14歳になった君へ
私は猫を飼っている。茶トラの熟女だ。
会社の同僚から譲り受けた時は、あまりに美味しそうな茶色の毛並みだったので真剣に「あられ」と呼ぼうか悩んだが、歴代の飼い猫たちが花の名前が多かったこともあり、食欲より風情をとって「紅葉」と名付けることにした。
そんな私の可愛い紅葉が、本日2018年10月17日で14歳になった。人の年齢に例えると72歳になる。
手のひらに乗るくらいの大きさの時に私の子になった彼女と過ごして14年。ミルクをあげていた頃が少し懐かしい。私自身が子育てをした初めての飼い猫が紅葉だったので、ミルクを作るのも排泄をさせるのも大変だった。ミルクの適温ってどれくらい?ゲップさせる時の力加減ってどんだけ?お尻を濡れテッシュでトントンしたら嫌がるんですけど?すごく夜泣きするけど私も泣きたい。家族の協力がなかったら育児ノイローゼになっていたと思う。
命って重い。
子猫時代の紅葉は可愛かった。
小さい。何をしてもミニミニしてる。
生きることに貪欲で必死に生きてる姿が愛しかった。
そんなミニミニした子猫時代は一瞬で、大人になった紅葉は手のつけられない暴れ猫になった。
紅葉以外の飼い猫が家と外を自由に出入りしていたので、猫同士の会話で情報を聞いていたであろう彼女は、外に憧れ家を飛び出してしまった。一瞬の出来事だった。私は泣いた。もう2度と会えないと思い必死で探した。探して探して泣いて家に戻ってきたら、紅葉は美味しそうにご飯を食べていた。私のことなど見向きもしない。もう1匹の飼い猫の方が心配してくれていた気がする。切ない。
当時の家の周辺は竹林や畑ばかりで、車もほとんど通らなかった為、紅葉は外を謳歌していた。
お土産に鳩や蛇を持って帰ってきた時は、我が家に悲鳴が響いた。彼女は立派な狩人だった。
顔に怪我をして帰ってきた時は、泣きながら病院に駆け込んだ。彼女は一時期やくざ顔になった。
まだ猫のワクチンがあることを知らなかった私は、紅葉が病気になって初めてワクチン接種を受け、念の為に獣医に勧められた猫エイズの検査も受けた。
検査の結果は陽性だった。
まだ発病はしていない。でも、いつ発病するか分からない。外猫との喧嘩の際についた傷が原因だと言われ、外に出した事を後悔した。
室内飼いにしてくださいと言われ、紅葉を外に出さない努力を始めた。何度も失敗を繰り返し、やっと室内飼いに出来た頃、彼女は自分の毛をむしるようになった。狂ったように鳴き叫び毛をむしる紅葉を見て、外に出してあげたい気持ちがわいた。身勝手な私が何度も紅葉を外に出しそうになった。でも出さなかった。彼女にとっての幸せと私にとっての幸せを秤にかけて、私は私の幸せを取った。
私は紅葉と一緒に歳を重ねたい。
喧嘩をして怪我をして帰ってくることも、事故にあう危険も深く考えずに外に出していた自分を今も許せない。きっと、ずっとずっと許せない。
ごめんね。本当に今更になってしまったけれど、私と一緒に生きてほしい。君にとって迷惑かもしれないけれど、長生きして欲しいから負担をかけさせてしまう。外の自由を知った後に奪うことになってごめんなさい。本当にごめんなさい。
そんな私の側にいてくれてありがとう。
紅葉が14歳になった。
一緒に14年を過ごした。
生まれてきてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。今日まで生きていてくれてありがとう。
おばあちゃんになって、出来ることと出来ないことが変わったね。毎日変化してるから目が離せないよ。
おばあちゃんになっても紅葉は可愛いね。
どんな君になっても、きっとすごく可愛い。
だから安心して歳を重ねてね。
いつか虹を橋を渡る時も、きっと渡ってからも私は紅葉が大好きだよ。私の子だもの。
猫だから。猫だけど。
私の紅葉は紅葉しかいないから大切なの。
命は重くて尊くて、何より愛しいものだね。
お誕生日おめでとう。私の可愛い紅葉にたくさんの幸せがありますように。