白い翼と五色の魔族
ー翼咲、珀空、亜藍、虹飛は、白の魔族の小さな村に向かっていた。そこは白の国境近くで、青、赤の魔族の国境もすぐそこにあり、三つの魔族の国境がほぼ重なっている場所である。戦況を確認するのと、白の魔族の被害状況を確認して、援軍をどのくらい配置するのか決めるためだ。
「まさか翼咲がここを訪ねる日が来るなんて思わなかったな。王様、わりと過保護だし。」
「私もびっくりだよ…」
辺りには兵士の雄叫びが響いている。すると急に虹飛が足を止めた。
「どうしたの?お兄ちゃんっ…!」
珀空に口を塞がれる。珀空は集中するためか、目を閉じている。
「…すぐ近くから数人の人の気配がする。…10時の方向!」
珀空は周りの状況を把握する魔法が秀でている。障害物を透視して自分の“視たいもの”を直接頭で“視る”ことができる。これは珀空の故郷である、白の魔族の族魔法(最も得意とする魔法)である。
「亜藍、行くよ!」
虹飛と亜藍がものすごいスピードで飛び出していく。数秒後、二人が向かった方向が青く光った。そして二人は歩いて戻ってきた。
「白の兵士だった。怪我していたから亜藍が軽く治療したよ。」
「そうですか。ありがとう、亜藍。」
亜藍は元々青の魔族で暮らしていたため、族魔法である回復系魔法が得意で、現在攻撃系魔法を極めている。
帰ってきた二人の後ろには白の魔族の兵士が3人立っていた。
「珀空様!この村はもうだめです。蓄えていた食料も水も底をついてしまい、水を汲みに行こうにも近くの川は赤の魔族に占領されていて…。老人や子供たちは弱っていく一方です。」
「そんな…。」
「…この村の住民は城で保護する。荷物をまとめて村の出入り口に村人を集めてくれ。」
兵士が去った後、珀空は近くの樹木の幹に拳を打ちつけた。
「珀空、血が…。」
「くそっ…。何でなんの罪もない人たちが傷つかなきゃいけないんだよ!」
冷静に見えた珀空は、王子として民の不安を煽らないように怒りを押さえていたのだった。一拍置いた後、珀空はこう言った。
「…ごめん、オレは村の人たち迎えに行ってくるよ。城まで連れていくから、3人は先にいってて。」
「…でも。」
虹飛をちらりと伺うと力強い頷きが帰ってきた。
「俺たちも手伝うよ。村の人たちを全員避難させるなら男手が必要でしょ。」
「ありがとうございます…。お願いします。」
そうして4人は村へ向かった。道中、珀空は無言で厳しい顔をしていた。