国王からの呼び出し
そんなある日、コビエクが若い青年2人と共にやって来た。青年の一人はコビエクの一番下の子で、もう一人は店の従業員である。二人共俺より若そうである。
コビエクがやって来た目的は、なんと俺である。コビエクは「麓での俺の活躍が都の城下でも話題になり、それを聞きつけた役人が、『異国人が勝手に我が国に入っているのは問題である。取り調べるので王宮まで出頭せよ』と言っている」と言ってその書状を俺にしめした。
コビエク曰く「私も心配になり、この書状をこの前の隊長さん。あの9人切りのときの隊長さんですよ。に見せた処、『それは俺がアキさんの活躍を王宮で話した処、国王陛下が興味を持たれ、特にオノサスさんの甥だと言うところに。そしてアキさんを是非王宮に連れて来いという話になり、貴方方に無視されないように役人が気を回して出頭命令の形にしたのだと思うよ』と言っていたので心配無いと思います」
と言うことで、俺は王宮に行くことになった。オノサスは俺が王宮に行くときは、俺が此処に来た時の着物、鎧直垂を来て行くように言われた。勿論注意事項は俺が異世界から来たなどは誰にも言ってはならないことである。
そして俺とコビエクは2人だけで山を降りることになった。コビエクと一緒にやって来たコビエクの子とコビエクの店の従業員は鍛冶屋志望だそうで、俺の代わりにオノサスの家に世話になることになったからである。鍛冶屋の弟子が2人になったのでオノサスの仕事も捗るだろう。
俺の出立は、オノサスの子供の服を着て、大太刀を腰に履き刀と腰刀は帯に差して、鎧直垂や日用品が入った袋と何故か山で作った木刀を馬にくくり付けての馬上姿である。マヤナカの要望で残念ながら十字弓は持って行くことは止めにした。
ノヤカはやはり泣いた。「死んじゃだめすよ」、「うん。すぐ帰ってくるよ」
俺が王宮に呼ばれているのは、国王が俺の剣術の腕を見たいからだろう。ノヤカが泣いたのは俺が剣術指南役などで暫く帰って来れなくなると思っているからと考えたが、でもどうもそれだけでは無いようだ。
それをマヤナカの母親のナヤカが説明してくれた。オノサスとノヤカの間の一人息子のビスクは、国王の親衛隊だったのだ。そしてすぐ戦死したのだと。
国王はビスクに生き写しの俺をどうしても軍に入れるだろうと。それでノヤカは泣き、オノサスもむずかしい顔をしていたのだ。
それでも皆は祝福し、皆に見送られ俺とコビエクは出発した。
「アキさん頼みますよ」、「エッ?、なにを」、「熊ですよ。3人で来たのは熊が怖いからですよ」、「いやこの時期もう熊は出ないでしょう」、「でも・・」、「そのときは馬に乗ってるんですから、一人で駆け出して逃げて下さい。あとは何とかなるでしょう」などと話しながら山を降りた。
コビエクの支店は王宮の有る都にあるので都での宿泊先はコビエクの家である。コビエクの家に着くと家族と店の人の総出の歓待を受けた。旅の汗を流し晩餐会が始まった。皆が聞きたいのは勿論熊退治と9人切りの話である。王宮でもその話になるだろうから、予行演習になって良かった。




