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たとえ悪の組織と呼ばれても。  作者: 海野 絃
時富宗元という男。
3/5

第3話

「小隊長、敵の全滅を確認しました」

「そうか」

 お目当てのデータはここになかった。転送されたか、そもそも存在していなかったのか。

 俺は血に汚れた廊下を歩きながら報告を聞く。清潔感ある白い廊下には研究員や警備員の死体が至る所に転がっていて、その中には…

「なんでや次郎!なんで死んどんのや!」

 俺達の戦友も何人か倒れている。今回、俺の部下は2人が死んだ。地球に来て1年目の佐伯とベテランの野中、佐伯に至っては額を撃ち抜かれて即死。おそらくは擬態した地球人の身体に慣れていなかったのだろう。

「立て、撤収だ」

 戦友達の死体は全て回収しなければならない。地球人は宇宙人を好奇心で解剖したりするらしく、戦友の遺体をそんな野蛮なことに使われるわけにはいかない。

「志木…佐伯の遺体を運べ」

 俺は佐伯の遺体の前でうずくまるようにして泣く志木の肩を掴んで無理矢理立たせる。志木は佐伯と同期だったためか、その死に動揺を隠しきれないようである。

「小隊長…これが戦場ですか?」

 1年目の戦死率は8割。原因は慣れない身体での戦闘。そのことを志木はこれから学ぶことだろう。

「まぁそういうことだ」

 志木が2割に入れればの話だが。

「村木!手伝ってやれ」

「了解です小隊長」

 俺は志木の肩を叩いて研究所を出た。


「小隊長」

 建物を出て、何となく佐伯が吹っ飛ばしてくれたフェンスの穴を見ていると、俺の補佐役である三崎音子が俺の背中を追いかけてきた。その手にはハンディ型の無線機があり、彼女はそれを俺に差し出してきた。

「…誰からだ?」

 俺は聞くが早いか無線機を受け取り、そこに表示された周波数を確認する。

「文化局第5研究室の結城室長です」

『ザザッ…ぁやぁ、調子はどうだい時富宗元君』

 聞こえてきたのは血生臭い戦場とはかけ離れた間抜けな声だった。俺はその声にため息をつきつつ、ゆっくり言葉を選ぶようにして口を開ける。

「お久しぶりです。結城室長」

『他人行儀だな。僕と君の仲じゃあないか』

 どんな仲だというのか、と言いたい気持ちは早々に飲み込んで腹の中で消化する。

「ご用件を」

『んん連れないねぇ。いや何、君は貴重なサンプルだからね。近況を聞こうかと思ってね』

「はぁ?」


 俺がこの男に目をつけられている理由は2つある。

 1つは地球到着1年目で大勢のペルッコ星人が死んでいる中で11年目を迎えていること。同期はもう指折りで数える程度しかおらず、全員が出世して戦場を退いている。俺はというと、最前線で指揮をとる程度にしか出世していない。現場主義というわけではなく、単純に出世街道を踏み外した結果なのだが、結城室長はそれを普通に面白がっている。

『生きてるとは驚きだね。君は最古参の兵士だから、これから何歳まで生き残れるか期待しているんだよ。君が最前線で天寿をまっとうできるのであれば、これから地球に赴く若者達の希望となろう』

「自分が生き残ったところで、新人は死にますよ。地球人擬態訓練を積ませていないからだ」

 下手に希望を持たせてどうする。持つべきものは確かな技術だけだ。希望など、降り注ぐ銃弾の傘にもならないというのに。

『そういう現場のベテランの意見も大歓迎だよ。軍務局にはそう伝えておくさ』

 ああ言えばこう言う、俺はこの男のそういうところが苦手だ。対等になりたいと思っているわけではないが、妙に上から物を言ってくる。

『まぁ本題はそっちじゃない』


 多分、理由の2つ目が結城室長にとって貴重なサンプル足りうるのだろう。


『千景ちゃんとはどうだい?』

 月に1度、俺は結城室長にあることについて報告書を提出している。それは地球にいるペルッコ星人達の中でも結構有名なことなのだが…

「なぜ今聞かれるのでしょうか?」

 報告書は2週間前に出している。結城室長自身が提出日以外に俺に連絡してくることなどなかった。

 俺が首を傾げると、それを見ているかのように結城室長は笑い声をあげた。

『いや何、今日でちょうど1年が経つことを思い出してね。少し気になっただけだよ』



 ーーふふん、今日は何の日でしょう?ーー



「あぁ…しまった」

『ん?どうしたんだい?』

「すみません。報告は後日必ず」

『へ?あちょっ…』

 俺は有無も言わせず無線機の電源を切り、それを三崎に押し付ける。それから空を確認したが、満月が綺麗な夜だった。

「三崎、時刻は?」

「はい、22時34分です」

 あとは事後処理だけのはず。

「すまん、事後処理を任せてもいいか?」

「はい?」

「この通りだ」

 俺が頭を下げると、三崎はその場で左の握り拳を右胸に当てる。それはペルッコ星人が地球人に擬態している時に行う敬礼だった。

「小隊長がそうせよと言うのであれば」

 そして三崎は頭を上げた俺に笑顔を見せる。

「一応、始末書は書かされるかもですが」

 良き部下を持ったな俺も。

「安心しろ。文書作成にはもう慣れた」

 俺は踵を返して走り出す。

「お気をつけて!」


 果たして今日中に間に合うのか。尤も、どちらにしろ急がねばなるまい。彼女の元へ。

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