国王の懐疑
一方国王であるが、国王はギニニ師団長からモグチツ藩のごたごたを聞いた後、王妃に「君が信頼している口の硬い侍女を一人貸してくれないか」と言い出した。
「どのようなご用件で」、「浮気をするんだ」、「??」、「浮気をするのだから魅力的な女性がいいな」
この言葉を聞いた王妃は、国王が実際に浮気をするために侍女を貸してくれと言った訳では無いと確信した。
「分かりました。本人の意向を確かめなければなりませんが、イガサキと申す侍女がいます。まだ30そこそこですが、亭主に死に別れ親族は祖母と叔母夫婦の筈です」、「ではイガサキに聞いておいてくれ、嫌なことをするのだから、報酬はたっぷりやることにしよう。それでだ、ワシがイガサキとの浮気が始まったら、お前はワシやイガサキに冷たく当たってくれ」
王妃は微笑みながら「はい、はい。他の侍女や女官にも苦情を言えば良いのですね」、「そうだ。ありがとう」
その後国王の浮気と王妃との不仲が宮中に広まった頃、国王は宮中に保管してあるモグチツ藩に関する書類を調べ始めた。国王が知りたいのはモグチツと宰相の関係である。そしてそれは有った。それはモグチツ領の海底に埋めた杭の書類である。
この前のリクモ帝国との戦争で、リクモ軍が上陸したのはモグチツ領にある湾であった。そこは砂浜の大きな湾で、リクモ軍は此処に船を乗り上げて上陸してきたのである。
ヤマテニア国としては、その轍を踏まないために、その湾一杯に海底に杭を打ち込み、大型船を近付けないようにしたかったのである。その工事を行ったのはモグチツ藩であるが、見つかった書類には、その工事の検査と完了確認を現地で行ったのが宰相であったことが記されていたのだ。
国王は、ギニニ師団長がモグチツはランシ国かリクモ帝国のスパイで有った可能性があると言った事を思い出した。宰相は軍人ではなく文官であり高級官僚であるが、王国の高級官僚は全て一般国民の中から官僚採用試験に合格した優秀な者ばかりであり、その高級官僚達が推挙してなれる位が宰相なので、宰相がスパイである確率は非常に少ない筈である。それでも、若しモグチツがスパイで宰相も仲間なら、モグチツ領の湾には杭が埋まっていない可能性がある。
そして若し宰相がモグチツの仲間なら、自分とモグチツの関係が分かる証拠を探しそれを消すだろう。そう考えた国王は、まずその書類を隠すことにした。隠し場所は不仲の噂になっている王妃に任そう。書類を王妃に渡すのは浮気相手のイガサキに頼もうと考え、それは実行された。
後は、モグチツ領の湾に杭が埋まっているか否かを確認することだ。それを宰相に知られられないようにするかを国王は思案していた。国王の苦悩は、側に信頼出来る手足になるような側近が居ないことと、宰相を疑って良いかどうかを迷っていることだった。
さて俺は近衛師団に復帰し、一段と訓練に励んでいる。モズイ城で生産された十字弓等の武器も他の軽騎兵部隊に供給され、近衛師団の訓練は重騎兵や弓隊や槍隊との連携訓練が主になっている。
訓練の課題は、敵の常套手段である凹型の陣形に誘いこんで包囲殲滅を図る戦法を如何に打ち破るかである。ギニニ師団長や俺や幕僚達はそれを逆手にとって、我が軍を槍のように突進して凹型の陣形を突き破れないかと考えている。
つまり我が軍は縦長な陣形を取り、まず弓隊を前面に出して突っ込み、敵とぶつかると槍隊が前に出て、槍隊の進撃速度が遅くなると、後ろから重騎兵が突進する。軽騎兵は重騎兵の左右で重騎兵を守りながら重騎兵と一緒に突進するが、突進が突き抜けたら軽快な軽騎兵は更に前に出て敵の左右の後ろに回るのだ。近衛師団はこれを縦陣突破作戦と名付けた。
そんな中、オノサスから荷物が届いた。それは刀で有った。鞘を払い日にかざして見ると波紋は大湾れ刃と言うのだろうか、見事な出来栄えだ。
荷物に付いてきた手紙には「まあ満足なものが出来た。これからも作るので、この刀はアキノスケの知り合いにでも上げてくれ」と書いてある。
そこでギニニ団長のところにこの刀を持って行き「これはオノサスが作った刀です。お気に召したら師団長の佩刀にしてください」と言うと、師団長は目を輝かせながら「いや貰えないよ。買うよ。君が持っているようなやつが、一本欲しかったんだ」、「買うと言っても、私には値段は分かりません。オノサスと交渉して下さい」、「うん分かった」
暫くするとオノサスと交渉したのだろう。ギニニ師団長はあの刀を、腰に差すのではなく、昔の日本軍将校のように腰にぶら下げていた。それを見た幕僚達が俺に聞いてきた「あれはどううやったら手に入るんだ?」「幾らだ?」、「値段など知りません、コビエクにでも聞いて下さい」
皆がオノサスの所に押しかけるようになったらオノサスは仕事にならないだろうと思い、刀の販売もコビエク商店にまかせることにした。
その後、近衛師団の将校の間で刀を軍刀のように腰に下げるのが流行し、それにつれて俺の剣術指南道場は大流行りである。




