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約1000字短編集

隣人

作者: sika
掲載日:2016/12/11

 

 またかよクソッ!


 山田靖人は手元にあった雑誌を力の限り壁に投げつけた。

 閉じ込みのグラビアページがずるずると、靖人の気持ちを代弁するように雑誌から吐き出される。


 もううんざりだ。



 安い木造アパートだから、壁の薄さは知っている。だから相手は気付くはずなのだ。

 それでも意味不明な英語のラップは止むことなく、靖人の部屋に容赦なく侵入してくる。

 それは相手もまた、自分に抗議していることを意味していた。

 しかし靖人には特に思い当たる節はない。そもそも引っ越してきた時に挨拶すらしていないのだ。

 どう考えても相手は頭がおかしい。俺は悪くない。



 立ちあがり、二度三度、壁を蹴りつける。

 気のせいかそこだけへこんできたような気がするが、知ったことではない。

 いっそ壊れて、互いの気持ちをぶつけ合えばいいのだ。

 そうだ、そうしよう。なんでもっと早く思いつかなかったんだろう。



 靖人は一度冷静になろうと薄い布団に座りこみ、以前見た隣人の顔を思い浮かべた。

 何を考えているか分からない、のっぺりとした顔。そしてその上にのった汚い眼鏡。

 ぶくぶくに太って、せり出た腹。そして脂ぎった髪。

 人のことを言えた義理ではないものの、奴よりはましだという自信だけはあった。

 それからもう何カ月も会っていないが、きっと前よりひどくなっているに違いない。



 靖人はもし喧嘩になった場合を想定し、自分が有利であると踏んだ。

 特に根拠があったわけではない。

 こういうのは最初に言った方が被害者なのだ、という強い思いが内にあるだけだった。

 それは実際に靖人を強気にさせ、奮い立たせた。



 よーし。やってやる。それで毎日のこのくだらない争いも終いだ。

 最後に一発、壁に裏拳をお見舞いする。それは靖人なりの戦線布告だった。


 しかしすぐにまた同じような衝撃が、今度は靖人の部屋を襲う。

 本棚にある漫画本が音を立ててパタパタと倒れた。



「野郎!」


 靖人にしてみれば、今から行くぞ! と言っているのに、それを受けて立つ、と言われたのだから面白いはずがなかった。

 本が倒れたのも、暗に自分の方が被害者だと言っているような気がして、そしてそれはその通りなのだと肯定した気がして、靖人は怒りに我を忘れた。



「ぶっ殺してやる!」



 怒りに飲み込まれた靖人には、話し合いで解決する気などもはやなかった。

 抑圧してきたストレスは膨れあがり、殺意に取って代わられた。


 ――ころしてやるころしてやる。

 靖人は台所から包丁を持ち出し、どすどすと足音を立てながらドアに向かった。



 勢いよくそれを開け放つと、隣の部屋からも同じようにドアを開ける音がした。

 目の前には、普段鏡で見ている自分にそっくりな隣人が、包丁を手に立っている。


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