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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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鍛冶屋の息子

 俺の名前は秋乃介、刀鍛冶の息子である。刀鍛冶と言っても親父の本業は鍛冶屋で刀鍛冶は道楽でやっているようなものなので、鍛冶屋の息子と言った方が良いかもしれない。


 親父は、有名な刀鍛冶の下で修行した正規の刀鍛冶なのだが、世間では異端の刀鍛冶と言われているようである。異端の刀鍛冶と言われる理由は、日本刀の謳い文句である折れず曲がらずよく切れる刀を作るために、日本刀本来の作り方に拘らず色々実験しているので、いらぬ憶測をする者がいるからである。


 と言っても居合する人などからは父の刀は評判が良い。もちろん良く切れるからであるが、刀身を見て隠れた名工と言う人もいる。


 親父曰く「日本刀は一にもニにも良い鉄で決まる」である。良い鉄とは燐や硫黄分が少なく純粋な炭素鋼の事である。特に燐が混じった鉄は脆くなる事が知られている。


 日本刀の完成は、国内で良い砂鉄が見つかったからである。それ以前は、呉の国の刀は優秀で、倭鍛冶や韓鍛冶が挑戦しても匹敵するような刀は出来なかった等と言われていたが何の事は無い、鉄が悪かったのである。見つかった良い鉄とは、例えば伯耆の国の砂鉄は燐や硫黄が非常に少ないのである。


 日本刀の材料は玉鋼が知られているが、玉鋼にも良し悪しが有り、親父のところには良い玉鋼が回ってこない。それで近代製鉄で生まれた鉄等を材料を使ったりと色々実験し、最後にたどりついたのが、色々な地方を歩き回って砂鉄を採取し、そこから出来るだけ純粋の炭素鋼を作ることで有った。そのため設備は祖父の代からの工場に有ったのを利用し、その他の設備は新たに設けたりした。


 砂鉄は更に粉砕し磁石で吸い上げて、その出来るだけ混ざりけのない砂鉄を、ガスバーナ炉内に置いたルツボの中で溶かして鋼にする。日本刀に最適な鋼の炭素量はこのガスバーナ炉で自由自在と言う訳である。


 これらの設備や本来の鍛冶屋の設備のためで、日本刀の作刀するところは工場のほんの一部である。その他の場所は金属加工をするための色々な機械が所狭しと置いてあったりする。実際親父は刀を作っている時よりそれらの機械を使っている時間の方が多い。この辺なところが親父が異端の鍛冶屋と言われる所以かも知れない。


 そんな親父でも、普段電動ハンマーで作刀しているのに、時にはオーソドックな日本刀の作り方で俺と兄貴を相槌を打たせて作刀したりするときも有った。それは俺と兄貴を刀鍛冶にしたかったのだろう。


 事実、今俺が持っている合口拵えの腰刀は、親父指導の元に俺が作刀したものである。刃渡り一尺弱にも変わらず刀や太刀と同じ鎬造りとしたのも、親父が俺に技術を伝承したかったのかもしれない。


 兄貴も同様に高校生のときに作刀してる。そして兄貴は親父の見込み通り刀鍛冶になった。しかも大学院でまで行って金属工学んでの刀鍛冶である。但し兄貴と親父と違うところがある。それは兄貴は愚直に古来からの日本刀の作り方から逸脱しないようにしているところである。


 この親父と兄貴は作刀について激論を交わす時が有る。傍から見ると喧嘩しているのではないかと思われるだろうが、数日経つと親父が「お前の言っていることが正しかった」とか、兄貴の方が「父さんの方が正しかった」と言ったりすることもある。二人共実際に実験して確かめているのだ。二人が激論するので、俺の刀に関する耳学問も豊富である。


 そんな環境にも変わらず俺はそれ程刀鍛冶の世界に興味は無い。俺の興味は古武道である。合気道、居合から始まり、剣術、抜刀術、そして今や流鏑馬や笠懸にも手を出しているのだ。


 流鏑馬や笠懸は騎馬武者の会というところに入会して行っているがそれなりに金が掛かる。古武道も同様だが、これらに関する限り親父は気前良く月謝を払ってくれる。


 今俺が居合で使っている刀も親父が打ったのを貰ったものであるが、それを兄貴に見せたら刀身をじっと見て「大事にしろよ」言った。かなりの出来栄えの刀のようである。親父の刀としては華やかな互の目丁字の刃紋、拵えも小柄・笄も付属しており、金具にも金を使うなど豪華である。


 「兄貴は貰ってないの?」と聞くと、「お前は自分で作れと言ってるのだろう。でも未だこれを超える刀は出来ない」と言っていた。そんな刀を親父は俺が武道をするためにくれたのだ。


 居合は親父も兄貴もやっている。試し切りをする為と正しい刀の使い方を学ぶ為である。しかし俺が合気道、居合をやり始めたのは訳がある。俺は小さい時虚弱でスポーツはからっきし駄目だった。友達からは馬鹿にされるし、母親の友達からは「秋乃介ちゃんは可愛いね。女の子みたいで」と言われるのが何よりも嫌だった。


 それを救ったのが合気道と居合だった。受け身を学んだことで転ぶことが怖く無くなった。素振りは毎日千回。腕の筋肉も付いたおかげで今ではバク転も出来るようになった。そうなると合気道と居合だけでは満足出来なくなって、あちらこちらに古武道を学びに行くことなった次第である。


 剣道もやらないではないが、古武道をやってから剣道も強くなり、剣道部の部長から「お前が出れば県大会で優勝出来るかもしれなので出ろ」と言われたが、古武道をする時間が割かれるので断っている。

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