第5話
プレゼントを貰えるとは思ってもいなかった。
「おはようございます」
だから、ちょっと自慢したくなるのは当然だと思う。
「おはようチカ…って、あれ?」
さっそく私が働く喫茶店の同僚にして親友の津島菊乃(愛称はキクちゃん)は目敏く気づいてくれた。
「ネックレスなんてしてたっけ?」
彼女はスタッフルームの奥にある更衣室で私の胸元を見て首を傾げるので、私はあえてそのブルークリスタルを輝かせんと手に持った。
「宗元さんからのプレゼントなの」
「へぇ綺麗ね」
「宗元さんはセンスがいいからね」
私がこれでもかというほどにネックレスを見せつけていると、キクちゃんはさらに首を傾げた。
「すごい今更だけど…なんでさん付けで呼んでるの?」
…やっぱり変かな?
「えっと、そういう雰囲気の人、だから?」
私より全体的に大きな身体をしているのに、とても細かなところまで気を巡らせていて、いつも何か困っているように、どこか申し訳なさそうに眉間に皺を寄せている。私はそんな6つ年上の彼に馴れ馴れしく話しかけることを躊躇っている。理由は、やはり彼が持つ…独特な雰囲気にあるのかもしれない。
「なんだそりゃ?」
「宗元さんと話せばわかるよ」
現に私も最初はあの皺を伸ばしてあげたかっただけだったのだから。それが気づけば本気で恋をしていたなんて…
「あ…」
「チカ?」
「やっぱりキクちゃんには会わせたくないかな」
「えぇ?」
私は自分のロッカーを開けて、制服を取り出しながら、思わず笑った。
「キクちゃんが惚れちゃうかもしれないからね」
独占欲とは違うこの気持ちはきっと独身のキクちゃんにはわからない。
「…私の可愛い可愛いチカが惚気てるなんて…」
キクちゃんは苦笑いをして、豪快に服を脱ぎ始める。
「この幸せ者め」
「ふふふ」
笑いが止まらない。今日はびっくりするくらい機嫌がいい気がする。そして調子もとてつもなくいい。
これだったら、ペルッコ星人にも負ける気がしない。
「いつまで笑ってるの。早く着替えてミーティング行くよ。なんか司令の顔は暗かったし、引き締めないとね」
私が私服を脱ぎ、インナー姿を晒すと、ここぞとばかりにキクちゃんの冷たい手が首筋からインナーの下に入り込む。
「ひゃっ!…ちょっとキクちゃんやめて!」
「引き締まったろ?」
「…もう」
そうだ。ここで緩んでいるわけにはいかない。宗元さんと暮らすこの日本が危ないのだから。
「私が宗元さんを守るんだ」
私はフロアスタッフの制服に袖を通す。それからピンクのエプロンを手早く着て、後ろにある姿見で身だしなみを整える。すると、隣に並んだキクちゃんは黄色いエプロンの首紐に首を通しただけで私に背を向ける。
「守るものが増えても、私のエプロンは結んでね」
「はいはい。キクちゃんは不器用なんだから」
私はいつも不器用なキクちゃんに代わって彼女のエプロンの腰紐を結ぶ。だからなのか、私の紐や糸を結ぶ速さは色んな人に驚かれるくらい速い。
ーーまったく…無駄に速いなーー
そういえば、宗元さんに最初に褒められたのも結ぶ速さだったかな。
「ふふ、でも無駄って…」
「チカ?」
キクちゃんが背中越しに顔を向けようとしていたので、私は人差し指を迫り来る頰に向かって立てて待ち構える。
「むっ…」
ぷにっと彼女の柔らかい頰を突くと、私はしたり顔をしてみる。
「仕返し」
「…お見事」
キクちゃんはちょっぴり悔しそうな顔をした。