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眼差しの少女  作者: 虜囚
目次
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眼差しの少女

 あの日、俺は車両の境目のドアに持たれて腕組みをしていた。電車は駅で止まり乗客が入って来たようであるが、俺はそれらを気に止めずに漠然と窓の外を見ながら考え事の続きをしていた。


 その考え事とは、自分が出場する武者祭りで行う大太刀による据物斬りをどうするかである。据物斬といっても只巻藁を斬るのではない。疾走する馬の上から左右の巻藁を切り落とすのだ。タイミングが遅れれば切れないだろうし、早ければ馬を傷つけかねない。しかも練習する時間は無い。  


 さてどうするかと考えていたところ、一人の少女がほんの2m程のところで真正面から俺を見つめているのに気が付いた。

 

 世にハットするような美しい人との表現が有るが、俺は初めてその意味を理解することが出来た。しかしその美しい人を観察するどこでは無い。心臓は高鳴り、俺の顔は恐らく真っ赤になっていたろう。


 結局のところ、その少女の眼差しから逃れるために俺はプイと背を向けたのだった。しばらくして心は落ち着いて来たので改めて振り返ると、その少女はドアの方に行ってしまい、俯いたままもう二度とこちらを見ることは無かった。


 優しい眼差し、白い頬。初めてあった顔なのに何故か懐かしい気持ちがした。何百年前に行き別れた人に再会したような気持ちにだ。ところがその再会の機会を俺は逃してしまったのである。もうそのチャンスは二度と来ないだろう。


 そこでフリテン(振聴)の言葉を思い出した。それはある日兄貴が帰って来たそうそう憤懣やるかたない調子で「くそ!俺フリテンをこいでしまったよ。しかも役満だよ」と言ったので「フリテンって何だ?」と聞いた所、麻雀で自分が上がる事が出来る牌を捨てた場合、その稗が場に出てもロン和了で上がること出来なくことを言うそうである。


 その日の兄貴は役満で上がれなかっただけでは無く、それを惜しんで手を崩さなかったので捨てた稗に満願で上がられたりとか、それからは何をやっても付きは無く、大負けしたそうである。


 兄貴曰く「フリテンはしちゃ駄目だよ。しても何時までもそれにこだわっちゃいけない。明日が無くなる。というより、まあバクチはするなとの天の啓示だろうにけど」と、実直、何事も正攻法で生きている兄貴らしい言葉である。


 『つまりフリテンした者には二度とツキは回って来ないといことか』


 確かに俺もフリテンしたのであるが、ではあのときどうすれば良かったのだろうか。もう一度あの場面が再現したとしても未だにどのようにして良いか分からない。否、これからどうすれば良いか分からない。


 俺が通っていた学校は男子校で男ばかりの環境にいたせいで俺は彼女も恋人もいない。女性に対するあこがれは有ったが、反面馬鹿にしていたりもしていた。美人々など言うが自然の美しさには敵うまいと思っていたのだ。だが今回のことで初めて女性の美しさが分かった。


 ところがそのおかげで逆に女性に対する価値観も変わってしまったのだ。以前は恋人にするなら髪の長い細面の女性が良いなと思ってたりしたが、やや短めの髪と白いふっくらとした頬が美人の条件となった。


 否、あの少女に出会ってからは、あの少女以外女性として認めることが出来なくなったのである。そしてあの日から、俺が何かをしていると突如あの眼差しが目に浮び心臓がドキドキと高鳴るようになってしまったのである。


 少女の面影を思い出そうと絵など描いたりしたがうまくいかない。せめて名前だけでもと思っても知る手がかりなど有るわけが無い。しょうがないので、あの少女のことを眼差しの少女と呼ぶことにしよう。


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