第8話 お気に入りの場所
朱音の連れて来た場所は(  ̄▽ ̄)
朱音連れられてやって来た場所は南海岸にある防波堤だった。フェンスの隙間から入り、出っ張った部分に腰掛ける。
「ふふふ……着いたわよ」
「ここはいったい?ってかフェンスの中に勝手に入っちゃって良かったのか?」
フェンスの中に入る行為は恐らく駄目だろう。出なければフェンスを設置している意味がない。
戸惑う空翔であったが朱音がキッパリと言う。
「フェンスに隙間があるのが悪いのよ。入ったからって文句なんて言わせないわ」
朱音の独自の理論は恐らく通じないだろう。バレればきっと注意されんだろうなぁ……っと少し不安そうな感じの空翔だったが、景色を見て一変する。
夕陽の光が差し込み、海の水面がキラキラと輝いている。そのあまりの幻想的でダイナミックなスケールの美しさに空翔はただただ魅了されるばかりであった。
「なんか凄く綺麗な場所だな。海が一望出来て夕陽の赤い色が海と空にも映り込んでいて……」
すっかり景色に見とれている空翔に朱音が得意気な顔をして自慢する。
「どう?気に入った?ここは私の一番のお気に入りの場所なのよ……ふっふっふっ」
確かに素晴らしい光景だ。空翔もこんな美しい場所がこの町にあったなんて知らなかったようである。でもなぜ朱音はお気に入りの場所であるここに空翔を連れてきたのだろう?
疑問に思った空翔は朱音に質問する事にした。
「なんかすっごい嬉しいんだけどさ。どうして目黒さんのお気に入りの場所に俺なんかを連れて来てくれたの?」
得意気な表情から一変して驚いた表情へと変わって行く朱音。
言われて初めて気付いた。なんで好きでも付き合ってる訳でもない男子をお気に入りの場所へなんて連れてきてしまったんだろうと……。
慌てた朱音は咄嗟に誤魔化すが……。
「どっどうしてって……そりゃ奢って貰ったお礼と何となく知って貰いたかったから……私の事」
咄嗟に出た事とは言え、自分で言った事に驚きを隠せない様子の朱音。慌てふためきながら言い訳をする。
「べっ……別に変な意味じゃないんだからね。ただアンタがこの町の事をあんまり知らないって言うから私は……って笑うなぁーー」
「はははは……ごめんごめん。こんなにテンパってる目黒さん見るの初めてだったからさ」
この日、空翔は初めて朱音がこんなに動揺している所を見た。
普段はツンツンしていて油断も隙も無いように思えるがこうしてみると結構、女性らしいと言うか……可愛らしく思えてくる。
この状況をなんとか打破したい朱音は苦し紛れに話を反らす事にする。
「あっ……あのさ。えっと……その……めっ目黒さんってのやめてくれないかな?なんか先生から呼ばれてるみたいで凄く嫌なの」
咄嗟に閃いたのは名前の呼び方だった。確かに以前から違和感があってたし、ずっと気になってはいたのだが、まさかこんな所で役に立つとは……。
空翔も急な話題変更に若干戸惑い見せていた。
「えっ?……あっごめん。全然気付かなかったよ。ははは……」
(よし上手く言ったわ……助かった。)
上手いこと話題を反らす事に成功した朱音は空翔が怯んだ事を良いことに一気に畳み込む事にする。
「私の事は……そうね朱音で良いわ。みんなもそう呼んでるしね。私も天王寺君の事は空翔君って呼ぶから……良いわね?」
空翔は嬉しそうな顔で早速、朱音を呼ぶ事にする。
「おぅ宜しくな朱音」
なんか良い響き……そんな事を考えていそうな空翔に朱音が釘を刺す。
「でも馴れ馴れしいのは禁止だからね」
相変わらずツンデレぶりを発揮する朱音だが、空翔は実に満足そうに見える。そんな二人をよそにルシエルは一人……海を見つめて感動していた。
「ああ……なんて美しい場所なんでしょう……私……感動して……うっうっ………」
涙を流すルシエル。大人しいと思ってたらずっと景色に見とれていた様だ。
「なんかルシエルが泣いてる……そんなに良かったの?ここ?」
ルシエルは号泣しており、その様子を横から覗いていた朱音は完全に引いてる。
「もう少しだけここにいようか?」
ルシエルを思って空翔が言うが、朱音はもう暗くなるからと強制的に帰ろうとした。……勿論、ルシエルは抵抗したのだが……。
「あっ朱音さんもう少しだけ……もう少しだけこの景色を見ていたいですぅ」
ルシエルの祈願も虚しく、朱音は帰る気満々で冷たく言った。
「世の中ねぇあんたを中心に回ってる訳じゃないんだから……もう暗くなるし、危ないから帰るわよ」
朱音の言葉にシュンとしていたルシエルが……帰り間際に朱音へだめ押しのお願いする。
「あのぉ……朱音さん良かったらまた連れて来て下さいね」
「……気が向いたらね」
ルシエルを連れて来ると言う事は空翔君も一緒に来ると言う事だ。
「そんなのは二度とごめん」とも思っていたがルシエルの寂しそうな表情を見ていると、もう一度ぐらい連れて来てあげても良いのかなって思ってしまう朱音であった。
そして別れ道に差し掛かる。
「朱音。今日はありがとうなお陰で色んな所を回れて楽しかったよ」
笑顔でお礼を言う空翔だったが、朱音は若干バツが悪そうな顔をしている。
「こちらこそデザート奢って貰っちゃったし、ありがとうね。でもなんか結構高かったみたいだし……やっぱり私、半分だそうか?」
突然、謙虚な事を言い出す朱音であったが空翔は笑顔で答える。
「ああお金の事は気にすんなよ。別にそんな貧乏じゃねぇし、気持ちだけ貰っとく。ってか朱音って思ってたより、良い奴なんだな……あはは」
笑っている空翔に朱音が顔を真っ赤にして反発する。
「その言い方は失礼でしょうがぁー」
「ははは……ごめんごめん。また明日な」
「うん、また明日」
そのまま笑顔で別れる二人。帰宅した朱音は少しだけ胸がドキドキしていた。
まさかあんな奴に……なーんて馬鹿馬鹿しい。きっと気のせいよね。あははは……。
この日を境に二人の距離は徐々に縮まって行くのであった。
次回はルシエルが学校で大はしゃぎして大変な事に……!Σ( ̄□ ̄;)