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魔王様の旅立ち

カツカツカツと二人分の足音が、寂れた城の中に響く。城内は荒れていて、所々天井が崩れ星が顔を覗かせている。これが夜、というものなのだろう。しかしながら本当にアイラの言葉を信じてよかったのだろうか。記憶のない俺は側近かアイラの二人しか知らないのだ、果たしてこの二人のどちらかの言葉だけで判断を下してよかったのだろうか。そもそも俺は本当に――。


「安心してくれ、僕は君の味方だよ」


アイラはそう言って俺に笑って見せる。屈託のない笑顔、それはどこかで見たことがある気がした。何故だろうか、彼女の顔を見ていると心が落ち着く気がする。


「なあ、側近に黙って城を出てしまっていいのか?」


「ああ、その事か。それなら――」


言葉を遮るように俺たちの前に何者かが現れる。深くかぶられた黒いローブ、それは俺がこの世界で知る2人の内の1人に他ならなかった。黒いローブに隠れて表情は伺えないが、彼女がアイラを、この状況を歓迎していないのはなんとなく見て取れた。


「なぜ、あなたがここにっ……」


「それは寧ろ僕のセリフだよ。まあ大体想像はつくけどね」


少なくとも二人は知り合いだったようだ。だが、その関係は友好的とは正反対。今にも殺しあいかねない空気を醸し出していた。そうだ、結論を先延ばしにしてはいたが、今こそ決める時なのではないのか?俺の進む道を。


「側近よ、貴様は俺に何を隠している?」


「隠してはいません。知る必要のない事なのです」


「ほう。ならば何故、俺に嘘をついた?」


空気が静まり返った。まるで時が止まっているかのような錯覚を受ける。しかしながら、いつまで待っても彼女の口から答えが出ることはなかった。決まりだ。今の時点では、彼女を信じ切ることはできない。ならば、俺はアイラに着いていこう。立ちはだかる彼女を抜いて、俺は歩みを進める。数歩遅れるようにアイラも動き出す。


「どうしても……どうしても、行くというのですね」


背中から側近の声がする。俺は短く、ああとだけ答えるが足は止まらなかった。けれどもその刹那、背中から強い何かを感じる。この感覚は教わらずとも体が覚えている。殺気だ。強い殺気を感じ取り、振り向くと側近はすでに俺の眼前へと迫っていた。その手には短剣が握りしめられている。無論、自衛の構えをとるが戦いの方法もとうに忘れている俺だ。こんな構えに意味はないだろう。が、しかしその刃が俺へと届くことは無かった。代わりに届いたのは血しぶきだった。勿論俺のものではない。


「おいたが過ぎるよ」


隣にいたアイリが側近の腕を切り落としたのだ。そして、アイラは俺に剣を手渡し意地悪そうに微笑んだ。


「さあ、止めは君がさすんだ」


「待て、何故そんなことをする必要があるのだ?」


「彼女は君を殺そうとしたんだ。当然だろう?」


「……ならば、俺は彼女を許そう。それなら問題はないだろう」


「ふうん……。やっぱり、記憶が無くなっても君は君なんだね」


少し不満げな顔を見せたアイラだったが、これ以上は何を言っても無駄だと悟ったのだろう。俺は彼女に剣を返し、痛みでうずくまる彼女を横目に城を出ることとした。城を見てなんとなくは察していたが、外界は荒廃しきっており、草木の一つも存在していなかった。やせ細った台地とは対照的に、満天の星が輝いていた。


「さっきは見逃したけど、今後はそうはいかないかもしれない。出来得る限りは僕が何とかするが、君自身も同胞を手にかける覚悟をしておいて欲しい」


「それは必要な事なのか?」


「ああ、何しろこれは君の記憶に関係することだ」


「何だと?」


「君の記憶は君の力と共に7人の幹部が持っている筈だ。殺してでも奪わなければならない事だってある」


覚悟……か。失うものなど持ち合わせていない俺に何の覚悟がいるというのだろうか。同胞と言うが、記憶のない俺にはそんな仲間意識などない。記憶を取り戻すためとはいえ、命を奪うことに抵抗はあるがとりあえず行けるところまで行ってみようではないか。


「これからよろしく頼むぞ、アイラ」


「ああ、こちらこそよろしく」



側近に教わった現在の地理的情報では、この世界は5つに大分出来るという。東の青龍領、南の朱雀領、西の玄武領、北の白虎領、そして、中央の麒麟領。俺の城は、丁度青龍領と白虎領の中間に存在しているらしい。


「さて、北と東だけどどちらに行きたいとかあるかい?」


「お勧めは?」


「なら、東に進もうか。東にいる幹部は恐らく君に協力的なはずだ」


因みに北にいる幹部とだと戦闘は避けては通れないという。ならば東一択だろう。まずはひとつ記憶を取り戻す。もしかしたら、その一つでアイラが信用に値するのか分かるかもしれない。そう思い、俺は東へと進むこととなった。



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