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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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異世界の眼差しの少女

 そして翌日、俺とコビエクは王宮に向かった。俺は鎧直垂に親父が打った刀と腰刀を差した出立である。まずコビエクが城門のところで門番に書状を見せると、その書状を出した部署まで案内してくれた。馬はそこに預け、そこから役人がもう一つの城門まで連れて行ってくれて守衛に何か話すと、王宮から接待係と思われる男性がやって来て、王宮内の一室に案内され、椅子に座るとお茶を出された。


 しばらくすると俺だけ大広間に案内され、此処で待って下さいと言われた。皆丁重であり書状にあるような取り調べは無さそうである。


 大広間の片隅で女官や文官達が行き来するのを眺めていたが、ふと気が付くと一人の若い女官がすぐそばで俺を見つめているのに気が付いた。


 『あの少女だ!。あの眼差しの少女だ』。髪型、髪の色、着ている服こそ違うが、あの眼差しの少女が此処にいる。そしてあの時と同じように俺の心臓はドキドキと鳴り出した。あの時と同じように少女の眼差しから逃げようとする俺がいる。


 そのとき「アキノスケ様」の声で振り返ると、助かったと言うべきか邪魔をされたかと言うべきか、秋乃介は接待係にまた別間に案内された。


 秋乃介を見つめた若い女官はユリサクヤであった。


 ユリサクヤはモズイ家の一人娘であった。モズイ家はオノサスがいる山の麓に城を持つ地方大名である。もっとも地方大名と言っても年貢を少なめにしているため、城だけは大きいが貧しく、兵も使用人も殆ど解雇されており、今の家来は執事とメイドとか数人の使用人がいるだけである。


 ユリサクヤの父はユリサクヤが幼いときに亡くなり、モズイ家の現在の当主はユリサクヤの母カダナシアで、カダナシアは女手一つでユリサクヤを育てたのである。


 カダナシアはユリサクヤに身分に相応しい教育をすると共に、将来何でも自分で出来るようにと、下働きをする者がするようなことも教えていた。素直なユリサクヤはそれも嫌がらずすくすくと成長した。いや輝くような美しい少女に成長した。


 そこでカダナシアはユリサクヤが年頃になったので、ユリサクヤを王宮で働かせようと考えたのである。勿論ユリサクヤの良き伴侶探しの為である。この田舎ではユリサクヤの伴侶は見つからないと。


 幸い現在の王妃はカダナシアの遠縁にあたるので王妃に手紙を出したところ、良い返事が帰って来た。そしてユリサクヤは王妃の侍女になれたのである。


 カダナシアは喜んでばかりは居られない。王宮と言えども良い人間ばかりがいる訳が無い。


 ユリサクヤと王宮に向かう前、カナデシアは疑うことを知らずに育ったユリサクヤに「世の中、良い人ばかりがいるとは限りませんよ。自分では分かっていないと思いますが、殿方にとって貴女はとても魅力的に見える筈です。したがって多くの殿方が貴女に快いことを言ってくると思いますが、決して心を許してはいけませんよ。まずその人が誠実な人かどうかを見る目を養いなさい」、「誠実な人とは真面目にお仕事をする人ですね」


 「ユリサクヤ。上の人が悪い人だったらどうします?。悪い事するのが仕事だったらどうします?。只まじめに仕事をすれば誠実な人とは限りません。自分で良し悪しを考えて、悪いことをしろと命令させられたら断る勇気を持つのも、誠実さの条件です」とこんこんと言うのであった。「はい分かりました。お母様」ユリサクヤは母親の言葉を素直に受け止めた。


 ユリサクヤが王宮に出仕し王妃の侍女として使えると、素直なユリサクヤは王妃のお気に入りになると同時に、その美しさに魅了される男達が大勢おり、中にはこっそり言い寄ったり、文を渡す者も出てきた。


 しかしユリサクヤは母の言いつけを忠実に守り、どこ吹く風の姿勢を貫いた。そんなユリサクヤを王女も微笑みをもって見ていた。


 そんなユリサクヤであったが、ある日、黒い髪の異国人と思われる姿の青年が目に入った。『アッ』、そしてユリサクヤはその青年を見つめ続け、心の中で何度もつぶやいた。


 『この人よ。この人よ』と

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