魔王様謝る
「なるほどな」
事の顛末をアイラから聞くと、俺はどうやらアイラが死んだとして勘違いして激昂、封じられていた記憶の扉を開けるとともに失われていた力の一端が戻り暴走していたのだとか。
ただ、記憶が一部よみがえったとはいえ色々と断片的なものでまだ何が何だか実感がわかない。
「で、そこの少女は何なのだ?」
「彼女はラキ、僕たちの旅に同行してくれるそうだ」
なるほど、まったくわからん。
というか、この少女――ラキは、さっきまで俺たちと戦ってなかったか?
こいつを連れてって大丈夫なのか、そうアイラに目で訴えかけてみるも彼女には全く伝わる様子が無い。
仕方ない、目で分からぬなら口にするか。
「大丈夫なのか?」
「何がだい?君の理性とかかな」
「違うわっ、いきなりまた殺されかけてはたまらんぞ」
「ああ、そんなことか。それなら大丈夫だよ。話してみたら彼女は案外いい娘だったから」
話してみた……ねえ。
そのいい娘は涙目でびくびく震えながらこっちを見ているんだが、一体どんな話をしたんだ。
「本当だよ、平和な話し合いさ」
おいおい、俺の心の中でも読んでいるのか?
そう思わずにはいられないほど的確かつ適正な返答が頼んでもいないのに返ってきた。
これからはうかつなことを考えるのはよしておかねばな。
「さっきは、ごめんね。色々と悪かったわ」
「いや、こちらこそ……その、貴様の祖父の事は申し訳なかったな」
本当に申し訳ないと思う。
全て俺が意識を失っている間にアイラが済ませてくれたとはいえラキには頭が上がらない。
「お祖父ちゃんもそれを望んでたし、それに仕方ない事だわ。私たち一族は魔王に使える定めらしいもの」
「そうか……済まんな」
生きる道を決めてしまう定めか。そんなもの間違っているのではないか?
そもそも俺は魔王だろうに、何故俺はこんなことを許していたのだ。
その答えもこの旅の中にあるのか?
7つの一つの内の記憶が戻ったというのに、また一つ疑問が生まれてしまった。
***
「それで、二人は次にどこへ行くつもりなの?」
「確かここは青龍領だったよな。青龍領に記憶は他にないのか?」
「まあ、あるにはあるけど一旦は後回しかな」
「後回し?」
「ああ。比較的ショックが少ないと思ったここでさえ君はこの有様だ。青龍領のもう一つはとても今の君じゃ耐えられないだろうね」
「それってどこにあるの?」
「この国の首都さ」
首都、その言葉を耳にしてラキの顔が強張った。
何かある、一言で理解できるし今の俺にはそれで十分だった。
「だから僕たちはひとまず中央を通って西の玄武領を目指そうと思う」
「麒麟領はスルーするのか?」
「ああ。あそこは絶対に最後だ。だから、なるべく通過だけしていくつもりで。まあ遅かれ早かれあの国の事は見てもらいたいと思ってたから丁度いいのさ」
俺の旅の終着点が今はっきりと分かった瞬間だ。
世界の中心に位置する国、麒麟領。
そこに何が待っているかは今の俺にはとうに想像はできない。
でも何と無く嫌な予感はしている。
そして、俺はこの先知ることとなるのだ。
この旅の意味、そして魔王という存在とそれに密に関係するある人間の存在を。