国王の死と帝国軍の上陸
そんな中、ヤマテニア国の水軍から一報が入った。リクモ帝国の元ランシ国領の海で続々船を進水しているとのこと。いよいよリクモ帝国の侵攻がまじかに迫ったところだ。
前の侵攻作戦はリクモ帝国の敗北に終わったので、リクモ帝国がそれに懲りずに再侵攻しようとしているのをみると、今度のリクモ帝国の兵力は前回を上回るものと考えられる。それに対するヤマテニア国の陸の兵力は、国軍が2万5千、大名やガナシアの軍が2万5千の総勢5万人程度である。
敵は何処から上陸してくるか分からないので、ヤマテニア国軍は上陸予測地点にあらかじめ分散配置して、何処かに敵が上陸を始めると、他の地点に張り付いていた部隊は敵が上陸した地点に大急ぎで駆けつける手筈になっている。
だが大急ぎで駆けつけるとは言え、そこは山あり川ありの地形を、しかも騎兵だけならともかく徒歩の兵も一緒なのだからすぐには駆けつけられない。そこで上陸地点に配置された部隊が敵の上陸を如何に遅らせるかが勝敗の鍵になる。
予測される上陸地点は第2師団と第3師団、第4師団の地点、モグチツ領の海岸は第4師団の管轄だが海底に杭が埋め込まれているので、少数の兵と監視部隊を配置する程度で粗無視である。
第1師団と近衛師団と大名やガナシアの軍は何処でも上陸されてもすぐ駆けつけられるように中央に配置されている。そして全軍を指揮するのは第1師団の師団長の役割になった。従って第1師団は副官が師団長代理となって指揮を取ることになる。
そして全軍が水軍からの情報を今か今かと待っているところに、王宮からの使者がやって来た。なんと国王が急死したというのだ。それどころか国王の葬儀を行うので、師団長と副官及びできれば将官以上は葬儀に出席せよとの命令だ。命令を出したの宰相である。
近衛師団長はすぐ決断した。自分は葬儀には出席しない。副官も他の将官も葬儀には出席をさせない。葬儀に出席させるのは一人の若い仕官だけだと言い、それを使者に告げた。
近衛師団長の判断は正しいと俺は思った。では他師団はどうかと言うと、第1師団は葬儀に出席させるのは将官一人だけで、第3師団は副官を葬儀に出席させるようである。問題なのは第2師団と第4師団で、部下達にこれは上からの命令だからしょうがないと言って師団長と副官が葬儀に出席することにし、彼らは既に王宮に向かっているとのことである。
何時戦争が始まるか分からない最中、葬儀をすることを決めて軍の指揮官に出席命令を出す宰相は明らかに異常であるが、幾ら上からの命令とは言え、何時開戦が始まっておかしくない時に、唯々諾々と従ってしまうのは如何なものであろうか。
第2師団長と第4師団長は軍学校出身の秀才と聞く、それに対して自分の判断で葬儀に出席しないと決めた第1師団長と第3師団長は叩き上げで師団長に上り詰めた人間である。異世界の出来事とは言え、なにやら前に居た世界も同様なのではないかと俺は思った。
案の定、葬儀が行われている最中、水軍からの次の一報が入った。敵の大船団がこちらに向かっていると言う。船団の数は前の侵攻の倍以上だそうである。
倍以上という事は、前の侵攻が3万5千人程だったので、今度のリクモ帝国軍の兵力は7万人以上となる。
その知らせは王宮にも行っている筈だから、葬儀に参列している将官は大急ぎで帰宅の途についていると思うが、果たして間に合うのだろうか。
各軍が慌ただしく移動の準備を初めているところに、ヤマテニア国水軍の早舟からの情報が次々と入る。どうも敵の上陸地点は第4師団が守っているあたりのようである。師団長と副官が葬儀に出席していて最高指揮官不在の第4師団である。それについてはもうどうしようも無いが、とにかくヤマテニア国全軍は第4師団が守っている地点の方向に向かった。
時は既に日が落ちた夕暮れ時、リクモ帝国の船が現れ上陸を始めた。第4師団は八方に伝令を走らせると共に、弓隊を前面に出して一斉に矢を射掛けた。その為かリクモ帝国の上陸は手間取っているように見える。そのまま時を過ぎ、暗闇の中で両軍は対峙していた。
ちょうどその頃、モグチツ領の海岸を守っていた兵は暗い海に黒い船影を発見した目を凝らして見ると、広い湾一杯に数え切れない程の大船がいるのが分かった。否、もう上陸を開始している。
先程の伝令によれば敵の上陸地点は第4師団が守っている筈である。「しまった。あっちは囮だった」と気が付いたがもう遅い。
リクモ帝国の大型の船は前面が上陸用舟艇のような扉になっており、船が砂浜に乗り上げると、その扉を倒して中から武装した人馬が出られるような構造になっている。それが広い湾一杯にいるのだから、いきなり万の兵が攻めて来たのに等しい。僅かな守備兵はあっというまに蹴散らされて、第4師団の主力が急を聞いて駆けつけてきたときは、リクモ帝国兵の1万以上は上陸を済ませているときだった。
第4師団はその後の上陸を阻もうとするのだが、第4師団5千対上陸兵1万以上なので上陸を阻むことは出来ず、結局他の師団が駆けつけたときは、8万人程のリクモ帝国兵は全て上陸し、布陣を終えていたのである。




