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現世界に飽きたので、異世界に行きたいです。

「つまんない。」

「ほんと。」

「飽きたよな。」

「異世界とかいけねーかな。」

「ワンワン。」

ある日の朝食、いつもの会話……でもないか。

俺んちは、自分たちで言うのもなんだが、いわゆるエリート家族だ。まあ、能力値と外見くらいだが。

だからか、この日常に少し飽き飽きしていた。でも、家族全員同じ考えとは、少し気持ち悪いな。いや、異世界に行きたいのは俺だけか。今度は少し寂しく思いながら、目の前の目玉焼きを、ハムと一緒にホカホカご飯の上へとダイブさせる。

「いいな、異世界。」

仲間がいたとは。普段冗談はあまり言わない父だ、本気かもしれない。

しかしだね、父上よ、流石に異世界があるわけないのが現実なのだよ……。それはいわゆるオタクの俺でも、憧れはあるが、気づいていることなのだよ……。ああ、父が少しかわいそうに見えてきた。優しい視線を送ってあげよう……。

「あ、行けるかもしれないわよ。」

ん?柔和に目元を曲げた「優しい視線」を素早く見開く。

「何言ってんの、お母さん。とうとうお兄ちゃんみたいに頭おかしくなったの?厨二病が2人もいると流石に……。」

んん?妹の栞が、さぞ醜いものでも見るかのような軽蔑しきった目で、俺と母を視線を行ったり来たりさせながら見ている。……普通そこまでするか?いや、俺も「優しい視線」をやったから言えないな。

というよりも妹よ、兄は決して厨二病ではないぞ?ちょっと二次元が好きなだけなんだ。と言いたいが、栞の機嫌を損ねることは一家で一番のタブーだ、気をつけなければならない。

ああ、可愛い可愛い妹に痛い言葉を言われるとは、最悪の朝だ。腹いせに目玉焼きの黄身の部分を、醤油と一緒にぐちょぐちょかき混ぜてやった。

「違うわよ、お兄ちゃんは厨二病だけどお母さんはそうじゃないわよ。」

……。

違うよ、母さん……。

まさか父さんまでそう思っているわけじゃ、と思い、父の方を向く。

「……?!」

俺は父の顔を見た途端、目をそらした。

そこには「優しい視線」があったのだ。

どうやら父は気づいていたようだった。

もう二度と「優しい視線」はやらないと俺は決めた。

……。

「ところで母さん、それって本気?」

父さんからの仕返しで忘れかけていたが、そこが気になるから、とりあえず聞いてみる。母さんは色々なことを大体は器用にこなせるが、性格が天然なのだ。適当なことをいうこともある。

「本当よ、お母さんを疑うつもり?」

母さんは自信満々のようだ。胸を張って、任せなさいとばかりに拳を胸に当てている。

「い、いや……。」

とりあえず、嘘か本当か分からないから、曖昧な答えを出す。

「もう、お母さんはどうしていつも……。」

栞が見慣れた母の様子に呆れた顔をしている。けれど、それ以上なにか言うつもりは無いようだ。小さくため息をつくと、レタスをもぐもぐと食べだした。もしかしたら、少し楽しみなのかもしれない。

じゃあ、続きは帰ってきたらね、と母が言いその話は終わった。


俺は、去年中学校を卒業し、晴れて高校に入学した高校一年生だ。

「おはようでござる、エリート殿。」

校門を抜けると、眼鏡男子が挨拶してきた。いわゆるオタク友達だ。

「ん、おはよ。あと、そうやって呼ぶな。」

簡単な挨拶と呼び方への指摘をする。

「別に間違ってるわけでも無いでござるよ。オタクであることを除けば完璧でござるよエリート殿は。」

確かに間違っている訳では無い。なぜなら、俺たち家族の苗字は襟糸と書いてそのまま「えりいと」だからだ。

あと、オタクでさえなければ、確かに完璧に近いのだ。学年一位の学力、普通に運動部並の身体能力、そして親から譲り受けたこのルックス。今も通り過ぎた女子2人組が、襟糸君オタクじゃなければなー、と言っていたのが聞こえた。ただ、

「オタクであることは悪いことではないだろ?」

そうだ、別に悪いことではない。オタクであって……何が悪い!

「そうでござる。ただ、最近あまり良い見方をされていないのでござる……。」

……。

「別にそうでもな……くないよ!今日の朝だって、オタクってだけで厨二病扱いされるし!しかも可愛い可愛い妹の栞に!?俺を信じてくれてると思った母さんにまでそう思われてるし!?……父さんには、かわいそうなものを見るような「「優しい視線」」を送られるし……。」

言ってたら悲しくなってきた。

「そうでござるか……。それは辛いでござるな。大丈夫でござるよ。」

おお、分かってくれるのか、友よ……。

「ありが……?!」

ありがとう、そう言おうとして友人の顔を見た。

そこには、「優しい視線」があった。

「うわぁああぁっっ……!」


「ただいまー。」

玄関で靴を脱ぎ捨て、帰宅完了。

早く寝転がりたい。今日は疲れたからな……精神的に。

「おかえりなさ〜い。」

母の元気な声が聞こえる。

リビングに続く扉の取っ手に手をかける。

「あ、靴揃えてね〜。」

Uターンして脱ぎ捨てた靴を揃える。 もう1度扉の取っ手に手をかけ、今度は入れそうだった、が、入れなかった。

ガチャリと、確かに手応えがあったのだが、俺はリビングに入る代わりに、扉の外の、廊下へと押し倒された。

扉が何かに勢いよく押され、その扉に俺は押し倒されたようだった。

頭と腰が痛い、頭をぶつけ、ちょっと強めの尻餅をしたみたいだ。

一体何があったっていうんだ?




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