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幻のケムケムダンス

 やあ、今日は天気が良いね、むしろ暑いくらいだ。こうも暑いとジャングルに行った時の事を思い出すよ。


 突然だけど、君は『ケムケムダンス』って言う踊りを知ってるかい?


 まあ知らないだろうね。誰も行った事の無いようなジャングルの奥地に住んでいる部族の踊りだからさ。


 ジャングルの中には数え切れないくらい沢山の部族が暮らしているんだ。


 その中で僕が会いに行った部族の名はクルソ族。未だに裸で暮らし、猪を素手で仕留める様な野蛮で無知な集団さ。


 文明の一切を拒み続けた彼らは神だの精霊だの、そう言った迷信めいた存在を過去から現在に至るまでずっと信じているんだ。


 そして、ケムケムダンスってのは、森の精霊に何か――でかい猪が捕れますようにとか、息の良い猪に出会えますようにとか、そんなんをお祈りする時に踊るんだ。


 でもね、ケムケムダンスにはそれなりに流儀があるんだ。まあ、あって無いようなもんだけどさ。僕は最初、踊らせて貰えなかったんだ。


 お前は流儀を知らないだろ? だからまだ駄目だってね。最初はやんわり頼んだんだよ。でも踊らせてくれなかったんだ。だから……。


 僕が何の為にこんな僻地に来たと思ってる! 良いから踊らせろよ!


 そう怒鳴ったらあいつら般若みたいな顔して……思い出すだけでも嫌になるよ、本当に酷かったんだ。


 僕が土下座して、これは日本で最上級の謝罪だって言っても全然聞かないんだもん。参っちゃうよね。


 彼らはケムケムダンスに並々ならぬ誇りを持っているんだ。騎士道に近いかな? 彼らは騎士なんて存在知らないだろうけどさ。


 許して貰うのに2ヶ月近く掛ったよ。それから踊りを教えて貰うのにはさらに1年以上掛ったんだ。


 ようやく彼らが僕にケムケムダンスの何たるかを教えてやろうかって時にクルソ族の一人の若者がさ。あろう事か懐中電灯を部内に持ち込んでさ。族長がかんかんに怒ってね。その若者をケムケムに捧げたんだ、生け贄としてね。


 あっ、ケムケムは精霊の名前だよ『森の精霊ケムケム』名前だけ聞くと可愛らしいだろ? だけどクルソ族の伝承では凄く恐ろしい精霊なんだ。


 森を歩く不届き者を木の根で串刺にして森の猪に食べさせるんだ。クルソ族の若者はその伝承通りに殺されたんだ。


 僕も下手したら同じようになっていたかも知れない。そう思うとクルソ族は意外と慈悲深いのかもね。


 ケムケムダンスってのは精霊に祈りを捧げる時に踊るってのは話したよね? 恵みを乞うには貢ぎ物がいるんだ。


 はは、君は感が良いね。うん、そう。その時は若者が選ばれたんだ。まあ仕方ないよ、自業自得って奴だね。


 僕はその時初めてケムケムダンスを目の当たりにしたんだ。話しは聞いていたけどね、凄かったよ。


 男も女も爺も婆も子供も入り乱れてさ、狂喜の宴って奴? 思い思いに踊るんだ、一心不乱にね。何かに取り憑かれたように陶酔してた。


 もちろん僕もさ、だって憧れのケムケムダンスを踊れたんだよ? 最高の気分だったさ。まあ本当の楽しみは、その後だったけどね。

 ケムケムダンスを踊った後、僕らは猪になった。猪の毛皮を被り、泥で化粧してね。ははは、君は本当に感が良いね。


 そう、僕らは猪になったんだ――……。




2007/08/21

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