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第6話 Jelly 柔らかくて透明な(6)


   *


 ギルドの館内を歩いている途中で、少し後ろにいるレイラが話しかけてきた。


「ジェリー・フッカー。魔王を討伐したという貴様に会ったのなら、ひとつ聞いてみたいことがあった」


「いいよ。お前が高慢ちきで空気が読めないトンチキ貴族でも、俺は親切だから答えられる範囲で何でも答えてやるさ」


「む……私はそんなに嫌な態度だっただろうか……」


「冗談だよ。そう思うやつもいるだろうが、俺はお前のことがそんなに嫌いじゃない」


 これは本当のことだ。俺はなまじ心が読めるせいで人との関係をショートカットしがちになる。


「そ、そうか。聞きたいことというのはだな、魔王を斬り伏せたその忌剣アリザラのことだ」


 そう言ってレイラは俺の腰を指した。


「勇者にしか扱えぬ聖剣とも、担い手を殺す邪剣とも聞く。魔導士でない私にもわかるほどの力だ――確かに尋常ではない魔剣なのだろうが、実際のところはどうなのかと思ってな」


 ただの金属でできた武器とは異なり、超常の力を引き出す剣を総じて魔剣と言う。アリザラもその一振りだ。


 アリザラが忌剣と呼ばれるようになったのには理由がある。それは、“彼女”が自ら使う者をことごとく殺害してきたためだ。俺以前にアリザラを振るったものは全員、数年以内に死んでいる。誰よりも信を置いたはずの魔剣に心臓を貫かれて。

 所持者を殺す剣はどんなに強くても手元に置いておくわけにはいかない。打ち棄てられた剣――棄剣(きけん)は転じて忌剣となった。


 そして誰にも顧みられぬまま時は過ぎ――今は俺の替えの利かない相棒だ。


「隠すことでもないから言うが……まずこいつは生きている。そして聖でも邪でもない。道具として作られた存在ゆえに、機能を発揮しようと自分で考えて行動した結果が忌剣の異名になっただけだ」


「生きている……? 宝箱に擬態するミミックの話は知っているが、そのようなことがあるのか?」


 ミミックは俺も見たことがあるが、中身はかなりグロテスクな怪物だった。正直何度も会いたい相手ではない。


『無礼な女子じゃの。斬るか?』


 箱に化ける触手と溶解液の化け物と一緒にされたアリザラは、不満を表明するように鞘を震わせた。


「ぴぃっ?!」


 俺を恐れないと言ったレイラだが、何人もの血をすすった呪われし剣が動くのは怖いようだった。本当にイジり甲斐のあるやつだな。


「アリザラが制作された目的は悪を倒すことだ。だけどあくまで古い道具だから、そこら辺の融通が利かないんだよな。当時の倫理観が更新されてなくて、悪と判断したらすぐ殺すし」


 この世界は物騒だが少しずつマシになってはいるのだということを、俺の相棒は歴史と共に教えてくれる。

 現代日本出身の俺から言わせれば、ここまで殺人に躊躇がないやつが野放しにされているのは司法制度の敗北でしかない。


「本当に生きているのか……。しかし、どうしてそのことが広まってないのだ? 知性を持った剣など、魔剣の中でも最高峰として称えられるべきだろうに」


「アリザラは言葉持つものだが、その言葉は俺みたいな天才テレパスじゃないと読み取れないからだろうな」


 伝わらない言葉ほど虚しいものはない。アリザラは何千年もその孤独に耐えてきたのだ。


 俺は決して善人ではないが、アリザラが俺を斬らずに振るい手として認めた気持ちもわかる。


 超能力万歳! まさにチート能力だ(馬鹿の好む言葉だ。とはいえ、俺は優しいので馬鹿に合わせてやることもできる)。


 そうこうする内にライザから教えてもらった部屋にたどり着いた。


「ジェリー様ですね。どうぞ」


 ギルド職員に案内されて入ろうとすると、入り口でレイラがもめている。


「な、何をする! 私は上等迷宮検査官レイラ・イヌイ・アッカーソン……」


「ここから先は関係者以外立ち入り禁止ですので」


「あー、そいつは俺の助手だから入れてやってほしい」


 俺がそう言うと、ギルド職員の女性は渋々といった風にレイラを通した。


「ぐぬぬ……私は貴様なぞの助手になった覚えはないぞ」


「そういうことにしとけよ。マジで面倒くさいなお前」


 頭の悪い大型犬を連れて散歩してるような気分になってきた。余計なところで一々引っかかりやがって本当にもう……。


「これが例の死体か」


 鎧をガチャガチャ言わせながら追いついてきたレイラ。今更クールぶっても遅いっつの。

 とはいえ、これも仕事だ。死体の前では誰だってシリアスにならざるを得ない。俺とレイラはほとんど炭の塊と変わらない焼死体をのぞき込んだ。


 ドラゴンのブレスによって骨まで焼かれた死体は、苦しみに悶えた瞬間を忘れられないとでも言うように背を丸めている。

 装備していたバッグや服もひとつ残らず焼けてしまっており、身元を示すものが何もない。


 歯は人の身体の中で最も丈夫な組織なので、どんな酷い死に方をしても形が残っていることが多く、こうなった場合は歯科医に頼んでX線写真や歯型と照らし合わせてもらうのが一番なのだが、この世界でそこまでの文明レベルを望むのは無理がある。


 生きててくれたら楽なんだが、死んでる相手からは何も読み取れないからなあ。……死体が弱点ってもしかして俺、探偵に向いてないのか?


評価、感想よろしくお願いします。

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