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魔王様と竜人の願い

 青龍領は、水の国とも呼ばれる程水に溢れている国であり、湖、海、川と言った水が国土のおよそ半分を占める。そして、国内に流れる数本の運河を中心に発展を遂げた国だと言うのが俺の青龍領への知識だ。

 伝聞とはいえ、そう聞いていた筈なのだが......。


「これが、水の国?俺の想像とは随分と違うのだが」


 城を出て早数日。俺とアイラは青龍領に居る幹部の元へと行くために東へと旅路を進めていた。しかし、いくら進めども水の国と呼ばれるような景色は一向に見えてこない。むしろ、水が干上がっているようにも見えてしまう。


「アイラよ、いつになったら着くのだ?このままでは俺が干上がってしまうぞ」


「水の国で干上がってしまうなんて面白いことを言うね。もう少し進めば目的の村が見えてくるから、取り敢えずあと少し辛抱できるかい?」


 果ての見えぬ旅だと中々どうして辛抱が出来ないものだが、ゴールが目前にあると聞けばあと少しは我慢できよう。言いたい事は山ほどあるが、先ずは村だ。俺はどうやら野宿はあまり好きではないようだからな。


「そうそう、村に入る前にこれを着けておいて欲しい」


 そう言って手渡されたのは、水晶のような物が付いたネックレスだ。彼女によると、このネックレスは装着している者に対する認識を阻害する効果があるのだとか。


「君は色々と恨みを買っているからね。保険だよ、保険」


 アイラは愉快そうに笑っているが、その言葉は不穏そのものだ。言われるがままにネックレスを着けてみるが何かが変わった感覚など全く無い。本当に大丈夫なのか?


 *


 少しすると、彼女の言っていた村らしき物が見えて来た。歩いているうちにいつしか周囲は薄暗くなっていて、街をボンヤリと照らす松明の火が少し幻想的に見える。更に村へと近づいていくと、この地が水の国だと実感できる物がようやく目にできる。

 湖だ。

 村の隣にはかなり大きい湖が存在していた。そしてその周囲には、巨大な蛇が通り過ぎたように見える奇妙な筋が延々と続いている。

 幻想的な雰囲気や綺麗な湖を目にして、口から感想が思わず溢れる。


「中々、良い村ではないか」


「……そうだね」


 先程までの調子なら、気に入ってくれて嬉しいよ、とでも言うと思っていたのだが、彼女は俯きげにボソリと呟くように答えた。


「すまない、何か気に障ったのならば謝る」


「いいんだ。何も知らない君に責任は無い」


 何も知らない、という言葉が何だかチクリと心の奥を刺激する。もしかして、俺が以前に何かしてしまったのだろうか。けれども、俺はそれ以上聞くことが出来なかった。

 もやもやした気持ちで村へと足を踏み入れたが、この村にはあまり活気を感じない。活気どころか人の気配すらあまり感じることが出来ない。


「やはり、そうか……」


 アイラはこれを知っていたのだろうか。人の気配のしない村にさして驚く様子もなく、当てもなく誰かを探すように村を歩いている。

 この村に何かあるのか?

 そんな事を思っていると、不意に何者かの声が聞こえる。


「おや、こんな辺鄙なところに旅人が来るとは珍しい」


 闇の奥から、老人の声と共に何かが現れる。声の主は姿形こそ人間、それも老人に似てはいるものの、頭に生えた2本の角と太く強靭な尻尾からそれが人間では無いことが容易にわかる。これが風に聞く竜人種というものなのだろう。


「こんな何もない村に何の御用ですかな?」


「単刀直入に言おう、彼の記憶と力の一端を返してもらいたい」


「もしや、あなた方は魔王様御一行でしょうか?」


 ふむ。あの何の変哲もないネックレスは案外効き目があるようだ。そして、アイラがネックレスを取ると何かを思い出したかのように竜人の老人は俺たちに向かって跪く。


「そうですか……。お待ちしておりました、魔王様」


 彼は懐から大事そうに、鍵のようなものを取り出す。


「記憶と力、お返しすることに何の不満もありません。ですが、よろしければこの老人のささやかな願いを叶えては頂けないでしょうか」


「どんな願いだ?」


「この国を再び水の国へと戻していただきたいのです」


「戻す……?一体この国には何が起きているのだ?」


 俺がそれを尋ねると老人は困ったようにアイラを見る。

 アイラが頷くと、それに促されるようにこの国に起きている異変について彼は語り始めた。

 それはおよそ100年と少し前、魔王を倒すべく勇者はまず7人の幹部を倒そうとしたという。その内の一人が彼だ。

 龍種の中でも水龍種に分類されるらしい彼は、水を源に力が得られ、水さえあれば永久に戦い続けられる龍だったという。

 そんな彼を勇者はどういった方法で倒したのか。

 それは、強大な火炎魔法であたり一帯を焦土と化し水を干上がらせてしまったのだ。

 このままでは自分はおろかこの国が死んでしまうと思い彼は降伏した。

 ただ、その影響で水の国と言われた青龍領は今では見る影もないという。

 村の外にあった蛇のような跡は恐らく、川の名残なのかもしれない。


「これではどちらが悪者かわからんな」


「まあ、正義なんて人それぞれだから仕方ないんじゃないかな」


「で、俺たちは何をすればいいのだ」


「水の精霊を祀っている祠へ行き、私の首を生贄に捧げて頂きたい」




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