悪魔の謀略〈裏〉
ノリは現実となった……。
書くつもりなかったので、矛盾点あるかもしれません。大目に見てくれると助かります。
※短いです。過去二番目の短さ…かも。
砂色一色に染まった岩肌を晒す洞窟の中。
ヒカリゴケの光によって生じた暗がりの奥に、ユラリと揺れる血色の眼光があった。
それはひっそりと闇に潜み、次の獲物が来るのを息を殺して待っている。
通路の角から、醜悪な小鬼が何の警戒もせずにひょっこりと現れた。
小鬼は、棍棒片手にノソノソと通路を横切っていく。
それは陰の中でその様子をジッと見ると、口角を吊り上げ、まるで三日月のように裂いた。
闇を抜け出し、こっそりと小鬼の背後に佇む。
『【精神支配】』
そして、心の底からゾッとような歪に歪んだ声が囁くように発せられた。
その瞬間、小鬼はその瞳から光を消し、まるで意思をなくした人形のように、その場で棒立ちになる。
『黒髪黒目、中肉中背の眼鏡を掛けた男を殺せ。』
人形となった小鬼に、それは淡々と命令を下す。
意思をなくした小鬼は、コクリと首肯を僅かに返し、再びノソノソと歩き始める。
『主も、誠に面白いことを考えるものだ…。』
通路を歩いていく小鬼を眺めながら、黒山羊の悪魔が、邪悪な笑みをその口元に刻んでいた。
鑑達が〈魔物の狂葬曲〉に襲われるのは、この数時間後であった……。
◆
〈千代視点〉
「か、鑑君ッ!!?」
雪乃ちゃんの言葉に僅かな希望が見えはじめたその時、突然魔物の勢いが強くなった。
私の後ろで必死に剣を振るっていた鑑君が、その波に呑み込まれて、その姿が見えなくなってしまう。
「クッ…、ヒスイッ最大【分裂】!! 【形状変化】、後方の敵に全力放射ッ!!」
ヒスイを現在分裂できる限界数の三体まで増やし、鑑君と自分を分断する魔物の群れに全力攻撃させる。
翡翠色の槍の散弾が幾体もの魔物を絶命させ、紅い血の花を咲かせた。
骸と化した魔物は、後方から押し寄せる魔物に踏み散らされ、挽肉にされて地面の染みに変わっていく。
まさに濁流のような魔物の群れ。あまりに、数が多すぎる。
(鑑君、今助けるからッ! どうか、まだ無事でいてッ!?)
私の胸が焦燥に焦がれていく。心臓が早鐘を打ち、冷や汗が止まらない。
逸る気持ちに呼吸が早くなり、視界がひどく狭まっていく。
「はぁッッ!!」
私は細剣を構え、一体の小鬼に向けて一閃させた。
「ゲギャェッ!!? グ、グギィィ……ッ。」
心臓を一刺しして絶命させると、同じように他の魔物を狙う。
背後から襲ってくる魔物は、一体のヒスイに任せ、残り二体のヒスイと共に魔物を屠っていく。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……。
鑑君を助けたくて、ひたすらに魔物を刺し殺す。
視界が鮮血に染まり、吐き気を催すような鉄のツンッとした臭いが鼻の奥にこびり付く。
それでもまだ、魔物の壁は依然としてそこにある。
「ハァ…ハァ…、助ける、んだからぁ…ッ!!」
息を切らしながら、私は猛然と魔物の壁に向けて突撃した。
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「やめなさいっ、千代! もう、もう終わっています…ッ」
気が付くと、私は後ろから雪乃ちゃんに抱き締められていた。
「雪乃、ちゃん…? どう、したの? まだ鑑君が見えない…、魔物の壁は、そこにあるじゃない」
鑑君の姿が無い。だったら、まだ私と彼を隔てる壁があって、彼を隠してしまっているはずなのだ。
だって、そうでなかったら彼は―――
―――既に、死んでいることになってしまうから……。
「もう魔物は全て殲滅しました…ッ!」
苦悩に満ちた、今にも泣きそうな雪乃の声が、直ぐ傍で耳朶を打つ。
それが、否が応でも私に現実を突きつけてくる。
「そんな訳、そんな訳ないッ!!」
でも、私がそれを受け入れてしまうわけにはいかない。
だって、鑑君がそんなにあっさり死ぬはずが無いから。
いつもみたいに、ズタボロになりながらもひょっこり現れて「ちょっと、やばかったな」とか言ってすずちゃんや私の頭を撫でてくれる、はずなんだから……。
視界が、ぼやけたように滲む。
熱いものが、次から次に溢れてくる。
全身から力が抜けて、雪乃ちゃんと一緒にへたり込んでしまった。
(泣いちゃ、駄目なのに…。死んでなんか、ないのに……。)
私を抱き締めながら、雪乃ちゃんも僅かに嗚咽を漏らしている。
ティアリスも、すずちゃんも泣いている。
皆、血と肉片と臓物に溢れた地面に座り込んで、そんな物は気にならないとばかりに大粒の涙を零す。
雪乃ちゃんの肩にはルヴィが止まり、慰めるように頭をなでている。
私の膝にはヒスイが乗っかって、心配げにプルプル震えていた。
場が、悲しみに沈んでいく。
その時、
「ヴァウッ!」
シロが吠えた。
すずちゃんの裾を咥え、何処かに引っ張っていこうとする。
「ぅぇ…ん、ひっく……。し、シロちゃんっ…? なに、どうしたのっ?」
「ヴァウ、ヴァウッ」
「見せたい物が、あるのっ?」
「ヴァウ!」
シロはコクリと頷くと、付いて来いとでも言うように走っていった。
「あっ、待って。待って、シロちゃん!」
すずちゃんが、急いでシロの後を追いかけていく。
その様子に、私と雪乃ちゃん達は顔を見合わせ、不思議に思いながらも付いていくのであった。
◇
シロの後についていくと、着いたのは開け放たれた一つの大きな扉の前だった。
「ここは…、【罠部屋】?」
ティアリスがポツリと呟く。
ここは、直線通路に入って直ぐの場所にある四方形の部屋の入り口だった。
この部屋は、ティアリス曰く【不測転移】という危険な罠が設置された部屋らしく、迷宮探索する上で無視したはずの部屋だった。
「なんで、扉が開いてるのでしょう…?」
私の隣にいた雪乃ちゃんが、疑問を口にする。
それもそのはずで、誰かが開けない限り、この扉は開かないようになっていたはずだ。
魔物は当然開けるわけないし、ここを通る冒険者も予めギルドで危険な罠の場所については聞いてるはずだから、態々この扉を開けることは無いだろう。
では、誰がこの扉を開けたのか。
「まさか……ッ!?」
そこまで考えて、皆ある可能性に行き着いた。
――鑑君が、この罠を利用して魔物から逃げるという、あまりにも無謀で馬鹿げた、最も最善の脱出方法を取ったということに。
運が良ければ生きているかもしれないという、絶望的でありながらゼロではない可能性に……。
◆
闇の中で、大きな哄笑が響く。
「ギャッハハハハハ!! そうか、そうかァ。上手くあいつを殺せたかァッ!!」
黒山羊の悪魔から報告を受けたその男、樋口は心底嬉しそう嗤う。
目を見開き、裂けているんじゃないかと思うほど口角を吊り上げて、醜い憎悪を満たせたことを喜ぶ。
「ああ…、やってやった。やってやったぞォ、これでヒメサキ達は俺のものだァッ!!」
狂ったように、樋口は一人嗤い続けた。
その様を、黒山羊の悪魔は実に面白そうに眺めていた……。
黒山羊の悪魔、お前もかッ!
それに対して、シロちゃんはイケメンですねー。
さて、誤字脱字がございましたら是非ご報告ください。
感想もお待ちしております。
次回予告:転移した鑑、目を覚ますとそこは見知らぬ樹海の中だった。本編スタート!!