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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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近衛師団に入団

 近衛師団での生活が始まった。師団長は俺に若い従者を付けてくれた。一平卒の筈なのに破格の待遇である。この従者によりこの国の体勢等、色々聞くことが出来た。


 まず国軍は陸軍が凡そ2万5千人程で5つの師団で形成されている。従って1師団5千人程である。師団編成の内訳は1師団につき重騎兵が2千から3千で残りが弓兵と長槍である。


 これらの師団のうち近衛師団は最強と言われ、重騎兵が3千もいる。近衛師団の駐屯地は都の王宮近くにある。近衛師団と言っても国王が出陣しなければ、都を離れ他の師団同様単独で行動するときもある。現在は国王はお年を召されて出陣することは無いので、最強な近衛師団は最前線にいることが多い。


 近衛師団長ギニニは若くてハンサムで気さくな人間なので、兵達からも人気があり、近衛師団の士気も高い。師団長ギニニは兵達からの人気だけでなく王宮の女官達からも人気があるようである。


 他の師団は、第一師団と第三師団は師団長は叩き上げの軍人で、第二師団と第四師団の師団長は軍学校出の秀才とのことである。


 その他の国軍として、警察が千人、王宮を守る兵が千人、水軍が5千人程いる。その他戦闘に加わらない輜重兵もいる。水軍に関しては、この国の海岸は遠浅か断崖絶壁で良港に恵まれていないため、軍船が小舟ばかりで力は弱いようである。


 国軍は以上であるが、国軍以外の軍事力として大名が持っている兵が4万人程いるが、何時来襲するか分からないリクモ帝国の為に、遠方の大名の軍を置いておくわけに行かず、来襲してから参集しても間に合わないだろうから、リクモ帝国との戦いに参加出来る大名の兵力は2万5千人程みたいである。


 近衛師団での俺の役割は劍術指南の補佐役なので、早速正指南役の仕官が俺に刀の使い方を聞いてきた。そこで俺は型通りの抜刀からの攻撃、残心、そして納刀までを見せ、次は色々の構えからの攻撃と受けの型を見せた。


 皆、湾刀の剣術や両手使いの剣術は初めてと見えて色々聞いて来た。そこで俺は、湾刀である利点は長大な刀が抜き差ししやすい事、切ったとき見かけ上刃の角度が鋭角になり切れ味が増すこと。またこの程度の湾曲なら突きも直刀と変わらないこと。そして両手使いは一見遅そうで不自由そうに見えるが、実際は片手剣より動作が早く、あらゆる方向からの攻撃が可能なことを、実演を交えて説明した。


 当然のこと、正指南役の仕官がそんな説明で満足するわけは無い。練習用の木劍を片手で持って挑んできた。俺はそういうこともあろうかと思って山から持ってきた木刀でそれに応じた。結果はオノサスの時と同様、俺の圧勝。


 今度は長剣と思われる長い真っ直ぐな木刀を両手で持って挑戦してきたが、逆に動作が大きいので見え見えになり、やはり圧勝。


 次はこの国の重装備の鎧を着て盾を持って挑戦してきたが、今度は更に動作が遅くなり、難なく隙間を突くことが出来て俺の勝ち。


 最後は途中で体を掴んで押し倒そうとしてきたが、これこそ合気道の術中にはまり、投げ飛ばして逆をとったら、もう挑戦しなくなった。

 

 師団長ギニニは一々うなずき「劍術指南の補佐役は卒業だな」と言って、俺と正指南役との模擬戦は終了した。その後ギニニは俺の刀を手にとって何か思案していた。


 翌日からは俺自身の近衛師団での訓練が始まったが、開いてる時間は希望者に剣術指導をすることになった。


 俺が近衛師団にかなり慣れ、そうこうしているある日のこと、マヤナカとコビエクが連れ立って俺を訪ねて来た。大太刀と十字弓が十数本完成したのだ。

 

 師団長や上官達に口で説明しても始まらないので、俺とマヤナカ達で馬場に矢の的と巻藁を用意して、まずは疾走する馬に乗っての十字弓の試射と大太刀の抜刀と巻藁の試し切りと納刀の練習をした。


 数回練習をしていると見物しに来る兵達も増え、将官クラスや副官も見に来て、最後はギニニ師団長も見に来たので、ギニニ師団長を呼びに行く必要は無くなった。


 そこで俺は改めて、疾走する馬から十字弓で2つの的を射て、その十字弓を肩に掛けると、今度は腰に履いた大太刀を素早く抜刀して巻藁を切り、その大太刀をすぐさま納刀し再び肩から十字弓を外して構えて見せたところで歓声が上がった。


 そこまで見せるとマヤナカとコビエクが売り込む必要はない。俺とマヤナカとコビエクは早速別室に呼ばれ、ギニニ師団長や副官達との商談になった。


 副官の説明によると、ヤマテニア国軍には重騎兵はいるが弓を持った軽騎兵が無く、この前のリクモ帝国との戦いで敵の軽騎兵にてこずったそうだ。


 ヤマテニア国の重騎兵は隙間の無い鎧を着込み、盾を持ち、馬にも馬鎧を着せて、長槍を並べての突進するので向かう処敵なしであるが、ヤマテニア国の重騎兵が突進するとリクモ帝国の軽騎兵はサーッと左右に別れて横や後ろから攻撃してくるので、重騎兵が方向を変えたり立ち止まったりすると、今度は敵の重騎兵が突っ込んでくるなどして苦戦したそうである。


 そこで近衛師団としては軽騎兵の必要性を感じて、ちょうど軽騎兵の装備をどうするか等を検討している処だと言われた。そして今日俺の演武を見てこれだと思ったそうである。


 ギニニ師団長は「今日もってきた品は全品買おう」と言い「ところでこれは何処で作ったのか?」とコビエクに聞いてきた。コビエクは「オノサスさんがいる山です」


 「ずいぶん辺鄙なところで作っているんだな。何人ぐらいで作っているんだ?」、「現在マヤナカを含めて十数人というところでしょうか」


 ここで副官が「採用となれば近衛師団だけでも2千近く必要になる。他師団や大名軍を合わせれば万を超える数が必要となるな。それも1年以内にだ。当然山の上で十数人の人間が作っていては話にならない。何処か別の場所で大々的にやる必要があるな」と言うと他の将官が「まず何処か良い場所があるかだ」と議論が始まった。


 「モズイの城はどうでしょうか。あそこなら広いですし、使われていない建物や倉庫などあります」、「この前アキノスケとオノサスが敵に遭遇した近くだな。という事は若し今度敵があの近くの街道を制圧したら武器は入ってこなくなるな」、「でもあの城は結構立派な城なので防御にも適していますし、城の山側には都に通じる裏街道もありますのでそこから物資は搬出も搬入も出来ます。必要なら援軍も送ることも出来ます」


 「コビエクどうだ」、「良いと思います。まずあそこは鉄鉱石や石炭の産出地に近いので大々的に行うのは最良の選択と思います」


 ギニニ師団長は「うん、決まりだな。確かあの城の城主は女だったな。副官さっそく城の城主と掛け合ってくれ。そのときコビエク達も行って現地を確かめるが良い。後は大勢の職人の確保だな、これも君とコビエクでなんとかしてくれ」と言って商談は成立した。


 ご存知のようにモズイ城の女主はユリサクヤの母であるが、そんなことをまだ秋乃介は知るよしももない。


 その後、俺はギニニ師団長に「若いのを50名程君に預けるから、あの買い取った武器を彼らが使いこなせるように訓練してくれ。君は近衛師団最初の軽騎兵の指導員だ」言われた。


 十字弓と大太刀は十数組しかない、それを50名で順繰りに練習すると兵達にとって開いてる時間が出るので効率が悪い。そこで俺は十字弓による騎射と大太刀の抜刀・納刀の練習は順繰りにするが、長剣と長弓も数分用意して、十字弓による騎射及び大太刀による抜刀・納刀と長弓による騎射と長剣による抜刀・納刀の訓練を同時に行うことにした。


 この国では馬上から弓を射るの者がいないことは無いが一般的では無い。弓を持つのは徒の専門的な弓兵だ。そこで俺の流鏑馬でつちかった技術が役に立つことになった。


 槍が主体の重騎兵の戦法は密集突撃であるが、弓が主体の軽騎兵の戦法は離合集散。ぱーっと散ったかと思うと、すぐさま集まって一つの敵を四方から攻撃する戦法である。それを可能にするのはお互いの息があっているのが必要である。ラッパなどのよる離合集散の合図は必要だが一々細かい指示で動いていたら間に合わなくなるからである。


 俺はこの考えを兵達に伝え、合図はどのようにするか、どのような形で離合集散するか皆で意見を出し合って考えて行くことにしたが、そこは皆同世代の若者同士、ワイワイガヤガヤ言いながら、色々な合図も決まり、訓練を重ねる毎に結束も高まり、お互いの息も合ってきた。


 若い騎兵が楽しそうに毎日野山を駆け巡り、それが訓練なのだから注目も浴びる。それを見た近衛師団の幹部達により正式な軽騎兵が近衛師団内に発足することになった。俺の軽騎兵部隊もその一員になったが、俺の部隊は教導隊の役割を持つことになっている。


 軽騎兵の訓練が佳境に入ったとき、ギニニ師団長から「この前王宮に行ったときに、君が軽騎兵発足に重要な枠割をしていると言ったら、国王は喜んでいたよ」と言われた。


挿絵(By みてみん)

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