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腐った卵を持って異世界へ~最弱のゾンビ練磨師の成り上がり~  作者: ClownCrown
本章~猛獣の樹海~
6/12

悪魔の謀略〈前〉

ここが、本編の入り口。

ちょっと長くなるので、〈前〉と〈後〉に分けたいと思います。

〈後〉は、明日中に更新できればと思っています。遅くなったらすみません。

深い、深い樹海の中。緑と闇が支配する樹木の迷宮で、


「クッソ、どうしてこうなったっ…!」


太い樹の幹に背中をつけ、息を出来る限り殺しながら鑑は小声でそう呟いた。


「GYARURURUUU……!!」


恐ろしい獣の唸り声が聞こえる。

ノシノシッという重い足音が聞こえる。

それ以外は何も聞こえない不気味なくらいの静寂が聞こえる。


死が、形を伴って直ぐそこにいるのを感じる。


(こんなもん、どうしろってんだよッ!?)


ここは、『樹海』。

高レベルの猛獣が闊歩する危険地帯であり、脱出困難とされる天然の迷宮であった。



事の発端は、数時間前に遡る。



「さっむ……!」


早朝、朝日も昇るか上らないかという時間帯。夜の間に冷え込んだ空気が肌を撫ぜ、鑑はブルリと身体を震わせる。

空を見上げれば雲ひとつ無い快晴で、星がまだ僅かに瞬いていた。

鑑は今、王城の廊下を通って中庭にある広場を目指していた。

途中、見回りの兵士と何度かすれ違い、会釈してやり過ごす。

彼らの目には、鑑の最弱っぷりを噂で知っているのか僅かに嘲る色が見えたが、一応鑑が勇者であるために何も言っては来なかった。


「あっ! かがみ~ん、おはよ~~っ!!」


そんな居心地の悪い廊下を踏破して広場に着くと、涼香が元気一杯に手を振って出迎えてくれた。後ろには、千代や雪乃の姿もある。


「おはよう、涼香。千代と雪乃も。」


鑑は、突っ込んできた涼香の頭を何時も通り撫でながら、千代と雪乃に挨拶を済ませる。


「うん、おはよう。」


「おはようございます、鑑さん。」


三人は、地球にいた頃と変わらずに鑑と接してくれていた。


「今日から、本格的に始まるんだね。」


千代が、広場に集まるクラスメイト達を見ながらポツリと言う。


「そうだな…。」


鑑達勇者がこんな朝早く呼び出されたのは、今日から迷宮で実戦的な訓練をするからだった。


樋口と戦った日から二週間ほどが経ち、鑑達が異世界に召喚されて凡そ一ヶ月。

これまでは、この世界の常識を学んだり、基礎体力作りや模擬戦、魔法の修練といった極々基本的な訓練を行ってきたのだが、一通りの訓練を終えて十分な地力を身に付けたと認められた勇者一行は、迷宮に潜ってレベル上げを行う運びとなったのである。


「……そういえば私、鑑さんが訓練している所を見たことが無いんですが、大丈夫なのですか?」


雪乃が、思い出したように心配そうに鑑を見た。


「そうだよそうだよ、かがみん訓練に全然来ないんだも~ん!! カッコイイとこ見せたかったのにぃ!」


「何してたの、鑑君?」


涼香は俺に抱きついたまま、顔を上げて頬を膨らませながら上目遣いで抗議してくる。

千代も雪乃のように若干心配そうに此方を見ていた。


事実、鑑は座学や魔法訓練以外には出てないし、夜行訓練のことも三人に話していない。だから、鑑が迷宮で怪我をしないか心配なのだろう。


「ま、色々だよ。これでも、それなりに自主練はしてたんだぞ? 自分の身を守るくらいどうってことない。……それに、俺は耐性あるけど、ゾンビの外見はちょっとグロイからなぁ…。流石に、一緒に訓練は出来ないって。」


「確かに、あれは…グロテスクでしたね……。」


雪乃たちは、ゾンビの姿を思い出したのか、少し顔を青くする。

年頃の女子高生、もとい日本人なら誰だってゾンビに対する嫌悪感はあるだろう。ゾンビの姿が許されるのは、あくまで映画の中だけなのである。


「…おっと、そろそろ始まるみたいだぞ?」


鑑を含め、三十一人が揃ったのだろう。設置された壇上にティアリスが上る。


「勇者様方、これから『狡猾の岩窟』という迷宮(ダンジョン)に向かいます。私や騎士が全力で補佐しますが、これは、訓練とは言っても命を懸けた実戦です。どうか、気を緩めずに闘って下さい。……それでは、出発しましょう!」


「「「オオオオォォォッ!!」」」


クラスメイト達が、騎士達が、皆声を上げる。

勇者一行の第一歩が、ようやく踏み出された。



九人ずつの班を作って帆馬車(ほろばしゃ)に乗りこんでいく。ちなみに、この班分けは、迷宮探索での冒険班としても機能することになっているらしい。

鑑は千代たちと一緒なのだが、クラスメイトの総数の問題で鑑達の班は四人だけとなってしまった。

クラスカースト的にも、戦力的にも千代たちと一緒に行こうとする奴らは多かったのだが、千代たちは頑として鑑から離れようとしなかったのだ。

元々、他に好き好んで最弱(ゾンビ)の鑑と班を組もうとする奴はいなかったので、そのまま最低人数の四人となったのであった。


「……なんか、すまん。俺のせいで、四人班になっちまって……。」


千代たちには、クラスで仲の良い友人だっている。その友人の誘いを断ってまで、自分と一緒の班になってくれたことを嬉しく思う反面、なんだか自分のことが酷く情けなくなった。


「気にしないで、鑑君。私達が好きでやってるんだから。」


「そうそう、ちーちゃんの言うとおりだよっ!! それに、涼香達はクラスの中でもトップ3だからね、大船に乗ったつもりでいればいいよ~~。 一人で、二人分の働きはしてみせるからね!」


「私達と鑑さんの仲です、これくらい当然ですよ。どれだけ一緒にいると思っているのですか?」


温かい言葉。

みるように、心に深く届いた。


「…ありがとな。」


本当、良い友人に恵まれたな。

絶対に、こいつらを守れるくらい強くならないと。女友達に守られてばかりってのは、男の沽券に関わる。

そして、いつか強くなったら、こいつらと一緒に駿や(日和)の下に帰るのだ。


鑑が決意を新たにし、千代たちがその様子に微笑む。和やかな雰囲気が帆馬車を満たし――


「……良い雰囲気の所悪いのですが、私も乗り込んでも良いでしょうか? 出発までもう時間が無いので。」


そこに、鈴のような声が投じられた。

鑑達がその出所を見ると、そこにはティアリスが立っていた。


「「「ティアリス王女っ!?」」」


千代たちは、その姿に驚愕に顔を染め、声を上げた。


ティアリス(・・・・・)、何でこの馬車に?」


鑑は、そんな千代たちを尻目に、慣れたようにティアリスに事情を聞く。


カガミ様(・・・・)達の馬車以外が満車でしたので、此方の馬車に来ました。班行動も出来るだけ一緒に行動するので、よろしくお願いしますね?」


「「「呼び捨てっ!? 王女様と名前を呼び合う仲っ!?」」」


(あ、そういえば最近夜行訓練にティアリスが参加するようになって、ずっと呼び捨てで話してたから敬称を付けるの忘れてた……。)


「か、鑑君っ!? ティアリス王女と何があったのっ!? 何時の間にっ、ねぇ何時の間に!?」


千代が涙目で鑑に詰め寄ってくる。若干ヒステリック気味で、ちょっと怖い。

まぁ、知らないうちに無礼でも働いてたら大変だもんな。千代は俺のことを心配してくれているのだ、きっと。


「あー…、なんていうかな。二週間くらい前から一緒に訓練してたんだよ。さっき言ってた自主練ってやつ。で、敬称付けたり苗字で呼ぶのを止めましょうって言われて……。」


「そ、そうだったんだ…。」


鑑の言葉を聞いて、落ち着いたのか千代が鑑から離れる。


「ぅぅ……強敵現る、だよぉ……。王女様と仲良くなるなんて、反則……。」


そのまま、帆馬車の奥の方で膝を抱えて俯いてしまった。

小声で何か言ってるようだが、良く聞き取れない。


「あの、何かヒメサキ様にしてしまったでしょうか?」


千代の様子が途端に悪くなってしまったことに、戸惑っているティアリス。

ティアリスは鑑に視線を向け、どうすれば良いか問うてくるが、その質問に答えられる回答を生憎と鑑は持ち合わせていなかった。


「ティアリス様、気にせずにどうぞ乗ってください。彼女なら、直ぐに元気になりますので。」


見かねたように、雪乃が助け舟を出してくる。

雪乃も涼香も若干苦笑い気味なのは、見間違いではないだろう。


「わ、分かりました。」


未だ戸惑った様子でティアリスが馬車に乗り込む。


数分もしないうちに、馬車は動き始めた。



ガタガタッと馬車が揺れる。

王城から出て王都にいたときはもうちょっとマシだったのだが、外に出た瞬間に舗装されてない道の石やら凹凸やらで馬車が激しく揺れるようになった。

現代日本の車や道路に慣れてしまっているためか、どうもこの馬車の乗り居心地は悪かった。


三、四時間ほどそうして揺られていただろうか。


そろそろ鑑達の尻が痺れて限界に達し始めた頃、


「そろそろですね。」


ティアリスが帆馬車の外を見ながら、そう言った。


ガクンッと馬車が止まる。


「着きましたぜ、お城の方々。」


恰幅の良い御者ぎょしゃの男が、幌の中の鑑達に振り返ってそう告げる。

鑑達は、御者の男に礼を言ってから馬車を降りた。


草原に足を着ける。空を見上げれば、何時の間にか太陽が高くに昇っていた。

優しい風が鑑達の頬を撫ぜる。


鑑は、良い天気に気分を良くしながら、先頭の幌馬車がある方に目を向ける。


その先に見えるのは、


「でかい、な……。」


岩肌を晒し、高く聳えた無骨な山だった。

そして、その山肌にポッカリと大きな穴が開いているのが見える。きっと、あれが『狡猾の岩窟』だろう。

クラスメイト達にも目を向ければ、その圧巻の光景に呆けたように見上げているのが見えた。


「おおきいね~~、かがみん。ねっ、ゆきのん、ちーちゃん!」


涼香も自然の壮大さに大興奮のようだ。凄いすごーい、と大はしゃぎしている。


「ええ、凄いですね。こんなに大きな山や洞窟を見たのは初めてです。」


「うぅ、あそこに入るのか…。暗くて怖そうだなぁ。」


「大丈夫ですよ、ヒメサキ様。洞窟の中には、ヒカリゴケが生えていてそれなりに明るいですから。」


三者三様の感想を口にして、鑑達は『狡猾の岩窟』向かった。



クソ、クソ、クソクソクソッッ!!!!


樋口一哉(ひぐち かずや)の頭の中は、憎しみや嫉妬、怒りといった負の感情で満たされていた。

最弱であるはずの鑑に、油断していたとはいえ倒されたあの日から二週間ずっと、樋口の心の中にはドロドロと醜い殺意と悪意が絶え間なく湧き続けていた。


更にそれに追い討ちをかけたのが、先ほどの班編成だった。

樋口は、千代に一緒の班にならないかと誘ったのだが、それをあえなく一蹴されたのだ。


――鑑君を苦しめてきたそんな汚い手で、私に触らないで。


強引に腕を掴もうとしたときの千代の台詞を思いだす。


(あいつがァ、あいつがいるからァッッ!!!)


暗い炎が心の奥に灯る。

自分の視線に気付かない鑑に、憎しみの視線を注ぎ続ける。


(そうだ、良いことを思い付いたァ…!)


その時、天啓の如く。樋口の頭の中にある考えが浮かんだ。


それは―――



ゾクリッ。


背筋が凍るような感じがして、鑑は思わず後ろを振り向いた。


(なんだ、今の…?)


嫌な感じだ。なにか、良くないことが起きる気がする。


「どうしたの、鑑君?」


様子のおかしい鑑に、千代が首を傾げて訊いてくる。


「……いや、なんでもない。」


鑑は、悪い予感を頭を振って追い払うと、何時も通りを装って千代たちの所に駆け寄った。


樋口君、また君かッ!?


誤字脱字や矛盾点等がございましたら、是非ご報告ください。

また、感想を頂けると作者が歓喜のあまり号泣します。

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