。国王の死。戦争目前での国王の葬儀。モグチツ藩の敵船侵入防止杭工事のサボタージュ。そして王太后の姿が見えなくなったこと。王宮内の近衛師団長に対する悪い噂。
これらは一つ一つを見れば説明が出来るだろう。例えばモグチツ藩お家騒動については邪な人間による乗っ取り劇。国王の死につては国王は老人であった。 戦争目前の国王の葬儀については宰相が戦について無知だったこと。敵侵入防止杭工事については狡いモグチツの手抜き工事。王太后の姿が見えなくなったのは彼女の年齢の為。近衛師団長の噂も只の噂。と全て説明が付くものばっかりだ。
しかしこれらの事を点として、その点を線として繋げると、ある意図が見えて来るのだ。