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第20話 Jewelry 宝石(11)


 レイラが斬りかかるも、女に傷一つ付けることができていない。長剣と触れ合った部位から金属が金属を弾くような音がする。どうなってるんだあいつの身体は?


 斬り落としたはずの女の手は、何事もなかったかのように機能している。

 何かの冗談かと思ったが、切断された手首が地面に落ちているのだからつまり、新しく生やしたのだろう。ますます人間じゃあない。ふざけやがって。


 アリザラは戦いに特化しているため、時々ただ生きるために生きている人間の俺では追いつけない動きをする。


 先走って鞘走るアリザラに引っ張られてつんのめるようになりながら、レイラに加勢する。


 黒曜石の輝き/毛細血管めいた赤い文様/それらの軌跡すら断つほどの斬撃。


 振り抜いた先で慣性の法則に逆らった急停止、真逆の方向へと切り返す。死のZ字。


 太ももと腹を切り裂くも、首はやや浅かった。


 あふれ出した血が一瞬で沸き立ち、すぐに傷がふさがる。俺は目の前で女の傷口が沸騰する様をまじまじと見ることになった。怪物め。


 女の意識が、レイラから俺へと向かう。そうだ、それでいい。レイラは強いが、今の装備では赤い女に傷をつけることすら難しい。


 燃え立つような女の瞳が、俺の心臓で焦点を結ぼうとするのがわかった。サイコキネシスで俺の身体を押して、物理法則をあざ笑うかのような変態的機動。


 剣を振るうことと敵の攻撃をかわすことで戦いの間は意識がいっぱいになる。おまけに俺は、サイコキネシスと相手の心を読むことにまで注力しなくてはならない。脳が焼け付きそうになる感覚。


 女の精神は案の定、人間とは構造が違った。高位の魔物に似ているが、それよりもさらに複雑で、かと思えば本能をつかさどる爬虫類脳が特に発達しているようにも思えた。


 俺は女の思考をたどっていく。細い糸で隙間を縫うように潜行する。


 俺にはこの世界の人間が当たり前のように使う魔法がほとんど使えないし、原理もわからない。だが、心を読み取ることで種明かしくらいはできる。


 女の攻撃の正体は、つまるところ電子レンジだ。

 元の世界ではマイクロ波だったところを、魔力に変えて運用しているのだ。女は対象に魔力を放射し、内部の水分子を振動させて熱を励起する。


 フィルニールが見たマルクの死に様=レンジでチンされた卵だ。沸騰してボン! 最悪。


 金属のフルプレートメイルを着ているレイラだったら直接温められないから中身は大丈夫だと思うかもしれないが、YouTubeなんかでアルミホイルをチンした動画を見たことがある俺は正直どうだろう? と思った。

 普通に死ぬよな。うん、死ぬ死ぬ。


 発動条件として、魔法をかける対象に意識の焦点を合わせ続けなければいけないようだが、何の慰めにもならない。


 壁や鎧をすり抜ける凶悪な熱攻撃。対策は動き続けることのみ。

 駄目だなこれは。どうやっても勝てそうにない。「今は」という条件を付けたくなるのは、俺も負けず嫌いだということだ。


 俺はコートの長い裾を跳ね上げて女の視界を一瞬ふさいだ。女の集中が途切れる。代わりに、俺は脳の力を振り絞る。


「十六小節先まで吹っ飛ばせ」


 俺は魔法は使えないが、キーワードを口にすることで意識のスイッチを意図的に切り替えることができる。超能力は意志と脳の力だ。脳をコントロールする手段はいくらあっても足りない。


 レイラの腕をつかんで、全力で俺は自分自信の身体を念力の腕で後方に投げ飛ばした。


「舌噛むなよ!」


 幸い、樹にぶつかって首を折ることはなかった。藪に突っ込んで転がる。


 すぐに立ち上がって、女を確認する暇も惜しんでジグザグにダッシュ。急がないと。背後で生の植物が無理やり燃やされている熱がジリジリと伝わってくる。


「何故逃げる!」


「お前の剣がなまくらだからだ!」


 そう言うとレイラは黙って俺についてきた。実際、敵を斬れなかったのを気にしているのだろう。


 女はそれ以上追ってこなかった。俺には理由がわかった。フィルニールたちと違って、俺とレイラは復讐の対象ではないからだ。ただの目撃者に過ぎない。

 何故なら、俺は蛮竜を殺していないから。


 話の流れからして、女が言った『愛しい方』とは蛮竜のことだろう。

 蛮竜を愛おしく思うやつなんているか? いたとしたら少なくとも俺とは美的感覚が違う。ドラゴンはカッコいいかもしれないが、愛せるかどうかは微妙だ。


 あいつは人の形をしていたが、人間じゃあない。人間の魔力の量ではなかった。そもそも、人間は斬り落とした手首を生やしたりしない。


 探偵らしく結論から言ってしまおうか。


 あの女は、竜だ。


   *


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