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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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反乱軍と夜襲

 強行突破決行は今夜。その準備を皆がしている時、太鼓や笛の音が聞こえてきた。「あれはなんですか?」と俺が聞くと「あれは農民たちが行う祭りの音だ。今日から3日間、農民たちは夜も昼も踊り明かすのだ。今年は多くの農民が反乱に参加したので音は控え目だが、何時もはこんなものじゃない」


 それを聞いて「ガナシアさん。強行突破の決行は3日後の夜にしませんか?」、「え?なんでだ?」


 「何時もの祭りはもっと盛大なんでしょ。なら今年も盛大にしてもらいましょうよ。・・・そう三つ目の策が決まりました。三つ目の策は、3日目の夜にモグチツの城への夜襲です。モグチツの兵はこの砦を取り囲んでいたり、関所方面に配置しているので城兵は多くない筈です。強行突破組は夜襲の騒ぎにモグチツの兵士が気を取られているとき出発です。俺はガナシアさんと一緒に夜襲に加わります。でも場合によっては俺は夜襲のどさくさに紛れて単騎都に向かうかも知れませんけどね。・・・太鼓と笛の音をもっと大きくしてもらいましょう。モグチツ藩の兵士はそれに気が取られます。それを3日続けられると眠くなるでしょうし注意散漫になります。勿論我々は昼間寝ます。どうです?」と聞くと、ガナシアは回りの兵士に「誰か祭りをもっと盛大にしろと言って来てくれ。そして兵達に祭りの期間中は夜通し騒げ、そして昼間は寝ろと言ってこい」と言ったので、ガナシアは俺の案に賛成のようだ。


 そこから夜襲の為の軍議が始まった。軍議が始まってから夜も更けて祭りの音が一段と賑やかになった。そこで俺は提案した「今夜から3日間、主だった者で敵地を偵察に出かけませんか?。いきなり夜襲しても何処が何処だか分からなければ失敗する可能性があります。指揮官クラス全員に行ってもらいましょう。軍議はその後です」この提案も皆からすぐ受け入れられた。それどころか皆ウキウキと楽しそうになった。


 そして俺も偵察班に加わった。確認することは馬が降りられる傾斜地があるかとか、どこに敵兵がいるかとかである。これを3日やると3日目には目をつむっても好きな場所に行けるようになった。偵察班の中には敵地のかなり奥まで侵入して「敵兵は皆寝ぼけ眼で、側を通っても気がつなかったよ」と言う剛の者もいた。


 3日目の深夜、俺は偵察から帰ると夜襲の準備を始めた。俺は騎馬部隊に加わりガナシアの近くにいることになっているので馬に乗ろうとするとき、ふと師団長から預かった軍旗のことを思い出した。『この軍旗を使うのはこの場面だろう』とひらめいた。


 そこで槍を1本借りて軍旗を槍に結びつけてはためかせたところ「その旗を持たせて下さい。私達はガナシア様にアキノスケ様の従者として働けと言われております」と二人の若い騎馬武者が近づいてきた。確かに槍を使ったことが無いし、刀を扱うのに邪魔になる。そこでガナシアの配慮を有難く頂いて軍旗は一人の騎馬武者にあずけて馬に跨った。


 月明かりにはためく近衛師団の軍旗を見て、ガナシアは勿論兵士達の目が輝いた。そう『俺達は反乱軍じゃない。モグチツの悪行を懲らす討伐軍なのだ』と皆思ったのだ。


 夜襲の先陣は徒の部隊である。騎馬隊はどうしても音が出るからだ。先陣の徒部隊が出発して暫くすると徒部隊から合図が来た。先陣はかなり敵陣奥深く入り込んでる筈だ。騎馬隊は既に偵察で調べていた傾斜地を慎重に降りていった。


 そのうちあちらこちらで敵兵の叫び声が起き始めた。先陣の切り込みが始まったのだ。その音を聞くと騎馬隊は鬨の声を上げて走り出した。すると先陣の徒部隊からも鬨の声が上がる。


 この鬨の声を合図にミツタワの従者達は山を降り始めた筈だ。一方敵はどうかと言うと、闇夜からいきなり敵が現れ、仲間が切られていくのでどうしようかとしている処に、今度は前からも後ろからも敵の声や蹄の音がしてきたので、もう何も出来ずに右往左往するしかなかった。


 そこにガナシアを先頭に騎馬部隊が駆け抜けて行くのだが、敵は戦意喪失しているのだから何もする事は無い。何人かの逃げ遅れた敵が騎馬隊の槍に突かれたりしたが、俺は抜刀していたが敵を切ることは無かった。


 敵兵が蜘蛛の子散らすよう逃げたのは、彼らの大部分は普通のヤマテニア国人だ。元々積極的にモグチツに協力する気は無かったが、心の弱さの故にモグチツに加担してたのだ。かと言って悪に加担して良い訳けが無い。ガナシアの兵に殺されるのも自らが巻いた種だ。とは言え俺としては余計な人殺しをしなくて良かった。


 騎馬部隊が一通り敵を蹴散らすと、ガナシアはモグチツの城に向かうと言って、全軍をモグチツの城に向かわせた。途中モグチツの城の方に向かう敵に出会ったが、ガナシア軍を見るとてんでばらばらにあらぬ方向に逃げて行った。


 ガナシア軍がモグチツの城の前に来た時は空が白白明ける頃になっていた。モグチツの城は掘割や塀は有るが城という程の佇まいではない。館に近い。案の定城兵は少なく、いや全然いない。


 ガナシア達が近衛師団軍旗をはためかせ城門の前に来ると、門番は何も聞く前に門を開けて頭を下げた。ガナシアが門番に「モグチツ殿はどちらにおられるか?」と聞くと、門番は「モグチツ様は先ほど、近習方々と馬でお出かけいたしました」、「どちらに出かけると?」、「聞いていませんが、恐らく海岸の方だと思います」


 ガナシアは「海岸だ急げ」と皆で馬を走らせると何隻かの船が沖に向かっている。兵だけでなく女性もまじっている。そのどれかにモグツチが乗っている筈である。騎馬兵の一人が矢を放ったが矢ははるか手前の海に落ちた。


 モグツチを逃してしまったが、モグツチ等が向かう先はリクモ帝国の何処かだろう。これでモグツチがランシ国かリクモ帝国のスパイだったのは証明されたのだ。


 再びガナシア一行が城に帰ると、ガナシアの兵達は城門の前に整然と集結していた。その兵達を前にガナシアが「モグチツは船で逃げた」というと大歓声が上がった。


 俺はガナシアに「御目出度う御座います。私はこれから都に帰ります。色々怨念がある人もいるでしょうが、モグツチに加担した者も殆どはヤマテニア国の人、彼らがいやいや加担していたのは抵抗らしき抵抗が無かったので明らかだと思います。いずれ朝廷の御裁下があるでしょうから、出来るだけ穏便に願います」と言うと、


 ガナシアは皆に聞こえるような大音声で「勿論です。私も日頃から配下の者に私的な制裁を下してはならないと厳しく命じておりますので大丈夫と思いますが、改めて配下の者だけでなく一般民衆にもそれを徹底いたします。然しながら、この度の成功はアキノスケ殿あっての事、皆に代わりこのガナシアが改めて御礼を申し上げます。・・・それにしてもアキノスケ殿は劍の腕が立つだけでなく、軍師としての才能もあり、庶民の事に心を配るなどを見ると、いずれ大きく人の上に立つ方と思われます。その節はガナシアを配下にお加え下さい」と言うと、皆からか歓声が上がった。


 そして俺は都に向かった。ガナシアは国境まで護衛として50騎程の騎馬武者を付けてくれたが、途中何事もなくモグチツ領を出た。

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